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6/15

「生存報告ついでにコラボ配信しませんか?」と提案したら、剣姫とフェンリルとドラゴンの共演でサーバーが落ちた件

「……美味しかった」


凛華さんは空になった皿を見つめてうっとりとした溜息をついた。

あれから一時間。


俺たちが用意した「ドラゴンの尻尾ステーキ(約五十キロ分)」は、凛華さんと部下の人たち、そしてポチとクロ(元ドラゴン)の胃袋に綺麗に収まった。

部下の男性たちは、満腹感と魔力酔いで芝生の上で大の字になって寝ている。


「まさかこんな山奥で一生分の贅沢をするなんて……」


凛華さんは上品に口元を拭い改めて俺に向き直った。

その表情は出会った時の張り詰めたものではなく、年相応の少女のような柔らかいものになっていた。


「海人さん、本当にありがとうございました。命を救われただけでなくこんなご馳走まで」

「いえいえ、余り物ですから。お口に合って良かったです」


俺は後片付けをしながら笑って答えた。


「さて、そろそろ日も完全に暮れますし街へ戻る準備をしないとですね。……あ、でも」


俺はふと気づいた。

ここは携帯の電波が届かない圏外だ。

それに、凛華さんたちがここまで乗ってきたであろう車や装備は来る途中のモンスターとの戦闘でボロボロになっている。


「どうやって帰ります? 車、呼べますか?」


俺が聞くと凛華さんはハッとして腰のポーチを探った。

そこから取り出したのは液晶が粉々に砕けた通信端末だった。


「……ダメです。衛星通信機がさっきの戦闘で壊れてしまっていて……」


彼女は青ざめた。


「これではギルド本部に連絡が取れません。私たちが『全滅』したと判断されて、第二次捜索隊……いえ、軍隊が派遣される可能性があります」

「えっ、軍隊? それは大事ですね」


俺は少し焦った。

静かな田舎暮らしが夢なのに、自衛隊や米軍が山に押し寄せてきたら畑仕事どころではない。


「なんとかして無事を伝えないと……。ここ、Wi-Fiだけは飛んでるんですよね?」

「ええ、Wi-Fiならバリバリですよ」

「なら、ネット経由で連絡を……あ、私のスマホも電源が入らない」


凛華さんは万事休すといった顔で肩を落とした。

俺のスマホを貸してあげてもいいが、連絡先を知らないだろうしセキュリティの問題もあるだろう。

そこで俺は一つの提案を思いついた。


「あ、そうだ。凛華さん、有名人なんですよね?」

「え? あ、はい。一応、『剣姫』としてメディアにも出ていますが……」

「なら、俺の配信に出ませんか?」

「……はい?」


凛華さんがキョトンとする。

俺はスマホを取り出しD-Tubeのアプリを起動した。


「俺のチャンネルで生配信をして、そこで『無事です』って世界中に言えばいいんですよ。そうすれば、ギルドの人も見るでしょうし、ファンの人たちも安心するんじゃないですか?」


名案だと思った。

これなら機材も俺のスマホ一台で済むし、俺のチャンネルの宣伝にもなって一石二鳥だ。


「配信……私が、海人さんのチャンネルに?」


凛華さんは少し考え込んだ後決意したように顔を上げた。


「……そうですね。それが一番早くて確実かもしれません。それに」


彼女はチラリと、俺と、足元で骨をかじっているポチとクロを見た。


「あなたが『安全な存在』であることを私の口から世界に伝えておかないと。……放っておくと、あなたの強さを危険視した国連軍がここを爆撃しかねませんから」

えっ、爆撃!? それは困ります!」


冗談がきついなぁ。

いくらなんでも一介の農家を爆撃なんてしないだろう。


「分かりました。やりましょう、コラボ配信」


凛華さんはキリッとした「剣姫」の顔に戻り、髪を整えた。


「よーし、じゃあ始めますよ」


俺は焚き火の前にスマホをセットした。

背景には、満腹で眠るポチ(フェンリル)とその背中で丸くなるクロ(エンシェント・ドラゴン)。

そして隣には日本最強の美少女剣士。

絵面の情報量が多すぎる気もするがまあ賑やかでいいだろう。

タイトルを打ち込む。


『【緊急コラボ】お客さんが来たので食後のトーク。ゲスト:剣姫さん』 ポチッ。

配信開始ボタンを押した。


その瞬間だった。


『同接:10,000人』

『同接:50,000人』

『同接:150,000人』


「うわっ!?」


俺はのけぞった。

開始数秒でカウンターが壊れたように回り始めたのだ。

コメント欄が文字として認識できないほどの速さで流れていく。


ーーーーー


【コメント欄】


ダンジョンマニアLv.55:

きたあああああああああああああ!!!


名無しの探索者:

生きてた! 剣姫が生きてたぞおおおおおおおお!


JDA職員:

全員無事!? 奇跡だ……あの魔境でどうやって…… ニュース速報: 【速報】行方不明の如月凛華、謎の一般人チャンネルにて生存確認


初見さん:

え、隣にいるのって本物の剣姫? 合成じゃなくて?


検証班A:

本物だ。しかも背景にフェンリルとドラゴンが寝てるぞwww


動物園:

なんだこの空間。天国か?


「あはは、すごい勢いですね。こんばんは、海人です。今日は素敵なゲストが来てくれました」


俺がカメラに手を振ると、凛華さんが緊張した面持ちで頭を下げた。


……こんばんは。Sランク探索者の如月凛華です」


彼女の声が乗った瞬間、同接数がさらに跳ね上がり『30万人』を突破した。


「ご心配をおかけしました。私は無事です。部下たちも全員、怪我ひとつなくピンピンしています」


凛華さんは後ろで爆睡している部下たち(大の字)を指差した


「見ての通り、ここの主である雨宮海人さんに助けていただきました。彼は……その」


凛華さんは言葉を選びながら俺の方を見た。


「とても親切な方で。美味しいご飯と安全な寝床を提供してくれました」


剣姫ファンクラブ会員No.1:

良かったあああああ! 凛華ちゃんが無事なら何でもいい!


名無しの探索者:

「助けていただいた」ってサラッと言ったけど、あそこSSSランク指定されそうな魔境だぞ? そこで「ご飯と寝床」?


ダンジョンマニアLv.55:

兄ちゃん何者だよ。剣姫に守られる側じゃなくて、守ったのか


スパチャ:

¥50,000 「剣姫の命の恩人に乾杯」


「おっ、赤スパありがとうございます! 飲み代にしますね」


俺はお礼を言いながら横で退屈そうにしていたポチを呼んだ。


「ポチ、お前も挨拶しろ。ほら、クロも」


俺が手招きすると、巨大な銀狼と黒竜がのっそりと起き上がってカメラの前に割り込んできた。

画面が毛皮と鱗で埋め尽くされる。


「わっ、近い近い! クロ、鼻息でレンズ曇るだろ!」

『ワォン!』

『キュウ!』


二匹は甘えるように俺と凛華さんに擦り寄ってくる。

凛華さんは最初はビクッとしていたが、ポチのあまりのモフモフ具合に抗えなかったようだ。

恐る恐る手を伸ばし……ポチの耳の裏を撫でた。


「……あ、すごい。柔らかい……」

『クゥ~ン……』


ポチが気持ちよさそうに目を細める。

その瞬間、クールで有名な「氷の剣姫」の表情が一気に崩れた。


「かっ、可愛いです……! なんですかこの手触り……!」


凛華さんはポチの首元に顔を埋めわしゃわしゃと撫で始めた


「あはは、凛華さん犬好きなんですね」

「は、はい! 実家では禁止されていたので……こんな、こんな大きなワンちゃんをモフれるなんて……幸せです……」


頬を染めてだらしない笑顔を見せる凛華さん。


この映像が世界に与えた衝撃は計り知れなかった。


ーーーーー


【コメント欄】


剣姫ファンクラブ:

【訃報】俺たち、死ぬ


名無しの視聴者:

ギャップ萌えで心停止した あの凛華様がデレた! 犬(神話級)にデレたぞ!


獣魔ギルド:

フェンリルを「ワンちゃん」呼ばわりwww しかもフェンリル側も満更でもない顔してる


世界政府:

この映像、歴史的資料として保存します


同接:

800,000人突破


「あ、クロも撫でてほしいのか? 凛華さん、こいつの顎の下鱗の継ぎ目が弱いんですよ」

「えっ、ドラゴンもですか? ……失礼します。……わぁ、温かい」


今度はエンシェント・ドラゴンの顎を撫でる凛華さん。

クロは猫のように喉を鳴らしている。

人類最強の剣士と最強の魔獣たちが縁側で仲良くじゃれ合う図。

それはまさに、俺が求めていた「スローライフ」の体現だった。


「みなさーん、見てますか? ここは安全ですよー。害獣も躾けましたし空気も美味しいです」


俺はカメラに向かって能天気にアピールした。


「もし凛華さんのファンで、遭難しそうな人がいたらうちに寄ってください。お茶くらい出しますから」


コメント:

行けるかァ!!!! そこ地球上で一番到達難易度高い場所だぞ! でも行きたい……海人さんの飯食いたい…… 兄ちゃん、あんたが世界最強だよ認定するわ


配信は一時間ほど続き、最終的な同時接続者数は**『120万人』**を記録した。

D-Tubeのサーバーが二回ほど落ちかけたが、俺の「Magic Wi-Fi」のおかげかこちらの回線だけは一度も途切れなかった。


配信終了後。


「……ふぅ。緊張しました」


凛華さんは少し名残惜しそうにポチから離れた。


「ありがとうございました、海人さん。これで迎えのヘリが来るはずです」

「いえいえ、盛り上がって良かったです。スパチャもすごかったし」


俺はほくほく顔だ。

これで畑の肥料代には困らない。

すると凛華さんが改まった顔で、俺に一歩近づいた。

真剣な眼差し。


「海人さん。一つ、お願いがあります」

「はい? 何でしょう」

「また……ここに来てもいいですか?」


彼女は少し顔を赤らめて上目遣いで言った。


「その……ポチちゃんやクロちゃんにも会いたいですし。何より、あなたのご飯が忘れられそうにないので」


それは最強の探索者としてではなく、一人の少女としての素直な願いだった。

俺は笑って頷いた。


「もちろんですよ。いつでも歓迎します。人手が増えれば畑仕事も捗りますから」

「! はい! 畑仕事でも魔物討伐でも何でも手伝います!」


凛華さんは花が咲くような満面の笑みを浮かべた。


その数時間後。

ギルドの救助ヘリが到着し凛華さんたちは帰っていった。

別れ際ポチが寂しそうに遠吠えを上げ、クロが翼を振って見送った。

俺は静かになった庭で、一人と二匹、夜空を見上げた。


「さて……明日からはまた、静かな生活に戻れるかな」


だが、俺の願いとは裏腹に。

この日の配信で俺の名前と住所(大まかな座標)は全世界の権力者・実力者のブラックリスト……ではなく『最重要・友好推奨リスト』の筆頭に刻まれることになった。

静かな生活どころか、明日からはさらに騒がしい客――例えば、海を越えてやってくる嫉妬深いSランク探索者などが、押し寄せてくることになるのだが。


俺はまだそれを知らない。


「よし、明日は大根を植えるぞ!」


平和な寝息と共に俺の長い一日は終わった。

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