第2話 眼鏡と妖精、さらに……触手(その3)
忘れた宿題を残ってやらされていた充駆が解放されて帰ろうとしたら、となりの教室から話し声が聞こえた。
覗いてみるとエロ槻とエロ槻に迫られている祐未がいた。
明らかに不快な表情を浮かべている祐未の手をエロ槻が握った。
それを見た瞬間、充駆は考えるよりも先に教室に飛び込んでいた。
ふたりの視線が充駆に向く。
一方の充駆は、勢いで飛びこんだものの次はどうしていいかわからず立ち尽くす。
一瞬だけ緩んだエロ槻の手をふりほどいた祐未が充駆の背後に身を寄せる。
そのまま一緒に教室から逃げようと考えた充駆だが、祐未はじっと充駆の背後から動かない。
その理由に充駆はすぐ気づく。
エロ槻がいる祐未の席にスクールバッグが置きっぱなしだった。
それを残して逃げるわけにはいかないのだろう、教室をあとにするわけにはいかないのだろう。
いきなり飛び込んできた充駆の存在に最初こそ驚いた表情を浮かべたエロ槻だが、大人の余裕からかすぐにいつものうすら笑いを浮かべて充駆に問い掛ける。
「なんだ、高見。残っていたのか?」
充駆はその言葉を聞きながら、背後で震える祐未を庇ったまま後ずさりを始める。
そんなふたりの様子にエロ槻は言い繕っても無駄だと悟ったらしい。
「高見は……騎士様のつもりか?」
充駆は答えない。
というよりも答えられない、言葉が出ない。
その様子にエロ槻がさすがは教師っぽく分析してみせる。
「なにも考えず飛び込んできたか? 次はどうするんだ? 祐未をどう守る? オマエになにができるんだ?」
挑発するようなエロ槻に充駆はなにも反応できない。
返事を待っても無駄だと悟ったらしいエロ槻が促す。
「じゃあ、死ね」
反応したのは祐未だった。
「な、なに言って……」
エロ槻は構わず充駆に言葉を投げつける。
「本気で祐未を守りたければ命賭けろ、オマエの本気を見せてみろ。死んでみせろ。そしたら許してやる」
にやにやと笑うエロ槻に祐未が怒鳴る。
「バカなこと言わないでくださいっ」
しかし
次の瞬間
充駆は走り出していた。
窓に向かって走りながら心中でつぶやく。
死んで見せろだと?
ありがとう、先生
背を押してくれて。
その脳裏に浮かぶのは
毎日の教室で投げかけられる罵声と嘲笑
そして
僕のせいで死んだ理未の笑顔
僕がいなければ今も生きていたはずの理未の笑顔。
理未が死んだことで人と交わらなくなった
人と交わらないことで孤立して、クラス認定の“見下す対象”になった
教室で男子から罵声、女子から嘲笑を浴びる日々の中で思った。
自分は罵声と嘲笑がお似合いのゴミくずだと。
さらに思った。
そんなゴミくずである自分なんかのせいで理未は死んだのだと。
そんな負の連鎖を毎日毎日毎日毎日毎日毎日繰り返して
たどり着いた先にあったのが――生きるのをやめることだったのだ。
充駆は窓枠に足を掛ける。
背後で祐未がなにか叫んでいるがその声は届かない。
そのまま、曇り空の下へと窓枠を蹴る。




