第22話
リュウ兄ちゃんの胸の上であたしは抱きしめられたまま、彼のキスを必死で受け止めた。
微かに感じるタバコの匂い。
無意識に強張っていくあたしの背中を、怯えた犬を落ち着かせるようにリュウ兄はゴシゴシさする。
「力抜けよ・・・。怖くないから」
言われた通りに必死で目を瞑っているあたしの唇に、彼の唇の感触が伝わる。
やがて、濡れた温かいものがあたしの唇を押し開け、侵入してきた。
ちょ、ちょっとリュウ兄ちゃん・・・!
あたしがパニくってる間にも、彼の舌はあたしの舌を絡めていく。
不思議な事にあんなに緊張して強張っていたあたしの体から、今度は力が抜けていく。
完全に脱力した時、リュウ兄の両腕はあたしを解放した。
起き上がる力も出なくって、あたしはそのまま彼の胸の上に打ち上げられたアザラシみたいに載っていた。
休むことなくリュウ兄の手は優しく、あたしの背中をさすってくれる。
その温かさと優しさに、あたしは胸が締め付けられた。
ぽろぽろ溢れてきた涙があたしの頬を伝って、リュウ兄の裸の胸にポタポタ落ちる。
彼はあたしをもう一度抱きしめ、手繰り寄せると、あたしの顔にキスしながら涙を舐め取った。
まるで母犬が子犬を慈しむみたいに。
どうしよう。
この人が好き。
大好き・・・!
「・・・リュウ兄・・・」
「・・・何?」
「今日はリュウ兄はあたしの彼氏なんだよね」
「ああ」
「・・・お願いして・・・いいのかな?」
あたしは爆発しそうに赤面してやっとそこまで言った。
リュウ兄は優しい顔であたしを見てる。
もう分かってるんだ。
あたしのお願い。
返事の代わりに、彼の大きな手はあたしの髪をすくい、首筋を触り、頬をなでる。
初めて感じる体の奥からやってくる大きな波の予感。
あたしの呼吸が乱れてくる。
どうしよう。
ふいにリュウ兄は立ち上がった。
アザラシみたいにソファに転がるあたしの体の下に、両腕を差し入れガバっと持ち上げる。
うわ!
お姫様だっこだ!
あたしは感激した。
あたしを持ち上げる彼の両腕は筋肉が盛り上がって張り詰め、ものすごい負担がかかっているのが分かる。
「ベンチプレス60Kgだな」
「ごめん・・・。65Kgだよ」
申し訳なさそうに訂正したあたしを見て、リュウ兄は笑う。
「ジムで100Kgまで上げた事あるから、大丈夫だよ」
あたしをお姫様みたいに横抱きしたまま、リュウ兄はベッドに向ってゆっくり歩いていく。
弾力のあるベッドの上に、そっとあたしを横たえると彼も並んで横になった。
お互い向かい合った姿勢になってから、彼はあたしの頬に手を伸ばした。
少し戸惑った顔で、彼は口を開く。
「俺でいい?」
「・・・うん」
「俺、兄貴だけど?」
「いいの・・・、リュウ兄がいいの!お願い・・・」
あたしの返事にリュウ兄は少し笑みを浮かべてから、真面目な顔になった。
リュウ兄も緊張してるんだ。
その時、あたしには分かってた。
あたしの初めての体験は残念だけど、悲惨な思い出となってしまった。
この過去の記憶を塗り替えることができるのは、もうこの人しかいないんだ。
リュウ兄はもう一度あたしを抱き寄せ、唇を重ねた。
濃厚な、でも、優しいキスだった。
右腕であたしの頭を抱きながら、彼のもう一方の手はあたしの着ていたバスローブの中に侵入する。
温かい、大きな手があたしの体をゆっくり滑っていく。
やがて、今まで誰にも触れられたことのなかった大切な部分に指が触れた時、あたしは思わず声を上げた。
その声の大きさに一瞬、彼の手は動きを止める。
それがあたしの悦びの声だったのを確認した後、再び指は動き始めた。
敏感な部分に絶妙な刺激を感じて、あたしは耐えられず、リュウ兄の首にしがみ付く。
その刺激は小さなさざ波となり、大きなうねりとなって、あたしの体全体に襲い掛かる。
「あ、や、あ・・!」
頭が真っ白になるような突き上げてくる快感に、あたしは泣きながら彼の背中に爪を立てた。
首にしがみ付いたあたしの耳元に、彼の息がかかる。
「桃子・・・桃子・・・」
最後の快感が突き抜けるその瞬間まで、リュウ兄はあたしの名を呼びながら、抱きしめていてくれた。
自分がどうして泣いているのか、もう訳わかんない。
あたしは痙攣する体をリュウ兄の胸に委ね、ただ泣き続けた。
リュウ兄は終始無言だった。
あたしの体の痙攣が治まるのを待って、再び、優しいキスを体中に撒き散らす。
あたしの唇に触れた後、首に舌を這わせ、胸の敏感な部分を噛み、そしてさっきまで指が蠢いていた場所を開くとそこにもそっと舌を這わす。
真っ白になっていく頭。
こみ上げてくる快感。
あたしは両手で顔を覆って、それに耐えながらまた泣いた。
「桃子、やめるなら今だけど?」
低い声で吐息みたいにリュウ兄は耳に囁く。
「や、やめるの・・・?」
激しくなった呼吸の下で、あたしは喘ぎながら絶望の声を出した。
あたしの声に彼は溜息みたいに小さく笑った。
「だから、聞いてる。これ以上したらやめれなくなりそうだ」
「やだ・・・やめないでよ・・・」
「俺、兄貴だよ?」
真面目な顔で彼は問いかける。
あたしは泣きながら懇願した。
「リュウ兄が好きなの!お願い!もっと来てよ・・!もっと近くまで・・・」
彼は少し笑ってあたしを見下ろした。
それが応えだった。
彼はあたしの足を持ち上げキスすると、優雅な仕草で自分の肩に乗せ、言った。
「了解」
何て表現したらいい?
大好きな人と一つになったその瞬間。
ものすごい痛みと、それを上回って突き上げてくる快感。
あたしは彼に身を委ねてただ泣き続けていた。