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Sランク救助隊がボロボロになって決死の突入をしたら、俺が縁側で麦茶を飲んでくつろいでいた件

「はぁ……はぁ……ッ! くそっ、キリがないわね!」


銀色の閃光が走り、襲いかかる巨大なカマキリ――「キラー・マンティス(変異種)」の首を跳ね飛ばす。

返り血を浴びたその美少女は、日本最強のSランク探索者、如月凛華だ。


彼女が握る愛剣『白銀の舞』はすでに刃こぼれを起こしていた。


「隊長! これ以上は進めません! ここは魔境なんてレベルじゃない……地獄です!」


背後で、部下であるAランク探索者の男が悲鳴を上げる。

彼の鎧は砕け片腕からは血が流れている。


無理もない。

彼らが踏み入ったこの「埼玉の山奥」は今の地球上で最も危険な場所と化していた。


本来ならダンジョンの深層(50階層以下)にしか生息しないはずのAランクモンスターが雑魚敵のように群れをなして徘徊しているのだ。


「泣き言を言わないで! 民間人が……あの配信者の青年が、まだ奥にいるのよ!」


凛華は叱咤しながらも内心では絶望に支配されかけていた。


(おかしい……。なんでこんな場所にこれほどの魔素溜まりができているの?)


空気そのものが重い。

呼吸をするたびに肺が焼けるような高濃度の魔素が体内に入り込んでくる。

魔素耐性のない一般人ならこの空気を吸っただけで即死してもおかしくないレベルだ。


「海人……さん、でしたっけ。無事でいて……!」


彼女の脳裏に浮かぶのはあの配信映像。

フェンリルの横で無防備に寝転がっていた青年の姿。

あれがもし合成映像でなかったとしたら、彼は今、神話級の魔獣の目の前で生殺与奪の権を握られていることになる。


「グルルルルッ!」


新たな魔物の群れ――「アシッド・ウルフ」の集団が茂みから飛び出してくる。

凛華は歯を食いしばり最後の魔力を振り絞った。


「邪魔よッ!!」


剣閃一閃。

衝撃波でウルフたちを吹き飛ばすが凛華もまた膝をつく。

限界だった。

ポーションは尽き、精神力も擦り切れかけている。

だが、その時。


「……隊長、あれを!」


部下の指差す先に光が見えた。

鬱蒼とした森が開け、その奥に……信じられない光景が広がっていた。

古びた、しかし手入れの行き届いた日本家屋。

綺麗に耕された畑。

そして、穏やかな夕暮れの日差し。

そこだけ、まるで別世界のように平和な空気が流れていた。


「家……? まさか、ここが彼の拠点?」


凛華はふらつく足で立ち上がる。

魔物たちはなぜかその家の敷地には入ろうとしない。

見えない結界があるかのように、森の境目で立ち止まり唸り声を上げている。


「行きましょう。あそこなら安全かもしれない」


凛華たちは泥だらけの体を引きずりその「聖域」へと足を踏み入れた。


一方、その頃。

俺、雨宮海人は、縁側で優雅な夕涼みを楽しんでいた。


「ふぅ。働いた後の麦茶は最高だな」


氷を浮かべたグラスを傾ける。

カラン、と涼やかな音が鳴る。

中身はただの麦茶ではない。

祖母が育てていた「茶葉」を煮出したものだが、香ばしさが段違いなのだ。

飲むと体の疲れが一瞬で吹き飛ぶ気がする。


隣ではポチ(フェンリル)が腹を出して爆睡している。

鼻提灯が出ていた。

完全に野生を忘れている。


「平和だなぁ……」



そんなことを呟いた、その時だった。


ガサガサッ!!


庭の入り口の茂みが激しく揺れ数人の男女が転がり込んできた。


「ッ……! ここが……!」


先頭に立ったのは、白銀のボロボロを着た長い黒髪の女性だ。

モデルみたいに綺麗な人だが、今は泥と血にまみれ肩で息をしている。


後ろには大怪我を負った男たちが続いている。

俺は目を丸くした。


「うわっ、びっくりした。……えっと、大丈夫ですか?」


俺はグラスを置いて立ち上がった。

服装からして趣味のコスプレ登山……というわけでもなさそうだ。


あの大荷物と剣(本物っぽい)を見るに最近流行りの「ダンジョン探索」をしている人たちだろうか。 また迷い込んだのかな。

この山、最近人気なのかなぁ。


「はぁ、はぁ……あ、あなたが、雨宮海人さん、ですか……?」


女性が、剣を杖代わりにして鬼気迫る表情で問いかけてくる。


「はい、そうですけど……。ひどい怪我ですね。遭難ですか? それとも熊にでも襲われました?」


俺が呑気に尋ねると彼女は信じられないものを見るような目で俺を見た。


「く、熊……? あなた、この外の状況を知らないのですか? モンスターの群れが……!」


彼女が叫ぼうとしたその瞬間。

足元で寝ていたポチが異変を察知して飛び起きた。


『ガルルルルルルッ!!』


ポチの全身の毛が逆立つ。

侵入者に対し即座に臨戦態勢に入ったのだ。


その体躯が膨れ上がり金色の瞳が殺気を放つ。

ただの犬ではない「捕食者」としての本能が覚醒した瞬間だった。


「ッ!! フェンリル!!」


女性が悲鳴のような声を上げ折れた剣を構える。

後ろの男たちは「ひっ」と腰を抜かしている。

まずい。

ポチのやつ、お客さんを敵だと勘違いしている。

番犬としては優秀だがこれでは郵便屋さんも逃げ出してしまう。

俺は即座に声を張り上げた。


「コラッ、ポチ! お客さんに吠えちゃダメだろ!」


俺はポチの眉間を人差し指でペチッと叩いた。


「メッ!」


その瞬間。


『キャンッ!?』


膨れ上がっていたポチの殺気が霧散した。

ポチは「あ、すんません」とでも言うようにシュンとなり、ぺたんとその場に座り込んだ。

上目遣いで俺を見て、尻尾をパタパタと振る。


「よしよし、座って偉いぞ。この人たちは友達だから噛み付いちゃダメだ」


俺はポチの頭を撫でて落ち着かせそれから女性たちに向き直った。


「すみません、驚かせちゃって。うちの犬、ちょっと人見知りで」


俺は爽やかに謝罪した。


しかし。

目の前の女性――凛華さんは、石像のように固まっていた。

開いた口が塞がらない、という顔だ。

剣を取り落とし、震える指でポチと俺を交互に指差している。


「い……いぬ……?」

「はい、ポチって言います。昨日拾ったんです。ちょっと大きいけど大人しいやつですよ」

「お……大人しい……? あれが……?」


彼女は何かブツブツと呟いている


「幻覚魔法?」

「精神汚染?」

「ありえない」

といった単語が聞こえる。


相当ショックを受けているようだ。

野犬に襲われかけた恐怖が残っているのかもしれない。


「まあまあ、立ち話もなんですしとりあえず座ってください。お茶入れますから」


俺は彼女たちを縁側に誘導した。

男たちは恐る恐るポチの横を通り過ぎる時死刑台に向かうような顔をしていたが、ポチがあくびをしただけで悲鳴を上げていた。

都会の人は動物に慣れていないんだなぁ。


「はい、粗茶ですが」


俺は人数分の湯呑みに冷えた麦茶を注いで渡した。


「あ、ありがとうございます……」


凛華さんは、警戒心を解かないままそれでも喉の渇きには勝てなかったようで湯呑みに口をつけた。

そして一口飲んだ瞬間。


カッ! 彼女の瞳が大きく見開かれた。


「!?!?!?」

「どうしました? 苦かったですか?」

「な……なんですか、これ……!?」


彼女がガタッと立ち上がる。

その顔色は先程までの蒼白さが嘘のように赤みが差し、肌に艶が戻っていた。

傷だらけだった腕の切り傷が見る見るうちに塞がっていく。

部下の男たちも、「うぉっ!? 肩の痛みが消えたぞ!」「魔力が……全快どころか溢れてくる!」と大騒ぎしている。


「ただの麦茶ですよ? ばあちゃん特製の」


俺はきょとんとして答えた。

実はこのお茶、祖母が裏庭の「御神木」から摘んだ葉っぱをブレンドしているのだが、俺にとっては子供の頃から飲んでいる普通の味だ。


「麦茶……? これが……?」


凛華さんは震える手で湯呑みを見つめている。


「最高級のエリクサーでもこんな即効性は……。それにこの芳醇な魔力の味。まさか『世界樹の雫』……?」

「セカイジュ? 新種のハーブティーですかね。気に入ってもらえたなら良かったです」


俺はニコニコと急須のおかわりを注いだ。


凛華さんは深いため息をついて、ようやく椅子(縁側)に座り直した。

そして改めて俺の顔をじっと見つめてくる。

その瞳には、畏怖と、好奇心と、そしてほんの少しの安堵が混ざっていた。


「雨宮海人さん……ですね」

「はい」

「私は探索者協会(JDA)所属、Sランク探索者の如月凛華と申します。……あなたを救助しに来ました」

「救助?」


俺は首を傾げた。


「はい。ここは極めて危険なエリアです。即刻退避を……と言いたいところでしたが」


彼女はチラリと俺の足元で腹を出して寝ているポチを見た。

そして俺が飲み干した麦茶を見た。


「……どうやら、守られる必要があるのは私たちの方だったようですね」


彼女は自嘲気味に笑った。

その笑顔はどこか憑き物が落ちたように美しくて、俺は思わずドキッとしてしまった。


「まあ、詳しい話は後で聞きますよ。お腹空いてます? もうすぐ晩ごはんできますけど」

「えっ……い、いえ、そんなご迷惑を……」

「いいじゃないですか。今日は大量に収穫があったんで一人じゃ食べきれないんです」


俺は立ち上がり台所へ向かう。


「今日のメインディッシュはステーキですよ」

「ステーキ……?」

「ええ。ポチが狩ってきた『トカゲの尻尾』なんですけど霜降りがすごくて」


俺が冷蔵庫から取り出したのは、太さ一メートルはある巨大な肉塊――「アース・ドラゴンの尻尾肉」だった。

それを見た凛華さんの顔が再び凍りついたのは言うまでもない。


「……トカゲ……? あれ、ドラゴンの……」

「さあ、みなさん準備手伝ってください! 外でのバーベキューにしますか!」


こうして決死の救出劇は、なし崩し的に「地獄の底でのバーベキュー大会」へと変貌を遂げたのだった。 だが、俺たちの穏やかな夕食を邪魔する影が空から迫っていたことを、俺たちはまだ知らない。

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