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誕生日に『国宝級の聖剣』をもらったので、大根の皮むきに使っていたら世界が崩壊し始めた件

「ハッピーバースデー、海人さーん!!」

「Happy Birthday, Master!!」

「お兄ちゃん、おめでとー!!」


クラッカーの音と色とりどりの紙吹雪が舞う。

俺、雨宮海人の家の居間はかつてないほどの賑わいを見せていた。


今日は俺の二十五歳の誕生日だ。

普段は静かな古民家だが、今日ばかりは飾り付けられ豪華な料理が所狭しと並べられている。


集まってくれたのはいつものメンバーだ。

甲斐甲斐しく料理を取り分ける凛華さん。


筋肉を見せつけるようにケーキを運んでくるレオくん。

俺の膝の上をキープして離れないリリス。


そして部屋の隅でゲーム機を握りしめながら「おめ!」と叫ぶ聖女アリシアさん。

足元にはポチとクロ。

さらに、空中に浮かぶサクラがこの様子を世界中にライブ配信している。


『【記念枠】今日は主役の誕生日パーティーです。スパチャが止まりません』


サクラの嬉しそうなアナウンスが響く。

同接数は驚異の三百万人。

もはや一国の人口レベルだ。


【コメント欄】


ダンジョンマニアLv.55:

メンツが濃すぎるwww


名無しの視聴者:

おめでとう兄ちゃん! あんたに出会えてよかったよ


剣姫ファン:

凛華ちゃんが完全に新妻の顔してる……尊い


世界政府:

この部屋に核ミサイル落ちたら地球の戦力が9割消滅するな


「みんな、ありがとう。こんなに祝ってもらえるなんて思わなかったよ」


俺は照れくさくて頭をかいた。

会社員時代は誕生日は終電の中で一人カロリーメイトを齧っていたものだ。

それが今やこんなに温かい仲間に囲まれている。

人生何があるか分からない。


「さあ海人さん、これ、私からのプレゼントです!」


凛華さんが恭しく細長い包みを差し出した。


「えっ、いいんですか? 開けても?」

「もちろんです。海人さんの役に立つものを選びました」


俺は包み紙を丁寧に破いた。

中から出てきたのは白銀に輝く美しい「刃物」だった。

鞘から抜くと部屋の明かりを反射して神々しいほどの光を放つ。


「うわぁ、すごい切れ味良さそう! これ、包丁ですか?」

「包丁……? あ、いえ、まあ似たようなものです!『聖剣・アロンダイト』と言って、どんな硬い素材でも豆腐のように切れます」

「へぇ、アロンダイトっていうメーカーなのか。ちょうど刺身包丁が欲しかったんですよ。ありがとう、大切に使います」


俺は試しにテーブルにあったタクアンを切ってみた。

スッ……。

刃の重みだけでタクアンが原子レベルで切断され、断面が鏡のように輝いている。


「すげぇ! 細胞が潰れてない! これなら最高の料理が作れます!」


【コメント欄】


武器マニア:

待って 今さらっと「聖剣アロンダイト」って言わなかった?


歴史学者:

行方不明だった国宝じゃないか! それ包丁にするの!?


名無しの視聴者:

タクアン切るのにオーバースペックすぎるwww


「Hey, Master! 俺からもプレゼントだ!」


レオくんがバスケットボール大の「真っ赤な宝石」をドンと置いた。

触るとほんのり温かい。


「これは『ヴォルケーノ・コア』だ。火山のエネルギーが凝縮されている。寒い夜でもこれを抱いて寝ればポカポカだぜ!」

「おお、綺麗なルビーだね。湯たんぽ代わりってことか。エコで助かるよ」


俺はその宝石を撫でた。

実はこれ、Sランクダンジョンの最奥でしか手に入らない都市一つを灰にできるエネルギー塊なのだが俺にとっては「ちょっといいカイロ」だ。


「我からはこれじゃ!」


リリスが差し出したのはドクロの形をした不気味な指輪だった。


「『支配の指輪』じゃ。これを嵌めれば下等な魔物は一睨みで服従させられるぞ」

「わぁ、パンクなデザインだね。ファッションリングかな? ありがとう」


俺が指にはめると指輪から溢れ出ていた禍々しい黒いオーラが、シュンッ……と消滅し、ただの銀の指輪になった。

俺の「無自覚な浄化」が発動したらしい。


「なっ!? 呪いが……解けた……?」


リリスが目を丸くしているが、俺は「サイズもぴったりだ」と喜んだ。


「あ、私からはこれねー」


アリシアさんがゲーム画面から目を離さずに投げ渡してきたのは古びた巻物だった。


「『復活のスクロール』。もしうっかり死んじゃってもそれがあれば蘇生できるから。保険みたいなもんよ」

「えっ、保険証券? 助かるなぁ、自営業だと保障が薄いから」


俺はそれを大切に懐にしまった。


【コメント欄】


ダンジョンマニアLv.55:

総額いくらだよこれ


検証班A:

国家予算3つ分くらいですね


名無しの視聴者:

兄ちゃん、その装備ならラスボス戦に行けるぞ


海人:みんな実用的なものをありがとう! 明日から畑仕事が捗りそうです!


俺は満面の笑みでカメラにピースした。

最高の誕生日だ。

この幸せな時間がずっと続けばいいのに。

そう思った、その時だった。


ズズズズズズズズ…………。


「ん?」


最初は遠くで雷が鳴ったのかと思った。

だが、音は空からではなく地面の底から響いてきていた。


カタカタカタ……。


テーブルの上の皿が微かに震え始める。


「地震か?」

「……Master?」


レオくんの表情が変わった。

彼だけではない。

凛華さんも、リリスも、アリシアさんも、遊びの表情を消し険しい顔で周囲を警戒し始めている。


「海人さん、今の音……ただの地震じゃありません」


凛華さんが聖剣(包丁)に手を伸ばす。


「え? そう? よくある地鳴りじゃない?」


俺が呑気に答えた瞬間。


ドォォォォォォォォンッ!!!!!


突き上げるような縦揺れが家全体を襲った。


「うわっ!?」


俺はバランスを崩しそうになり、慌ててリリスを抱きかかえた。


「キャアアッ!」

「みんな、大丈夫か!?」


家が軋む。

柱が悲鳴を上げる。

だが、それ以上に異様なのは「外」だった。

窓の外、さっきまで青かった空が見る見るうちに禍々しい紫色に変色していく。

太陽が黒く染まり、空に亀裂のようなオーロラが走る。


『警告。警告。世界規模の魔素励起現象マナ・バーストを観測』


サクラの声が普段の可愛らしいものではなく、無機質な警報音に変わった。


『世界各地の主要ダンジョンが一斉に活性化。……臨界点突破。グランド・カタストロフィ(世界崩壊現象)発生します』


ビーッ! ビーッ! ビーッ!


凛華さんとレオくんのスマホから聞いたこともない不協和音のアラームが鳴り響く。

J-Alertではない。

全世界同時発信の「人類滅亡警報」だ。


「嘘……でしょ……」


凛華さんがスマホの画面を見て絶句した。


「東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ……全主要都市のダンジョンからSSランク級のモンスターが溢れ出してる……」

「This is bad... これは『スタンピード』なんてレベルじゃない。古代の予言にある『終わりの日』だ……」


レオくんが震える手で窓の外を指差した。

庭の向こう、山々の木々が枯れ果て、代わりにクリスタルのような棘が地面から次々と隆起している。

世界そのものがダンジョンに侵食されようとしているのだ。


【コメント欄】


名無しの視聴者:

おい、外やべえぞ! 空が割れてる!


ニュース速報:

避難してください! ただちにシェルターへ!


ダンジョンマニアLv.55:

終わりだ……世界が終わる


サクラ:『マスター、このエリアの地下震源にて超高密度のエネルギー反応。このままではあと十分でこの場所は崩壊します』


「崩壊……?」


俺はサクラの言葉を聞いてハッとした。


「まずい……! ばあちゃんが言ってたのはこのことか!」


俺は叫んだ。

凛華さんが期待の眼差しを向ける。


「海人さん! 何か知っているんですか!? この現象を止める方法を!」

「ああ、知ってるも何も!」


俺は立ち上がり拳を握りしめた。


「この家、築百年だから『基礎』が緩んでるんだよ! 地震が来たら杭を打ち直さないと、家が傾いて潰れちゃうんだ!」

「……はい?」


凛華さんたちがコケそうになった。


「き、基礎……? 世界が滅びそうなんですよ!?」

「世界より今はマイホームだろ! 住宅ローンはないけど建て直す金はないんだ!」


俺にとっては死活問題だ。

せっかく手に入れた安住の地。

みんなと笑い合えるこの場所を地震ごときで失ってたまるか。


「レオくん、凛華さん! 手伝ってくれ!」


俺は納屋へと走った。


「庭に『アレ』があるはずだ。ばあちゃんが遺した地盤沈下を防ぐための特大の『杭』が!」


俺が取り出したのは長さ五メートルはある黒鉄の杭だった。

表面にはびっしりと幾何学模様(封印術式)が刻まれているが俺には「滑り止めの溝」に見えている。


「これを庭の『ツボ(魔力噴出孔)』に打ち込めば揺れは収まるはずだ!」

「Wait, Master. それは『アース・パイル(大地安定化杭)』……神話級のアーティファクトじゃないか!?」

「いいから運ぶぞ! ポチ、クロ、手伝え!」

『ワォン!』

『キュウ!』


俺たちは庭の中心へと走った。

空は紫色に燃え地面は激しく波打っている。

世界中の人々が絶望し祈りを捧げる中。


俺の配信だけがとんでもない映像を流し続けていた。

それは世界の終わりを前にして、必死に「家の修繕」をしようとする男と、それに巻き込まれる最強の仲間たちの姿だった。


「位置についたか!?」


俺は杭を地面に突き立てた。


「レオくん、凛華さんは杭を支えてくれ! リリスとアリシアさんは、杭がズレないように魔法で固定だ!」

「わ、分かったわ! もうヤケよ!」

「Do it, Master!!」

「海人、頼んだぞ!」


仲間たちが杭にしがみつく。

俺は祖母愛用の「特大ハンマー(ミョルニル級)」を構えた。


「いくぞぉぉぉぉッ!!」 全身の筋肉が唸る。『農具の呼吸・奥義――天地開闢てんちかいびゃく・杭打ち』!!


俺は渾身の力を込めてハンマーを振り下ろした。

狙うは杭の頭。

この一撃で家の傾きを直し、ついでに世界の崩壊も(ついでに)止めてやる。


「止まれぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」


カッッッ!!!!!!


ハンマーが杭に接触した瞬間。

世界が光に包まれた。

これは、ただの農家が物理的に「惑星の地殻変動」を釘打ちで止めようとする、無謀で偉大な挑戦の記録である。

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