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配信が大変なので裏山の精霊(AI)を呼び出したら、カメラワークとアンチコメ処理が完璧になった件

凛華さんたちが帰ってから数日が過ぎた。

俺、雨宮海人の生活は以前にも増して充実していた。


「よしポチ、そこ掘ってくれ。クロは上から水やり頼むな」

『ワンッ!』

『キュウ!』


畑仕事が捗る。

ポチ(フェンリル)の前足による穴掘りは重機よりも速くて正確だし、クロ(エンシェント・ドラゴン)が口から吐く水(元ブレス)は広範囲に霧状に散布されるので効率が良い。

彼らはすっかり我が家の優秀な農業従事者になっていた。


だが一つだけ悩みがあった


「……作業してると、コメントが見れないんだよなぁ」


俺はくわの手を止めてあぜ道に置いたスマホを見た。

最近、ありがたいことに視聴者数が爆増している。


凛華さんとのコラボ効果で登録者数は一気に五十万人を超え、アーカイブの再生数は数百万回に達していた。

そうなると配信中に流れるコメントの速度が尋常ではない。


作業中にチラッと画面を見ても文字が滝のように流れていて読めないのだ。

それにカメラアングルも固定だと味気ない。


「ドローンとか欲しいけど、操作しながら畑仕事は無理だしなぁ……。自動で撮影してくれて、コメントも読み上げてくれる助手がいればいいんだけど」


俺は何気なく呟いた。

その時だった。

俺のポケットに入れていた「Magic Wi-Fi」のルーターがブブブッと震えたのは。


『――管理者マスターノ要望ヲ検知。システム起動シマス』


どこからともなく鈴を転がしたような涼やかな声が聞こえた。


「え? スマホ?」


俺がルーターを取り出すと青いランプが激しく明滅し始めた。

そして、ルーターの放熱口から光の粒子が噴き出した。


「うわっ、故障か!?」


俺が慌てて手放すと光の粒子は空中で収束し、一つの形を作り上げた。

それは手のひらサイズの小さな女の子の姿だった。


透き通るような桜色の髪に、近未来的なデジタル模様の入った着物のような服。

背中には半透明の羽が生えている。

まるでSF映画に出てくるホログラムと、ファンタジーの妖精を足して二で割ったような存在だ。


『初めまして、管理者様。ダンジョン統合管理システム・インターフェース担当、コードネーム「サクラ」です』


女の子――サクラは空中にぺこりと頭を下げた。


「えっと……妖精さん?」

『概念としては近いです。この領域ダンジョンの魔素演算処理を行う疑似人格プログラムとお考えください』

「なるほど、最近のWi-FiルーターにはAIアシスタント機能がついてるのか。すげぇな」


俺は感心した。

祖母の遺品だと思っていたが、どうやら最新家電だったらしい。


『……(マスターの認識力に深刻なエラーを検知しましたが、可愛いのでスルーします)。はい、そうです。私はあなたの活動をサポートするために起動しました』


サクラはにっこりと笑った。

AIとは思えないほど表情が豊かだ。


「サポートって何ができるの?」

『動画配信の補助です。カメラ制御、音声補正、コメント抽出、スパチャ管理、アンチコメントの爆撃……失礼、削除などを行えます』

「おお、まさに求めてた機能だ! じゃあ今すぐ使える?」

『もちろんです。私の体を構成する光子素子フォトンを展開し自律機動カメラとして運用します』


サクラが指を鳴らすと彼女の周囲に小さな光の球が三つほど浮かび上がった。

それらがフワフワと俺の周りを飛び回り、様々な角度から俺を捉える。


「すごい、ドローンいらずだ!」


俺は感動した。


「よし、じゃあ早速テスト配信してみようか。サクラ、頼める?

『イエス、マスター。配信モード起動』


『【テスト】新しいAIアシスタントを導入しました』


配信が始まると同時に同接が一気に五万人を超えた。

みんな通知設定をしてくれているらしい。

ありがたいことだ。


【コメント欄】


ダンジョンマニアLv.55:

待ってた!


名無しの視聴者:

今日は何するの? またドラゴン狩り?


検証班A:

おや? 画質が上がってる。4Kどころか8Kレベルだぞこれ


カメラオタク:

アングルがプロ並みなんだが。ドローン操作うますぎない?


「みなさんこんにちは。今日は新しい仲間を紹介します。AIアシスタントのサクラです」


俺が紹介すると、サクラ(ホログラム状態)が画面の隅にぴょこんと現れた


『視聴者の皆様、こんにちは。マスターのサポートを担当するサクラです。以後、お見知り置きを』


彼女が優雅にカーテシー(挨拶)をする。


視聴者A:

ファッ!?


二次元最高:

え、何この美少女。Vチューバーのアバター?


技術班:

いや、合成の継ぎ目がない。それに光源処理がリアルすぎる。ARか?


サクラ親衛隊(仮):

可愛い! 推せる!


アンチ:

けっ、どうせ高い金かけて業者に頼んだんだろ。調子乗んな農家


コメント欄に心ないアンチコメントが一つ流れた。

俺は気づかなかったが、サクラの眉がピクリと動いた。


『……対象コメントを検知。ランクDの悪意。排除シマス』


サクラが冷徹な声で呟くと、画面上のそのコメントが物理的に「パリーン!」という音を立てて粉砕されたエフェクトと共に消滅した。

さらに。


『発信元のIPアドレスを特定。……ルーターの電源を過負荷により強制シャットダウンしました』

「え? サクラ、何かした?」

『いいえ、何も。ただの自動モデレーター機能です、マスター(ニコッ)』

「そっか、便利だなぁ」


俺はサクラの頼もしさに頷いた。

これなら安心して畑仕事に集中できる。


「それじゃあ、今日はポチと一緒に大根の間引きをします。サクラ、いい感じに撮っててくれ」

『お任せください。マスターの働く汗が最も輝くアングルで捉えます』


サクラが操作する光のカメラは、俺の背中の筋肉や、額の汗、そしてポチのあざといポーズを完璧に切り取っていく。

視聴者たちはその圧倒的な映像美とサクラの的確なコメント読み上げ(スパチャへのお礼ボイスが可愛すぎる)に酔いしれた。


こうして俺の配信環境は「国家機密レベルのAI精霊」によって世界最高水準へとアップデートされたのだった。


ーーーーー


一方その頃。

アメリカ合衆国・ニューヨーク。

摩天楼を見下ろす超高級ペントハウスの一室で轟音が響き渡った。


「Bullshit!!(ふざけるなッ!!)」


ドォォォォン!!


大理石のテーブルが拳の一撃で粉々に砕け散る。

そこに立っていたのは、燃えるような赤髪を逆立てた派手な男だった。


星条旗柄のレザージャケットにサングラス。

全身から溢れ出る魔力は室内の温度を灼熱に変えている。


彼は、米国No.1にして世界ランク3位のSランク探索者、レオナルド・バーンズ(通称:爆炎のレオ)。

彼は今、震える手でタブレットを握りしめていた。


画面に映っているのは俺と凛華さんのコラボ配信のアーカイブだ。

凛華さんがポチを撫でてだらしなく笑っているシーン。


「リンカ……! My Angel、リンカが……どこの馬の骨とも知れぬジャパニーズ・ファーマーに誑かされているだと!?」


レオは歯ぎしりをした。

彼は以前から凛華に熱烈なアプローチ(一方的)をかけていたが、常に「興味ありません」と一蹴されていたのだ。

その凛華があんな顔を見せるなんて。

嫉妬の炎で彼の髪の毛先が物理的に燃え上がった。


「それに、なんだこのフェンリルは! CGだ! 間違いなくFakeだ!」


レオは認めない。

自分が死ぬ気で挑んで敗走した神話級モンスターがあんな犬っころのように懐くわけがない。


「俺は騙されんぞ。この『雨宮海人』とかいう男、間違いなくペテン師だ。リンカは洗脳されているに違いない!」


レオはサングラスを投げ捨て叫んだ。


「俺が行く! 俺の『プロミネンス・バースト』で化けの皮を剥いでリンカの目を覚まさせてやる!」 「ボ、ボス! 日本へのフライト準備はどうしますか!?」


秘書が怯えながら尋ねる。


「今すぐだ! プライベートジェットを出せ! 東京まで最短ルートで飛ぶぞ!」


レオは窓を開け放ち空へと飛び出した(飛行魔法)。


「待っていろ、海人! この爆炎のレオが貴様のそのふざけた農場を更地にしてやる!」


太平洋を越えて嵐が近づいている。

最強の勘違い農家 vs 最強の勘違い爆炎男。


二人の激突はもう目前に迫っていた。

なお、海人はそんなこととは露知らず「サクラ、今夜はポトフにしようと思うんだけど、レシピ検索できる?」

『はい、マスター。最高のレシピを検索完了。隠し味にマンドラゴラの搾り汁を入れるとコクが出るそうです』

「へぇ、やってみるか」 と、のほほんと夕食の準備をしていた。

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