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第5話 殺しあう!(その8)

 一階の渡り廊下へ着地した充駆は、自身が崩落させた連絡通路の瓦礫とともに舞い上がる埃と粉塵に思わず前かがみになって咳き込む。

 その頭をすかさずワンピが蹴り上げる。

 髪とワンピースタイプの制服を白く汚したワンピは不快感を隠そうともせず、充駆を睨み据えたまま右手の手裏剣を短刀のように振り抜き、その刃で充駆の頸動脈を切断する。

 噴水のように噴き出す動脈血が瓦礫を染める中で、ワンピは怒気をまとわせた表情のまま、充駆の眉間に手裏剣を突き立てた。

 遠ざかる意識の中で充駆は校内放送を聞く。

「すうはあすうはあ。二年一組で行われていたワンピ対イートンはワンピの勝利だくん。すうはあ」

 そして、昨日と同様に制服評議会代表の声が続ける。

「明日の次期主流制服デザイン防衛戦は現女王ブレザー対挑戦者ワンピに決まりました。これにて本日のプログラムは終了です。明日の熱闘を期待しつつ、ごきげんよう、さようなら」


「申し訳ないっ」

 生徒玄関奥のラウンジで元の姿に戻った充駆は、ふわふわと浮いている十センチのイートンに土下座していた。

「本当に本当に申し訳ない」

「いえ、あの」と戸惑うイートンのとなりで購買の商品棚から取り出した焼たらこおにぎりを手に、肩を怒らせたボレロがぶち切れている。

「まったくっすよ。なにを考えてるっすかっ」

 そう言っておにぎりをぱくり。

 そこへスマホの着信音。

 ボレロがおにぎりをテーブルに置いて、詰まった食道を叩きながら左手でスマホを開く。

「げふっ。ボレロっす。イートン? 一緒っすよ。……わかったっす」

 難しい顔でスマホを収めるボレロへイートンが問い掛ける。

「なあに?」

「制服評議会から呼び出しっす。もちろん充駆も来るっす」

 十センチ状態のイートンでは自分のスマホを扱うことができない。

 おそらく“電話に出ることができません”とか“電源が切られていて”みたいなアナウンスが流れていて、それゆえにボレロに連絡をとったのだろう。

「呼び出しか」

 苦い表情で充駆がつぶやく。

 あのままハンマーを振り下ろしていればワンピの頭蓋は砕かれ、充駆――とイートン――の勝利は確定していた。

 しかし、充駆はそれをしなかった、放棄した。

 その行為は明らかな“消極的姿勢”であり、充駆の知る現実世界の格闘技や球技において処罰対象としている競技も少なくない。

 それだけではない。

 充駆の行為は解釈のしようによっては“自ら負けを選択してワンピに勝利を譲った”とみなされてもしょうがない――すなわち、八百長疑惑にまで発展しかねないのだ。

 そう判断されれば――どんなペナルティがあるかわからないものの――刑罰で言うところの最高刑に該当することは想像に難くない。

 もしかしたら、最初にボレロが音楽室で言っていた“四十年後の次回大会の参加権はく奪”もありうるだろう。

 なによりも、勝ったワンピにも迷惑をかけることになりかねない。

 一旦、悪い方向に考えだすとどこまでも悪い方向に思案が進む――それが充駆である。

「イートン」

「はい?」

「ごめん」

 まるですでに判決が出たかのように、充駆は暗澹たる気持ちで席を立った。


 連れて行かれたのは、やはり音楽室だった。

 すでに肖像の一枚が暗転して波形を表示させている。

「今日はご苦労様でした、イートン。ところで“人間の男”にひとつ確認したいのですが」

 制服評議会代表の声が問い掛ける。

「単刀直入にうかがいましょう。なぜあのまま終わらせなかったのです?」

 “やはりその件ですか”と充駆は全身が震えるのを感じた。

 ボレロと十センチのイートンからの視線を感じながら、緊張状態で正直に答える。

「やっぱコドモは無理でした」

 そして、付け加える。

「それだけです。ただ、それだけです。すべて僕の勝手な判断です。イートンもワンピさんも関係ありません。結果的に勝ちを放棄したことになりましたけど、でも、それが目的ではなくて、ワンピさんを勝たせるつもりだったわけじゃなくて。ただ、ただ、ワンピさんの頭を潰すことができなかっただけです。本当です。嘘じゃないです。マジです。本心です。本音です。本当の本当です。信じてください」

 気づけば一方的に喚き散らしている充駆に対し、声は淡々と返す。

「つまり、ワンピが幼い姿をしているゆえに殺せなかったと?」

「そ、その通りです」

 充駆はすっかり叱られている気分でうなだれる。

 そこへ割り込む声がある。

「オレの言った通りだろ。じゃあ、いいよな」

 顔を上げると別の肖像が暗転して波形を表示させていた。

 この口調はワンピでまちがいない。

 しかし、制服評議会はワンピには答えずに。

「ブレザーはどう考えます?」

 さらに別の一枚が暗転して波形を走らせる。

「わたくし? よろしくってよ」

「わかりました。ではワンピの申し入れを認めましょう」

 そして、告げる。

「ブレザーへの挑戦者決定トーナメント優勝者のワンピは辞退。明日の防衛戦はイートンが繰り上げ出場ということで」

「は?」と充駆。

「え?」とイートン。

「まじすか」とボレロ。

 すぐに我に帰ったイートンが問い掛ける。

「いえ、あの、どうして、ですか。辞退って」

 ワンピの波形が不快感を隠そうともせずに吐き捨てる。

「オレはな、見た目で手を抜かれるのがすげえ不快なんだよ。糞がっ」

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