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ループ100回目の悪役令嬢は、もう平穏に昼寝がしたい  作者: 河合ゆうじ
安眠妨害の元凶を排除いたしますわ

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第31話 魂の問いかけ

その日の夜。

騎士団の、古びた作戦司令室の空気は、蝋燭の脂と、使い込まれた革の匂いで、重かった。

テーブルの上に広げられた、一枚の王都の地図。その上に落ちる、ランプの揺れる光が、集まった男たちの、硬い表情を、陰影深く照らし出している。


カイン・アシュフィールドは、その中心に立っていた。

彼の前には、彼が率いる部隊の中でも、特に信頼の厚い、十数名の騎士たちが、腕を組み、あるいは、剣の柄に手を置き、黙して、彼の言葉を待っていた。


誰も、口を開かない。

ただ、部屋に満ちる、無言の問いかけだけが、カインの肩に、ずしりと重くのしかかっていた。


「……集まってくれて、感謝する」


カインが、ようやく絞り出した声は、少しだけ、かすれていた。彼は、一度、唇を舐め、仲間たちの顔を、一人、また一人と、ゆっくりと見渡した。


「今日、お前たちに集まってもらったのは、他でもない。俺個人の、一つの『決意』について、話すためだ」


その、重々しい切り出し方に、騎士たちの間に、緊張が走る。

部隊の最年長であり、カインの父の代から騎士団に仕える、副長のラインハルトが、静かに口を開いた。


「カイン。回りくどい言い方は、性に合わん。単刀直入に聞く。我々に、何をさせたい?」


その、実直な問い。

カインは、目を伏せ、一瞬、逡巡した。

ノアの顔が、そして、イザベラ様の、あの、憂いを帯びた瞳が、脳裏をよぎる。

全てを、話すことはできない。


「……ラインハルトさん。あんたは、今の王宮が、正しいと思うか?」

カインは、問いに、問いで返した。

「何の罪もない商人を、見せしめのために、処刑しようとしている。それが、俺たちが命を懸けて守るべき、王家の姿だと、本当に、胸を張って言えるか?」


ラインハルトは、ぐっと、言葉に詰まった。

「それは……王子の、ご判断だ。我ら騎士が、口を挟むべきことでは……」


「そうだ! ラインハルトさんの言う通りだぜ、隊長!」

若い騎士の一人、レオが、声を荒らげた。「俺たちは、騎士だ! 王家に、忠誠を誓ったんだろう!?」


「俺が誓ったのは、個人ではない」

カインの声は、静かだった。しかし、その声には、もはや、一切の迷いはなかった。

「俺が誓ったのは、この国の、民の、そして、正義そのものだ。その正義が、今、歪められようとしているのなら。俺は、それを、正すために、剣を振るう」


部屋が、再び、静まり返る。

レオは、納得のいかない顔で唇を噛み、ラインハルトは、カインの瞳の奥にある、揺るぎない覚悟の色を読み取り、難しい顔で、腕を組んだ。


「……カイン。お前が、何をしようとしているのか、薄々は分かる。だが、それは、あまりに危険な道だ。それは、反逆だ」

ラインハルトの言葉は、重かった。


「ああ、そうかもしれない」

カインは、それを、あっさりと認めた。

「だから、これは、命令ではない。誰にも、強制はしない。俺一人の、覚悟だ。もし、この道が、間違っていると思うのなら、お前たちは、この場で、俺を斬ってもいい。俺は、甘んじて、その剣を受けよう」


彼は、テーブルの上の地図を見つめ、やがて、顔を上げた。

その瞳には、もはや、一片の迷いもなかった。

彼は、魂からの、問いかけを、そこにいる、全ての仲間たちに、放った。


「俺は、俺が信じる正義のために、剣を振るうと決めた。たとえ、それが、いばらの道であったとしてもだ」


彼は、一呼吸置いた。

その視線が、仲間たちの心を、一人、また一人と、貫いていく。


「――お前たちは、この俺に、ついてきてくれるか?」

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