1 helios prologue
5歳のクリスマスイブ。
私はサンタクロースを待っていた。
部屋の電気は消して、ベッドの上に膝を立てて座る。
暗いのが少し怖くて、小さなライトを胸に抱えていた。丸いプラスチックのそれは、ホタルのような光を放っている。
窓の外は静かだった。
トナカイの鈴の音なんて、どこからも聞こえてこない。
ガラスに息を吹きかけると、白く曇った。指で丸を描いて、空を覗く。
眠気がじわじわと足元から上がってくる。
そのときだった。
向かいの家の二階。
暗闇の中に、ぽつりと小さな光が灯った。
最初は星かと思った。でも違う。
同じ高さ。同じくらいの、小さな灯り。
目を凝らす。
——誰かいる。
窓辺に、男の子がいた。
私と同じくらいの年に見える。彼も、何かを抱えている。たぶん、ライト。
私はそっと、自分のライトを窓に向けた。
彼が顔を上げる。
目が合った気がした。
胸が、どきんと鳴る。
私は、手を振った。
ほんの一瞬の間のあと、彼も、手を振り返した。
声は届かない。
窓も開けられない。
でも、光は届く。
私はベッドの上で立ち上がり、変な顔をした。
彼も、負けじと変な顔をする。
笑い声は聞こえないのに、笑っているのが分かった。
その夜、サンタクロースは見られなかった。
気づいたら朝だった。
けれど私は、プレゼントよりも大切なものを手に入れていた。
夜だけの、秘密。
それから私たちは、何度も光を交わした。
紙に大きな文字を書いて、窓に貼る。
“HELLO”
“HI”
“NAME?”
彼は“L”とだけ書いて、すぐに紙を引っ込めた。
昼間、外で会ったことは一度もない。
なぜか分かっていた。
彼の家は大きくて、黒い車が停まっていて、
門の前には見慣れない大人が立っている。
住む世界が、少し違う。
でも、夜は同じだった。
今日は会えるかな。会えたらいいな。
それだけで、一日が終わる。
ある日。
彼の窓に、カーテンが引かれた。
ぴたり、と。
そのまま、二度と開かなくなった。
私は知っている。
彼は今でもあの部屋にいることを。
灯りがつくこともある。
でも、カーテンは閉じられたまま。
それでも私は、今もベッドに座って、窓の外を見る。
向かいの、閉ざされた窓を。




