第4話 プレリュード(その2)
本来の姿に戻った充駆はボレロに先導されて校内を見て回る。
校舎は音楽室や図書室や理科室をはじめとする特別教室を収めた北校舎と、各フロアに六部屋ずつの普通教室や職員室や保健室、放送室といった本来なら教職員が常駐している部屋に割り当てられた南校舎、そして、体育館と畳敷きの武道場から構成されていた。
階段は各校舎の東西両端にあるが西階段は三階までであり、屋上に上がるには東階段しかない。
北校舎と南校舎は渡り廊下でつながれているが通路としてつないでいるのは二階部分だけであり、一階同士はよくある“すのこ敷き”の壁のない渡り廊下が、三階同士は二階をつないでいる通路の屋根部分に手すりを付けただけの全天開放通路でつながっている。
その二階通路を歩くボレロと充駆に、かたわらでふわふわと浮いている十センチのイートンが補足する。
「この渡り廊下はあとから増設されたようです。一階からしか両校舎を行き来できないのは不便だということで」
「校舎を作った時点で気付きそうなもんだけどな」
大げさにあきれた表情を浮かべる充駆にイートンがころころと笑う。
「ですね。そもそもちゃんとした通路になってるのが二階だけってことから予算的にはかなり切り詰めて作られたものみたいです」
音楽室へ入るまでと比べて明らかに明るいその口調から、やはり大会への参加が認められたことがうれしいのだろう。
南校舎の横は教職員用の駐車場と生徒用の駐輪場になっており、北校舎のとなりには広いグランドに併設してテニスコートとプール、そして、体育祭を始めとする屋外行事で使用する機材を収めた倉庫がある。
駐車場と駐輪場にはそれぞれ数台の自家用車と自転車が停まっているが、校内と同様に人の気配はない。
玄関は多くの学校がそうであるように職員と来客用のものと生徒用に分けられており、職員用は南校舎の東端、生徒玄関は同じ校舎の中央にある。
生徒玄関の奥にはラウンジを備えた購買があり、ラウンジの向こうには手入れされた花壇や背の低い庭木の他に高床式の白い小さな小屋――百葉箱と、場違いな丸井戸のある中庭を挟んで北校舎が見える。
ひととおり内外を案内されたが自分たち以外には誰もいない。
生徒玄関のシューズロッカーには通学シューズが収められ、教室の机や後方に割り当てられた開放型の物入れにも生徒の私物や教材が収められているが人の気配すらなく、人の消えた学校施設だけをどこかから持ってきたか、あるいは、逆に人だけがいきなりいなくなった校舎といった風情だった。
そんな無人の校舎は最初の印象通り、けして新しいものではなかった。
三階の天井には雨漏りによるものらしい染みが見えるし、渡り廊下の壁に顔を寄せると小さなひび割れが見える。
そればかりか、教室内の時間割やクラス目標だけでなく、部員募集や校内新聞といった教室外の掲示物までもが、そのすべてが今となっては珍しい手書きであることも校内を古く見せている一因かもしれない。
そんな古い校舎の生徒玄関奥にあるラウンジでベンチに腰を下ろした充駆は、テーブルに降り立ったイートンと購買の陳列棚を物色しているボレロに問い掛ける。
「ここって、そもそもどこなんだ。別の世界なのか?」
ボレロが陳列棚から選んだ明太子おにぎりをもさもさと食べながら答える。
「ここは潜在意識の中っす」




