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第2話 眼鏡と妖精、さらに……触手(その4)

 そんな記憶を瞬時によぎらせた充駆に、ボレロが続ける。

「その充駆が死んだことをなかったことにした結果、イートンは善行ポイントゼロの上、小さな(こんな)身体になっちまったことで四十年ぶりの大会に参加できなくなったっす」

 そして、ずいと顔を寄せて声を荒らげる。

「にもかかわらず充駆のその態度はなんなんすかっ。もっと真面目に生きるっす。あまりにもイートンが報われないっす。それを言いに来たっす」

「えと……つまり――」

 充駆はイートンとボレロを見比べる。

「――イートンが僕を生き返らせたってこと……?」

「いえ、そうじゃなくて」

 イートンが割って入る。

「生き返らせたんじゃなくて、死んだのをなかったことにしたんです。その直前のできごとも含めて」

 細かいことはわからないが、死んでたはずの充駆をイートンが助けてくれた――これだけはまちがいないことが理解できた。

 だからこそ充駆はつぶやく。

「よけいなことを……」

「は?」

「え?」

 その言葉に耳を疑うボレロとイートンに続ける。

「そんなことができるなら……どうして半年前に理未を……」

 そこまで言った時、ふと、殺気を感じた。

 いつからか、ボレロの向こうにもうひとり少女がいる。

 その殺気を感じたらしいボレロとイートンが振り返る。

 ワンレンショートの下から三白眼でこっちを見ている少女が身につけているのはテレビやマンガでしか見たことのないスクールセーター。

「これがうわさの……」

 思わずつぶやく充駆をよそに、スクールセーターはボレロとイートンを見たまま吐き捨てるようにささやく。

「まさか……こんな所で遭遇するとか……」

 そして、右手を突き出す。

 セーターの袖口から伸びたのは一本の触手。

 触手は一直線にボレロに向かう。その身体を貫くような勢いで。

 しかし、直後に触手の先端が切断され宙に舞う。ボレロがいつのまにか握りしめている太刀によって。

「こんなとこでなにしてるっすか」

 そう言ってボレロが太刀を構える。

「ふん」

 スクールセーターが再生した触手を改めて伸ばす。

 ボレロが再度切断しようと太刀を振り下ろす。

 しかし、触手はその太刀をヘビのようにかわしてボレロの腰に絡みつく。

 そして、ぎゅっと締め上げると間髪入れずにボレロを持ち上げ、空の彼方へ投げ捨てた。

 その様子をぽかんと見ていた充駆とイートンが我に帰る。

 そこへスクールセーターが触手を突き出す。

 狙っているのは充駆――ではなくイートン。

 それを悟った充駆は、無意識のうちにイートンを両手で包み込むとかばうように胸元へ引き寄せる。

 スクールセーターが忌々しげにつぶやく。

「ふ……人間が……ジャマを」

 イートンをとらえ損ねた触手が不自然に軌道を変えて充駆の首に巻き付いた。

 触手はそのまま充駆の首を締め上げる。

 手の中のイートンが指の間から身を乗り出して充駆を見上げている。

「わ、私を離してください。狙ってるのが私なら、私を離せば触手は解かれるはずですっ」

 しかし、充駆は離さない。

 首を締め上げられ朦朧もうろうとなりつつある意識が身体を動かさない。

「充駆さんっ。早くっ」

 手の中でイートンが叫ぶ。

 同時に充駆は全身が痺れるのを感じた。

 次の瞬間、頭上から怒声が降ってくる。

「離れるっす。てめえがっ」

 落ちてくる怒声の主は、さっき放り投げられたボレロ。

 右手に握った太刀で着地ざまに充駆の首を締め上げる触手を切断する。

 充駆がむせながら後方へとよろめく。

 その姿にスクールセーターが目を見張っている。

 ボレロもまだ口をあんぐりと開いている。

「これは……なぜ……」

 つぶやいたスクールセーターが舌打ちをしながら、左手を広げる。

 その手の中に現れたのはスマートホン。

 スクールセーターがせわしなくスマホに指を這わせる。

 直後にその姿が跡形もなく消え失せた。

 充駆は――

「なんかわからんが助かった」

 ――ひとりごちながら、がくりと片方のヒザをついて頭を垂れる。

 そして、固まる。

 垂れた頭の目線の先で、地面についているのは見慣れた制服のズボンに包まれた自分の足――ではなく、プリーツスカートから伸びる華奢な足だった。


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