表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
窓の外の世界 恋する勇気のない私たち  作者: chippirock
prologue

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/33

11 Iris prologue

クリスマスイブの夜だった。

家は明るかった。けれど、静かだった。

大きなツリー。赤いリボン。暖炉の火。高い天井に吊られたガラスの飾り。

すべてが完璧で、すべてが遠かった。

父は仕事の電話をしていた。

母は誰かにメッセージを打っちながら笑っている。でも、誰にも向けていない笑顔だった。

僕は二階の自分の部屋にいた。3歳のノアはもう寝ている。

僕は5歳だった。


ベッドの上に膝を立てて、小さなライトを握っていた。

サンタクロースを見るためだ。本当に来るのか、確かめたかった。

部屋の電気は消してある。暗い。少しだけ怖い。だから、ライトをつけた。丸いプラスチックのライト。柔らかい光。部屋の中を星みたいに小さく照らす。

窓の外は、冬の夜だった。空は深い青で、庭の木は黒い影になっている。

門の前には車が停まっている。いつもの黒い車。門の横には警備の人。

ここは、そういう家だった。

でもその夜、僕の目は違う場所を見ていた。向かいの家。小さな家。二階の窓。

そこに——光があった。

小さな光。

最初は家の僕の家の光が窓に反射した光だと思った。

でも、動いた。僕は窓に近づく。

窓の向こう。女の子がいた。同じくらいの年だ。ベッドの上に座っている。胸の前にライトを抱えている。丸い光。

僕と同じだった。

その瞬間、胸の奥が、少しだけ跳ねた。

僕は、そっとライトを持ち上げ、窓のほうへ向ける。

向こうの女の子が顔を上げた。

目が合った気がした。

彼女が、手を振ってきた。小さな手。迷いのない動き。

僕は、少しだけ驚いた。知らない人に手を振られることなんて、今までなかったからだ。

でも、なぜか嫌じゃなかった。

僕も手を振った。

窓と窓の距離は遠い。声は届かない。でも、光は届いた。


彼女がベッドの上で立ち上がる。

変な顔をする。

舌を出す。

頬を膨らませる。

僕は思わず笑った。

笑いながら、同じ顔を返す。

彼女はもっと変な顔をした。

負けたくなくて、僕も変な顔をする。

声は聞こえない。でも、笑っているのは分かった。

窓と窓のあいだに、静かな夜があった。そこには確かに何かがあった。光。秘密。


僕はその夜、サンタクロースを見なかった。

でも、それより大切なものを見つけた。

向かいの窓の女の子。

次の日も、その次の日も、僕は夜になると窓に立った。

彼女もいた。

ライトを振る。紙を見せる。

"HELLO"

僕は少し考えてから紙を書いた。

"L"

それだけ。名前を書くのが、少し怖かった。

でも彼女は笑った。

その日から、夜は特別になった。


昼間、僕たちは一度も会うことは無かった。

僕は家の裏口に行く事は無いし、彼女も僕の家に近付くことは無い。

でも、夜は確かに一緒にいた。

暗い部屋。小さな光。窓と窓。そして、彼女。

その女の子を、僕はまだ名前で呼んだことはない。

ただ、思っていた。

——あの子がいる。

それだけで、夜は少しだけ温かかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ