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Model  作者: 南 晶
第2章
17/30

第17話

 校門を抜け、あたし達は学校から少し離れたコインパーキングに辿り着いた。

 朝、あたし達はここに車を留めて、大学に向ったんだ。

 リュウ兄が精算してる間、運動不足でコレステロール値も高いあたしは、アスファルトに座り込んでゼエゼエ肺の奥から息をした。

 リュウ兄の行動は迅速だった。

 助手席のドアを開けると、まだヒーヒー言っているあたしをグイグイ押し込み、自分もさっさと運転席に乗り込むと、エンジンをかける。


「飛ばすぞ、ベルトしとけよ」


 言うや否や、リュウ兄はアクセルを踏み込み、ハンドルを切った。

 その勢いで、あたしは顔から窓ガラスにベタっと押し付けられる。

 エンジン全開で駐車場から飛び出した車は、車道に出るとドリフトをして向きを変えた。

 キキキー!とタイヤは悲鳴を上げ、ノロノロ歩いていた通行人が飛びのいて道をあける。


 な、なにもここから飛ばさなくてもいいでしょ!

 あたしは泣きそうになってベルトに掴まった。


 あたしの呼吸が何とか収まった頃、車は国道一号線に入った。

 まだ免許を取ってないあたしには、どっちに向ってるのかもさっぱり分からない。


「あー!気持ち良かった!久々に人殴ったぜ!」


 突然、高笑いしながらリュウ兄ちゃんが叫んだ。

 あたしは恨めしそうな顔をして、その横顔を睨む。


「気持ち良かった、じゃないでしょ!嘘つき!最初からケンカするつもりだったんだね!」


 ポカポカ殴りかかるあたしの手を、リュウ兄は運転しながら左手で器用に遮る。


「当ったりめえじゃん。俺は不良だからな。でも、あんな弱い奴とやったの初めてだ。もっとやっときゃ良かった」

「何言ってんのー!逮捕されちゃうよ!被害届けでも出されたら・・・」


 あたしの言葉にリュウ兄はおかしそうに笑った。


「分かってるって。俺は経験者だからな。まあ、出すに決まってるよ。大学の物もかなり壊したしな。だから明日出頭する」

「え・・・?」


 あたしはその言葉に青くなった。

 今更ながら、彼がしたことの重大さに気付いた。


「・・・警察に行くってこと?」

「行くよ。自首する。ただし、明日な。今日は逃げ切るぞ」


 ハハハ・・・とリュウ兄は高らかに笑う。

 何が可笑しいの?

 自首したら、逮捕されちゃうじゃん!


「やだよ。リュウ兄はあたしの為にやったんだもん。そりゃ、ケンカはまずかったけど、元はと言えば佐藤先輩があたしを・・・」

「桃子!」


 言いかけたあたしをリュウ兄が制した。


「お前は関係ないからな。何も言わなくていい。俺が勝手に手ぇ出したんだから。大丈夫、警察は慣れてる」


 慣れてるって、補導されてたのはまだ未成年の時じゃん。

 社会人になってから逮捕されたら刑務所じゃないの?

 あたしの気を知ってか知らずか、リュウ兄は涼しい顔をして窓を開けると、タバコに火をつけた。

 煙と一緒に外の風が吹き込んできて、あたしの髪が四方になびいた。


「バカ・・・。リュウ兄ちゃんのバカ・・・!」


 黙り込んだあたしを見て、リュウ兄は言った。


「なあ、桃子。今から海行かねえ?」

「はあ?何、呑気な事言ってんのよ?」


 突然の提案にあたしの声がひっくり返る。

 リュウ兄は楽しそうに、笑いながら続ける。


「いーじゃん。俺、この街嫌いなんだよ。工場ばっかでゴタゴタしててさ。なあ、海行こうぜ」

「そ、それどこじゃないでしょ?逮捕は?」

「だから、今日だけ。執行猶予だ。今までのモデル料の代わりに俺に付き合え」


 リュウ兄はアクセルを踏み込む。

 その時、気が付いた。

 車のナビゲーターは既に海に向って南下するルートを示している。

 目的地まで設定されている。

 到着予定時刻13:30

 目的地は伊良湖岬。


 あたしはやっと理解した。

 ここまで、リュウ兄は計画済みだったんだ。

 逮捕覚悟で暴れた後、海で最後の時を過ごして、翌日自首。

 最初から、刑務所に入る事まで予定に入ってるんだ。

 あたしのために・・・!


 こぼれる涙はもう止めようがなかった。

 しゃくり上げて泣き出したあたしの頭を、リュウ兄の左手がクシャクシャなでる。


「泣くなよ、バーカ。今日はお前は俺の彼女だ、いいな」


 リュウ兄は可笑しそうに笑ってハンドルを切った。



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