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窓の外の世界 恋する勇気のない私たち  作者: chippirock
rain

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30/32

30 Iris

「見てた俺にキスされた感想は?」

その瞬間だった。

エミリーの表情が変わった。

さっきまでの驚きでも、戸惑いでもない。

まっすぐ俺を見ている。

鋭い目。

そして、短く言う。

「……最悪」

一瞬、意味が分からなかった。

次の瞬間。

ぱん、と乾いた音が車の中に響いた。頬に衝撃が走る。俺の顔が少し横に揺れる。

……叩かれた。

理解するまで、ほんの一瞬かかる。

その間に、エミリーはもう動いていた。

腕を振りほき、ドアを掴む。

がちゃ、と音がしてドアが開く。

外の雨音が一気に車内へ流れ込んだ。ざああ、と激しい音。冷たい空気。

俺はまだ動けない。頭の中が、真っ白だった。

何が起きた?本当に。理解が追いつかない。

エミリーはもう車の外に立っている。

雨の中。パーカーを着たまま振り返った。

その顔を見る。

怒っている。はっきり分かる。

そして、エミリーは指を立てた。

中指。まっすぐ俺に向けて。

それでも声は、妙に落ち着いていた。

「送ってくれてありがとう」

それだけ言って、ドアが閉まる。

ばたん、と重い音。その音が、妙に大きく響いた。

俺はまだ運転席に座ったまま動けない。

エミリーは玄関の方へ歩いていく。

雨が強い。

街灯の下で、パーカーが濡れていく。

玄関のドアが開き、エミリーが中に入る。

そして——ドアが閉まる。

視界からエミリーが消えた。


……。

しばらく、何も考えられなかった。

ただエミリーが去った先を見ていた。

雨がフロントガラスを叩く。

ワイパーが動く。

しゃっ、しゃっ。

頬がじんじんする。

そこではじめて、自分が叩かれたことをはっきり思い出す。

……。

さっきの出来事が、少しずつ頭の中に戻ってくる。

腕を掴んだ。引いた。押し倒した。キスをした。

そして——叩かれた。

俺は小さく息を吐いた。

……何してんだよ。どうして、あんなことを。

さっきまでの自分の行動を思い返す。

意味が分からない。本当に。どうしてあんなことをした。

そんな疑問が浮かんだのは、一瞬だった。

次の瞬間には、別の感情が広がる。

苛立ち。

胸の奥にじわじわ広がる。

……は?なんでだよ。

俺にキスされたら、普通もう少し違う反応だろ。

別に無理やり押さえつけたわけじゃない。

キスくらい。

この歳で、一度もないわけないだろ。

キスくらいで、あんな怒るか?

思考が、だんだん荒くなっていく。

いつもなら。

こんな流れになったら、そのまま最後までいく。

何度も経験してきた。女のほうだって分かってる。それが普通だ。

なのに——なんであんな顔する。

なんで叩く。

胸の奥の苛立ちは、さらに強くなる。

頭に浮かぶのはノア。

……あいつとはキスしたくせに。

俺はハンドルを握る手に力を入れた。

ノアと、あんな距離にいたのは知っている。

一緒の部屋にいたのも。笑っていたのも。見ていた。全部。

なのに。

俺がしたら、最悪?意味が分からない。

胸の奥がざらつく。

苛立ちがどんどん膨らむ。

自分が何をしたのか。どうしてしたのか。

そんなことを考える余裕は、もうなかった。


俺はエンジンを吹かす。

車を発進させる。

タイヤが濡れた道路を滑るように進む。

雨の中を走る。

頭の中は、まだぐちゃぐちゃだった。

でも、その中心にあるのは。

反省でも、後悔でもない。ただの苛立ちだった。

俺はそのまま家の方向へ車を向けた。

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