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「朝のラジオ体操」をすると言うので参加したら、Sランクの仲間たちが重力魔法で地面にめり込んでいた件

ジャァァァァァァァァァァン!!!!!


翌朝、夜明けと共に轟音が屋敷を揺らした。

銅鑼ドラの音だ。

それも、ただの音ではない。

魔力を込めた衝撃波を伴う強制覚醒の音色である。


「うわあっ!?」

「Enemy attack!?」

「きゃあああ!」


客間で雑魚寝していたレオ、凛華、リリス、アリシアが、悲鳴を上げて飛び起きた。

枕元で爆弾が破裂したような衝撃に全員が心臓を押さえてゼェゼェと息をしている。


「な、なんだ!? 昨日のラスボスがまた出たのか!?」


レオが寝癖頭のままファイティングポーズを取る。

そこへ襖がスパァン! と開かれた。


「おはよう! 朝じゃぞ、お寝坊さんども!」


朝日を背負って立っていたのは艶やかな着物を着崩した美女――雨宮トメ(全盛期Ver)だった。

手には巨大な銅鑼とバチを持っている。


「ば、ばあちゃん……? まだ四時だよ……」


俺、海人はあくびをしながら起きてきた。

子供の頃からこの音で叩き起こされていたので俺だけは耐性がついている。


「何を言うか。農家の朝は早いんじゃ。それに」


祖母は鋭い眼光でレオたちを見回した。


「昨日の戦い(杭打ち)を見ておったが、お前たちあまりにひ弱すぎる。海人の『杭打ち』の余波だけで吹き飛びそうになっておったではないか」

「うっ……それは……」


凛華が言葉に詰まる。 あれは「余波」というレベルではなく、核爆発に近い衝撃波だったのだが。


「世界最強だか魔王だか知らんが、そんな貧弱な体では海人の嫁や相棒は務まらんぞ。……よって!」


祖母はバチをビシッと突きつけた。


「今からワシが鍛え直してやる。庭に出ろ!『朝の鍛錬』の時間じゃ!」


「た、鍛錬……?」

「Yes! 修行か! 望むところだ!」


レオが目を輝かせた。

彼は海人に弟子入りしたばかりだ。

その師匠の師匠グランドマスターからの指導となれば断る理由はない。


「海人さんの強さの秘密……知りたいです!」


凛華もやる気だ。

リリスとアリシアも「魔王の威厳を見せてやる」「聖女の根性を見せます」と意気込んでいる。

俺だけが顔を引きつらせていた。


「……みんな、やめといた方がいいよ。ばあちゃんの『鍛錬』って、死ぬよ?」

「Hahaha! Don't worry, Master! 俺たちもSランクだ、基礎体力には自信がある!」

「そうね。準備運動くらいなら、ついていけるわ」


みんな分かっていない。

この人が言う「準備運動」が生物学的限界を超えていることを。


数分後。

庭にて。

サクラが空中にカメラを展開し配信を開始した。


『【朝活】祖母トメ様による、特別エクササイズ配信です』


早朝にもかかわらず通知に気づいた視聴者が続々と集まってくる。


【コメント欄】


早起き勢:

お、珍しい時間にやってる


ダンジョンマニアLv.55:

昨日の「世界最強ババア(美女)」が出るのか?


名無しの視聴者:

Sランク勢がジャージ着て整列してるwww シュールwww


フィットネスおじさん:

一緒に運動しよっかな


「よし、全員揃ったな。まずは基本の『ラジオ体操』からじゃ」


祖母が前に立ち仁王立ちになった。


「ラジオ体操? なんだ、日本の伝統的なエクササイズか」


レオが肩の力を抜いた。

音楽に合わせて体を動かすだけのあの体操だと思ったのだろう。

甘い。

甘すぎる。


「サクラ、ミュージックスタートじゃ」

『了解。BGM:『死の舞踏デス・ワルツ』を再生します』


ドロドロとした重低音の音楽が流れ始めた。


「まずは深呼吸から! 大きく息を吸ってー!」


祖母が両手を広げた瞬間。


ゴォォォォォォォォッ!!


周囲の空気が祖母の中心に向かって猛烈な勢いで吸い込まれた。

ただの空気ではない。

この山に充満する「超高濃度魔素」を肺いっぱいに取り込む行為だ。


「吸ってー!」


俺も負けじと濃厚な魔素を肺に入れる。

美味い。

細胞が活性化する。

しかし。


「ぐっ……!? か、息が……!」

「Gah...!? Poison...!?」


レオと凛華が喉を押さえて膝をついた。

常人なら即死レベルの魔素をダイレクトに吸い込み魔力中毒を起こしかけているのだ。


「吐いてー!」

「ゲホッ、ガハッ……!」

「軟弱者! 綺麗な空気を吸っただけで倒れるとは何事じゃ!」


祖母が一喝する。


「次! 手足の曲げ伸ばしの運動!」


祖母がリズミカルに屈伸をした。

その動きに合わせて、ドスン、ドスンと地面が揺れる。


「はい、曲げてー!」


ズンッ!!!


「!?!?!?」


レオたちが突如として地面にへばりついた。

見えない巨大な手が上から押し潰しているようだ。


「じ、重力魔法……!? 屈伸に合わせてGがかかって……!」


アリシアが悲鳴を上げる。

そう、これはただの屈伸ではない。

祖母の動きに呼応して、周囲の重力が十倍、二十倍と変動しているのだ。

重力変化に耐えながら体幹を維持する。

それが雨宮流の「曲げ伸ばし」だ。


「いち、に、さん、し!」


俺は普通に屈伸をした。


「うわぁ、今日は体が重いなぁ。気圧のせいかな?」

「ご、ごじゅう倍……!? 海人さん……なんで平気で……動けるの……?」


地面にめり込みながら凛華が血を吐くような声で問う。


「え? ちょっと体が鉛みたいだけど慣れれば気持ちいいよ? ほら、凛華さんも頑張って」

「無理ぃぃぃぃぃッ!! 骨が! 骨がきしむ!」


リリスとアリシアは既に白目を剥いて気絶寸前だ。


【コメント欄】


ダンジョンマニアLv.55:

これ放送事故だろwww


検証班A:

映像解析。あのエリアだけ局所的に重力が50Gを超えてる。悟空の修行かよ


名無しの視聴者:

Sランクが地面と一体化してる……


フィットネスおじさん:

真似しようとして腰やったわ


「ええい、だらしない! 次! 体を横に曲げる運動!」


祖母が体を横に倒すと鎌鼬かまいたちのような衝撃波が発生し、横にいたレオたちを吹き飛ばした。


「体を回す運動!」


祖母が上半身を回すと竜巻が発生し、全員が空中に巻き上げられた。


「両足で跳ぶ運動!」


祖母がジャンプすると着地の衝撃で地面が爆発し、クレーターができた。


「はい、深呼吸!」


最後にもう一度致死性の魔素を吸い込み、祖母は爽やかな笑顔で体操を終えた。


「ふぅ、いい汗かいたのう」


そこには更地になった庭と、ボロ雑巾のように倒れ伏す人類最強の戦士たちの姿があった。

立っているのは俺と祖母だけだ。


「……海人」


祖母が俺を見て満足げに頷いた。


「やはり、ワシの『型』についてこれるのはお前だけじゃな」

「いやぁ、久しぶりだからキツかったよ。脇腹つりそうになった」


俺は肩を回した。


「ふん、謙遜するな。……レオたちもまあ死ななかっただけ褒めてやろう。明日は回数を倍にするぞ」

「「「「勘弁してください……」」」」


瓦礫の山から四人の幽霊のような声が重なった。


「いただきます!」


地獄の体操の後の朝食は格別だった。

メニューは炊きたての土鍋ご飯(ダンジョン米)、具だくさんの味噌汁、そして厚焼き玉子。


シンプルな日本の朝食だが素材が違う。

米一粒一粒が宝石のように輝き、味噌汁からは生命の香りが漂う。


「……美味い」


レオが震える手で箸を運んだ。


「死ぬかと思った後のメシがこんなに美味いなんて……」

「細胞が……再生していくわ……」


凛華も味噌汁を飲んで涙を流している。

リリスとアリシアに至っては無言で三杯目をおかわりしていた。


「ふふ、食欲があるのは良いことじゃ」


祖母はその様子を見て目を細めた。


「強くなるためにはまず食うこと。そして大地を踏みしめることじゃ。魔法だのスキルだのはその後の小手先の技術に過ぎん」


祖母の言葉には妙な説得力があった。


「……師匠グランドマスター


レオが箸を置いて正座した。


「俺は思い上がっていました。魔法があれば無敵だと思っていました。ですが、貴女とマスター(海人)を見て自分が井の中の蛙だと知りました」

「うむ。気づいただけ見込みがある」

「これから毎日、あの体操に参加させてください! 俺はもっと強くなりたい!」

「私もです! 剣技以前に基礎体力が足りていませんでした!」


凛華も続く。


「我もじゃ! 魔王として恥じぬ肉体を手に入れる!」

「私も……体力つけて、もっと長時間ゲームできるようになる!」


最後の一人は不純な動機だが、まあやる気があるならいいだろう。

祖母はニカッと笑った。


「よかろう。海人の嫁(候補)と舎弟たちよ。ワシが責任を持ってこの山の『害獣』くらいは素手で倒せるように鍛えてやる」

「「「「押忍!!」」」」


こうして、雨宮家の朝に「地獄のラジオ体操」という新たなルーティンが加わった。

世界最強のパーティが誕生するのもそう遠くない未来の話かもしれない。


その日の午後。

俺たちは縁側で平和なお茶の時間を楽しんでいた。

祖母は「近所の寄り合い(という名のダンジョンボス会議)」に出かけて不在だ。


「平和だなぁ……」


俺が空を見上げているとサクラがポロンと音を立てて現れた。


『マスター、D-Tubeの運営から特別メッセージが届いています』

「運営から? 垢BANの通知じゃないよね?」

『いいえ。……読み上げます。「雨宮海人様。貴方のチャンネルの影響力が国家レベルに達したため、特別表彰を行いたいと思います。つきましては、記念品として『金の盾』をお送りしたいのですが、住所が『測定不能領域』となっており配送できません。どうすればよろしいでしょうか」とのことです』

「あー、やっぱり郵便屋さん来れないかぁ」


俺は苦笑した。


「じゃあ、『取りに行くので、東京の本社でオフ会でもしませんか?』って返信しておいて」

『了解しました。……ついでに「世界政府からも『代表者会談』の要請が来ていますがどうしますか?」』 「それは面倒だから『今は畑が忙しいので、落ち着いたらこっちから連絡します』で」


俺は適当に答えた。

世界政府よりも、今はこの平和な日常と目の前の畑の方が大事だ。

レオたちが庭で素振りをし、凛華さんが台所で料理の練習をし、リリスとアリシアがゲームで対戦し、ポチとクロが日向ぼっこをしている。

そして夕方には最強の祖母が帰ってきてみんなで食卓を囲む。


これが俺の求めていたスローライフ。

ちょっと(だいぶ)規格外だけど、最高に楽しい我が家だ。


「よし、みんな! 休憩終わり! 夕方の収穫に行くぞ!」

「Yes, Master!」

「はい、海人さん!」


俺たちは立ち上がり、夕焼けに染まる畑へと歩き出した。

俺たちの物語はここで一旦の区切りを迎える。

だが、この「最強の農家」の伝説はまだまだ始まったばかりだ。

世界が本当に平和になるその日まで、俺は鍬を振り続けるだろう。


なぜなら、ここには守りたい「日常」があるのだから。


ーーー第1部 完ーーー

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