第96話 ジャジャ〜〜ン! あなたのために用意したの!
そして、試験日を迎えるために色々準備をしたさ。
まずは冒険者の服装。だがここで、1つ問題が発生する。
シンプル……金がない。切実な問題だ。
試験で得た金のほとんどは今月分の寮費に消え、オマケにヴェルテちゃんを“置いてけぼり泣かせ”をしてしまった詫びとしてご飯を奢った。よって、手元には小銭しか残ってない。
まだ、僕の影の中には青魔法石が残っているけど、大量に売るのは目立ってしまうから、売るに売れない。
唯一の装備——愛用の外套はアイリスに渡してしまって、手元に無くなってしまったし……学園の剣を無くしたことに危うく弁償までさせられそうになった。
本当に僕って優しいよね? み〜んなに貸して、結局返ってこないんだもんよ。
いや……
正確には見返りはあったんだけど……これまた呆れる話があってさ。
『ウィル! あの時借りた外套と剣だけど……』
『……ん? あの時??』
『——ッ? 覚えてない? あぁ……やっぱり、しらばっくれるんだ。まぁ、あなたがそれを望むなら、そういうことにしてあげる』
『……はい?』
後日、アイリスが返しに来たんだよ。外套と剣を……。
だけど、試験の日から日時が経ちすぎてて、僕はすっかり貸したことなんて忘れてたんだけどね。あとになってから思い出した。
ただ……
借したものが返ってくる。これは良いことさ。真面目なアイリスだから借りパクなんてことはしないよね?
じゃあ、返してもらいましょう。
と……思っていたら……
『……な、何これ?』
僕の目の前に置かれたのはズタズタに引き裂かれた外套と、瓶に入った灰だった。
え? どういうこと!? 嫌がらせ?
借りた物をゴミにして返すって……正気を疑っちゃうんだが!?
僕ってそこまでアイリスに嫌われていたのか? ここまでされると、さすがの僕でも泣きたくなるぞ?!
『あの……ごめんなさい。あなたからの借り物なのに……こんなにしてしまって。逃げるのに必死で駄目にしてしまったの……』
『マジかよ……』
いや、まぁ〜命がかかってたんだから、仕方がないとは思うよ? それは、僕もとやかくは言わない。
だけどさ……
どうやったら剣が灰になるんだろうか? 経緯を教えてくれるかい?
「でも、安心して! 剣の弁償は私が持つし、外套は新しいのを持ってきたの!」
ほう? なんだよ。それを早く言ってくれよ。
そういうことなら、文句はない。僕にはな〜んのデメリットはないわけだし。
そこは真面目なアイリス。ちゃ〜んと考えてらっしゃる!
——もう、大好き! ってなモンだ!
ただ……僕が有頂天だったのは数秒の話だ。
『ティスリ! 例のモノを……』
『はい! お嬢様!』
『——ジャジャ〜ン! どう? これ! あなたのために用意した新しい外套よ!』
アイリスの合図でティスリさんが幕のかかったマネキンを持ってくる。それを揚々と捲って見せたアイリス。
だがここで……僕は空いた口が塞がらない呆れ様を見せることになる。
僕が「わぁあ! こんな立派な外套!? 僕に? ふわぁ〜嬉し〜い♪」とでも言って喜ぶと思ったのかね?
アイリス……君、頭いいように思えてバカだったとは……いや、これが貴族の感覚なのだろうな。まるで庶民を馬鹿にしてる所業だと何故わからないんだ。
幕の下にあったのは——真っ赤に燃えるように輝く真紅の外套。艶のある毛並みは触り心地が良さそうで、とても暖かそう。高級感あふれる豪奢で派手な衣が姿を現したんだ。
『どう? ウィル!』
『…………』
『ウィル?』
『お嬢様? どうやら、感動のあまり言葉を失ってるようですわね? とてもお喜びな様子ですわ!』
『——え? そんなに?! ふふん! なら、用意した甲斐があったってものよ! この街1番の大商会『シャミル商会』に特注で作ってもらったの! 喜んでもらえてとっても嬉しいわ! ウィル!』
皆様——僕が、何を言いたいかお分かり??
こんな派手で高そうな外套を着込む田舎のガキンチョがどこに居るっていうんだろうか??
もう馬鹿だよね。
地味で、かつ普通のでいいんだけど……どうすればいいの? これ!?
『うふふ〜〜♪』
アイリスはさ。僕が喜んでいると勘違いして、頬を染めて嬉しそうにしてるし……今更、文句なんて言えない。
かと言ってこれを普段から着用する選択なんてのもない。
で……結局、クローゼットの肥やし……
自室のインテリア、兼、布団がわりとして使っている。あったかいはあったかいんだ。役には立っている。
一応、売る——って選択肢もチラついたんだが、人からのプレゼントを売るのは……なんだか忍びないよね。
アイリスに売ったって事実が知られれば、斬り殺されかねんし。
で、結局——
なんとかお金を工面して、簡単な胸当てと外套を再購入した。
アイリスからの返礼品は一体なんだったんだろうか??