第9話 ファイナルゲーム(その2)
セーラーがスマホを操作すると周囲が公園から一転して昼間の校門前になった。
元のサイズに戻ったイートンを含めた五人が校門を過ぎるのと同時に、ブレザーに手を握られたままのスクールセーターが正面の南校舎を見上げる。
「屋上……いる」
「わかんのかよ」
感心したような表情を浮かべるワンピに返す。
「ボクの中に……まだほんの少しだけ……制服廃止論者の残渣があって……。それが……制服評議会と思念体共鳴を起こしてる……」
「来ましたわ」
ブレザーの声に振り返る。
校門の向こう、街並みの中を深層域の方角から大小の悪魂の群れが押し寄せてくるのが見えた。
「わたくしたちの足止めに召喚したようですわね」
ブレザーが右手に短機関銃を集束させる。
「わたくしがくい止めますわ。外なら跳弾のリスクもありませんし」
ワンピも手裏剣を集束させる。
「オレも残るわ。校舎内より外の方が射程を活かせるしな」
「任せる」
短く答えたセーラーがイートンとスクールセーターに頷いて生徒玄関へ飛び込む。
その後をイートンとスクールセーターが続く。
しかし――。
「これって一体……」
立ち止まり、思わずつぶやいたイートンは目の前の様子に目を見張る。
生徒玄関は一面が緑の綿に覆われていた。
いや、綿ではない。
踏み出した足元から舞い上がるそれは無数の胞子だった。
正面奥に気配を感じて顔を上げる。
奥のラウンジもその向こうの中庭も同じように緑色に覆われている。
その中庭に五メートル四方ほどのピットが掘られていることに気付く。
中庭にそんなものがあった記憶はない。
そもそも、そのピットはあの四面が開放された百葉箱の手前にあるのだ。
こんなものがあれば、これまでに絶対に気付いている。
戸惑いながらイートンが目を向ける先で、ピットから数本の巨大なキノコが伸びてくる。ゆらゆらと揺れながら。胞子をまき散らしながら。
やがて全容を表したそれをイートンは見たことがある。
それは森にいたクマムシに似た体長三メートルの大型悪魂。
その背中から数本の巨大なキノコが生えている。
「生きてた……?」
「違うな」
つぶやくイートンのとなりでセーラーが槍斧を構える。
「あいつは殺した。その死骸を動かしているのは背中から生えているキノコ――冬虫夏草の仕業だろう。この一面のカビも含めて、な。あのピットは制服評議会が急ごしらえで用意した召喚ゲートらしい」
「冬虫夏草……」
イートンがひとりごちる。
それは生物の幼生や死骸に寄生するキノコ。
キノコとはいえ、その実体は森に棲むキノコ型の悪魂である。
生徒玄関の外からブレザーの放つ銃声とワンピの怒声、そして、悪魂たちの吠える声が聞こえる中でセーラーがささやく。
「なるほど。挟み撃ちか」
そして、さくさくと足元に積もった胞子を踏みしめ、巻き上げながら前に出る。
その姿に冬虫夏草の宿主となった大型悪魂が咆吼を上げる。
同時に中庭からラウンジを経て生徒玄関まで覆うカビの繁殖速度が増す。
視界を覆うほどの胞子をまき散らし、足元のカビはイートン、セーラー、スクールセーターの動きを止めるかのように厚さを増す。
「ふふっ」
ヒザまでカビに埋もれながら、その様子に笑ったのはセーラー。
「私に反応したということは……大型悪魂の死骸に殺した私への怨嗟が残っているらしい」
そして、槍斧を大型悪魂へと投げる。
先端の槍がその前部に突き刺さった。
大型悪魂が上げた鳴き声はさっきの咆吼ではなく明らかな悲鳴。
同時に足元のカビがカーペット並みに薄くなる。
しかし、すぐにまたもりもりと厚みを増してくる。
セーラーが大型悪魂に刺さった槍斧を拡散させて手元に再集束させる。
そこへ大型悪魂本体から生えるキノコの一本が触手のように伸びてセーラーに躍りかかる。
セーラーはかわしたキノコに槍を突き立てぐるぐると絡めて引っ張りながらイートンとスクールセーターにささやく。
「ダメージを与えればカビも縮退するようだ。そして、こいつは私を指名している。遊んでやろう。その間にふたりは先に行け」
「わかりましたっ」
イートンが答えてスクールセーターを促す。
「行こっ」
「……うん」
その場をあとにするふたりも、悪魂と対峙するセーラーも気づいていない。
中庭にある、深層域へとつながる井戸が復旧を終えていることに。
そして、そこから出て校舎へ向かっている足跡の存在に。




