第11話 最後の二人
微かだだが耳に何か聞こえる。
「おい!出るな。やつらの仲間だったらどうする!」
誰かが蚊の鳴くような小さな声で話している。
すると多田さんが横にあった窓を開けた。
倉庫が月明かりで顔が判別できるくらいに明るくなると、2人の警察官が見えた。
「お前ら笹見の一味か!?」
坊主で体育会系の顔でガッチリとした警察官が睨んで言ってきた。名札には後藤と書いてある。
「笹見ってさっきの?違う。俺たちは外から来たんだ。あいつらとは関係ない!」
「外?」
そして急に血相を変え、多田さんに問いただす。
「外はどうなっているんだ!?!?普通なのか!?みんな普通に暮らしているのか!?どうなんだ!?」
多田さんは一瞬言葉に詰まり、下を向く。
「・・・普通じゃない。地獄だ。ちょっと前まで普通だった仲間が、急に俺たちに襲いかかってくる。もう数え切れないほど仲間は殺された。それも民間人にだ!俺たちは国民を守るために働いているのに!・・・多分もう、生存者は残っていないんじゃないか?」
「嘘だろ・・・!」
後藤さんから涙があふれている。
「嘘だ!じゃあ俺の家族もみんな・・・」
後藤さんは思いっきりコンクリートの壁を一発殴った。
そのまま崩れ泣いていた。
「ここで何があったんだ?なんで笹見ってやつは人間を食うんだ?」
すると後藤の隣にいた同じような体系で頭はスポーツ刈り、名札には倉澤と刻まれた警察官が、しゃべれない後藤の代わりに教えてくれた。
「28日の朝、急に仲間に起こされた。そいつが言うには、笹見が学生全員を体育館に呼んでいる、ということだった。急いで体育館行くとほぼ全員の学生が集まっていた。そして点呼をとらせ、全員集まったことが確認されると、笹見は話し始めました。
『諸君、この薬を知っているかね。注射器の中に入れているからわからないかもしれんが、この薬はすごい!なんと体力が何倍にも、そして運動能力も!これで試験も乗り越えられる。』
みんな興味津々だった。
『どうだ、使ってみたくないか?』
当然体力の自信の無い者、成績が悪い者、ほぼ全員がその注射を打ちたいと言った。そして学校の半分以上が実際に打った。そして何故か、その注射を打った者と打っていない者に、クラスわけされた。
そして次の日の朝、悲鳴とともに目が覚めた。すぐに着替え、廊下に行くと高橋が卜部の首に噛み付いていた。そこに他のやつらも集まり、卜部の体のあちらこちらを噛みちぎっていた。そして当然仲間は止めに入った。しかし、そいつらまでやつらの餌食になった。
すぐに俺と後藤は教官のところへと走った。ようやく見つけたと思ったら、笹見教官が体育館で西教官を食っていた。他の教官の食われた残骸が散らばっていた。俺たちが逃げようとすると・・・もう遅かった。周りは囲まれ100人くらいのやつが捕まった。そしてこの倉庫へぶち込まれた。」
「他の98人はどこに?」
「みんなやられたよ。あいつらから見ればここは食料庫だ。腹がすいたときにこの中から2,3人連れていって食う。そのたんびに悲鳴が聞こえて、みんな毎日震えていた。いつ自分の番がくるかってね。お前らがちょっと来る前にも2人連れて行かれたよ。」
「2人!?俺たちが見たのは1人だが・・・?」
「本当か?じゃあどっかに逃げたんだな。でも直に捕まるさ。」
その時、ライオンのような悲痛な叫び声が聞こえた。
「ああ、捕まったな。かわいそうに。おい後藤、次は俺たちだぞ。」
倉澤さんは慣れた口調でそう言った。
「ここから逃げる方法は無いのか!?」
「さっき開けた窓から逃げれば。ま、出た瞬間射殺だけどな。」
その言葉に松尾がキレた。
「なんなんだてめぇは!さっきから慣れた口調で言いやがって!俺たちに死ねと言ってんのか!?!?」
「誰も死ねとは言っていない。ここにきた以上死ぬしか道は無いと言っているんだ。」
「俺だって好きで言っているわけじゃない。俺たちも御前らと同じ事を初めは考えた。でも無理だった。窓から出ることは出来ても、見張りに見つかって殺される。他に出口が無いかも探した。でも無かった。みんな泣く事しか出来なかった。こうなるなら警官になるんじゃなかったなぁ・・・。」
倉澤さんは笑いながら、目から涙を流していた。
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