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第4話 プレリュード(その4)

 言うまでもなく“特訓”はイートンの身体で行う。

 充駆にとって他人であるイートンの身体を違和感なく扱うことが特訓の第一目的なのだから当然といえば当然である。

 グランドやグランドの端に立つ鉄棒を相手にさまざまな動きをイートンの身体で実践した結果、その運動能力は常人を大きく上回っていることが充駆にもわかった。

 そして、その常人ではありえないような筋力や反応速度に充駆はおおいに戸惑った。身体が少女イートンのものに変わった時以上に。

 なにしろ、充駆は人並み以上の運動嫌いであり、中学早々に行われた運動能力テストにおいてDクラス認定を受けた数少ない生徒のひとりなのである。

 二回が限度の懸垂を筆頭に、ほとんどの種目で同じクラスの女子生徒にすら惨敗するレベルなのだ。

「わっしたちは筋力とか肺活量とかの運動機能や反応速度と、あとは疲労の回復とか傷の快癒速度が人間より優れてるっす」

「ほほお」

 感心する充駆だが、告げるボレロの眼鏡に気付く。

「でも、視力はダメなのか」

 ボレロが照れたような笑いを浮かべる。

「目は運動機能じゃないっすから。動体視力は別として」

 そこへイートンの声が補足する。

「でも、ベースになってる人体構造は人間と同じなので、脳や心臓を潰されれば死にますし、肺を潰されれば息ができなくなりますし大腿骨が折れたら立つことはできません。皮膚や骨格や内臓の強度や痛みに対する抵抗は人間より強いんですけど……」

 あとはアレの存在である。

「だいたいなんなんだ、これって」

 充駆が右手に光の粒子を集束して出現させたハンマーを見ながらつぶやく。

「ひとりひとつずつっす」

 言いながらボレロが自身の右手に太刀を出現させる。

「みんな違うのか」

「はい」

 ということは――。

「あとの三人はどんなの持ってんだ」

 ボレロが即答する。

「わからないっす」

 イートンの声も。

「当人が承諾すれば知ることができるんですけど」

 そんな答えに充駆は釈然としない。

「四十年前にもやってるんだよな」

 ならばその時に見ているはずであって、それがわからないということは毎回違う武器が現れるということなのか?

 そんなことを思う充駆だったが、それに対するボレロの答えは意外かつあっさりしたものだった。

「四十年前に対戦した記憶は“想起制限ブラインド”を食らってて思い出せないんすよ」

 イートンの声が続ける。

「たぶん、対戦を初見状態で行わせるためじゃないかと思うんですけど……」

「事前準備をさせないってことか」

「はい。だから瞬間的な判断力とか応用力とか直観力の勝負になります」

「とか言いながらイートンは予習してきたっすけどね」

「そ、想像できる範囲で出てきそうな武器について勉強してきただけです。その……期待しないでください」

 恐縮するイートンの声を聴きながら充駆は――

「でもさあ。これって使えるのか?」

 ――右手に握ったハンマーを高々と掲げてみる。

「? どういう意味ですか」

「ハンマーって重いほど威力が強いんじゃないの」

 そのくらいはマンガで読んだことがある。

「でも、これってちっとも重くないし」

 言いながらぶんぶんと振り回してみる。

 ボレロが笑いながら。

「ちょっと来るっす」


 連れていかれたのは学校のとなりにある鉄筋造りの大きな施設の大駐車場だった。

「足元のアスファルトを叩いてみるっす」

「地面?」

「思いっきりっすよ」

「うん」

 風船のように軽いハンマーを思いっきり振り下ろして地面を叩く。

「うおっ!」

 思わず声を上げる。

 叩いた箇所のアスファルトが凹んで、粉砕されたアスファルトの瓦礫が宙に舞う。さらにその凹んだ箇所を中心に、周囲十数メートルの範囲に蜘蛛の巣のような亀裂が走る。まるで何トンもある鉄塊が降ってきて激突した路面のように。

 口をあんぐりと開けて自身が砕いた足元を見下ろす充駆にイートンの声が笑う。

「重さを感じないのはそれが身体の一部みたいなものだからです。ちゃんと重さはありますよ。安心してください」


「じゃ、明日からがんばるっすよ」

 ボレロに連れられて元の姿で丁字路脇の公園に戻った。

 かたわらに浮かんだ十センチのイートンが深々と頭を下げる。

「充駆さん。これから、よろしくお願いします」

「こ、こっちこそ」

「じゃあ、帰るっす」

 ボレロが左手に現出させたスマホを操作すると同時にふたりの姿が消えた。

 充駆は誰もいなくなった公園をぐるりと見渡し、ため息をひとつつく。

 下校途中でボレロとイートンに出会ってスクールセーターに触手で首を絞められたり、イートンの身体になったりした挙句、潜在意識に連れ込まれて次世代の制服デザインの主流を決める殺し合いに参加することになった――そんな慌ただしい数時間だった。

 しかし、そのわりにはまだ日が高いことに違和感を覚えてポケットからスマホを取り出す。

 表示された現在時刻は潜在意識で過ごした時間がほんの数分でしかないことを表していた。


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