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Model  作者: 南 晶
第1章
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第4話

「嫌だ!断わる!んな事、出来るわけねーだろ!」


 俺は、ずるずると後ずさったまま、狭い部屋の壁に衝突した。

 その俺を追いかけて、四つん這いで桃子は更ににじり寄ってくる。

 その姿はまさに巨大なハムスターだ。


「いいじゃない、減るもんじゃないし。かわいい妹が芸術の為にお願いしてるのよ」


 上目遣いでパチパチ瞬きしながら、桃子は高い声でシナを作る。


「それがかわいいと思ってんのか?だとしたらお前はもう病気だ」

「失礼ね。リュウ兄ちゃんだってモデルになって入選したら、ダビデ像みたいに市役所とかに飾って貰えるかもよ。伝説になるじゃん」

「自分の裸体の銅像が市役所に飾られて嬉しい訳ねえだろ!」


 想像してみて俺はゾっとする。

 パンツも履いてない銅像のモデルが俺だなんて、こいつの口が裂けても絶対に言わせない。

 桃子は壁に追い詰められた俺に接近し、作業着に手をかけた。

 ファスナーを摘んで、少しづつ下げていく。

 俺はその白いむくむくした手首を掴んで、最後まで下げられるのを何とか阻止した。

 二人で向き合ってハアハア肩で息をしながら、しばし停止する。


「落ち着け、俺はまだ許可してない」

「何で?」

「何でって、俺たちは兄妹だろ?そういうお願いは彼氏にしろ」

「そんなの、いないもん」


 桃子の迫ってくる力が初めて緩んだ。

 ぶすっとして、彼女は横を向く。

 俺はその隙に、急いでファスナーを首まで引っ張り上げる。

 危ないとこだった。


「ああ、そうか。三次元の男に興味なかったんだっけ?」

「そうよ。それに、男の子なんかキライだもん」


 それはハムスターが俺に見せた初めての女の子っぽい顔だった。

 何はともかく、正気に戻ったらしい。

 俺はやっと立ち上がった。


「男嫌いなのに、よく男同士がセックスしてるマンガ読むね」

「ほっといてよ。リュウ兄に芸術は解んないんだよ」


 呆れる俺に桃子はぶーたれて言った。

 俺はフェイドアウトしようと、壁伝いにそっと入り口の方へ向った。

 逃げるなら今のうちだ。

 靴を履いてから、俺は座り込んでる桃子の背中に向って言った。


「ごめん!俺、芸術は分かんない。チョコケーキご馳走様!」


 桃子は返事もしないで肩を落としている。

 首が下がると、丸い背中が更にまん丸だ。

 必要以上に落胆している彼女が少し気になったが、俺はこれ以上、この件に関りたくなくて学生寮を飛び出した。





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