第89話 助けて
『なんで、オマエはみんなと違うんだ! この出来損ないが!』
『アナタなんて産むんじゃなかった。食べさせてもらってるだけありがたく思いなさい!』
『な〜? シトリン。なんでオマエだけ目の色が違うんだ? もしかして、本当の家族と違うんじゃないか?』
『ふむ……一族の中でも劣った能力を持っている。お主は一族の恥じゃな』
昔から——
よくみんなから怒られていた。
『ごめんなさい。お父さん』
『ごめんなさい。お母さん』
『ごめんなさい。お兄ちゃん』
『ごめんなさい。村長様』
毎日、毎日……みんなに謝った。
何度も、何度も……。
私は、人と違って出来損ないだったから……
怒られるのも仕方ない。
『オマエ……なんだ〜〜その目! 両目で色が違うとか気持ち悪い』
『……ご、ごめんなさい。ご主人様……』
『謝罪はいい……どうにかしろ!』
『……え?! えぇ〜と……どうすれば?』
『自分で考えろ——たく! 前髪でも下ろして隠せばいいだろ! 2度とこの俺様を不快に思わせるんじゃねぇえ!』
『ごめんなさい。ご主人様』
それは、今だってそう。
ご主人様は、私の目を見て気持ち悪いと言った。
私も……この目が嫌いだった。みんなと同じ金色の目が良かったのに……私の目は片目だけ色褪せている。
あぁ……どうして? どうして私はみんなと一緒じゃないんだろ?
『ふざけんな!! このクソガキぃい!!!!』
『——きゃぁあ!?』
『オマエが鈍いせいで、危うく魔物と遭遇するところだった!!』
『……グスン……ご、ごめんなさい』
『オマエは囮なんだから、しっかり自分の役目をまっとうしろや! グズ!!』
『ごめんなさい……』
『はぁぁ……それすらもできないで、オマエは一体なんの役にたつんだ。使えない。なんで生きてんだ。なんで……生まれてきたんだ? なんで拾われたんだ? すべては俺様の役に立つためだ。無駄にグダッと生きてるんじゃねぇ〜よ!』
『ごめんなさい……』
今日も私はご主人様に殴られて……また謝ってる。
今すぐここから逃げ出したい。でも……逃げてどうなるの? 私には居場所がないのに……
あぁ……私……なんで生きてるんだろう?
私はなんのために……生まれてきたの……?
誰の役にも立てず……
ただ……このまま死んでいくの?
ねぇ……
誰か教えて?
ねぇ……
誰か……
助けて
「……ん?」
「……ッ!? いきなりどうしたのよ。ウィル?」
「いや? アイリス……今、何か言った?」
「……? 何かって何?」
「いや……『助けて』とか、なんとか……」
「ウィル? 私が助けを求めてるように見える?」
「ぜんぜん。アイリスに“助け”なんて無用でしかないでしょう? すべてを斬り殺し……」
「——はぁあ?」
「いや……なんでもないです」
うむ。おかしい。
突然「助けて!!」って悲痛な叫びが聞こえた気がしたが……気のせいか?
幻聴なんて聞くほど耄碌する歳ではないと思うんだけど……おかしなこともあるもんだ。
てかね……
むしろ助けて欲しいのは僕の方なんだよ。
僕はもう既におかしな事柄に絡まれているんだからよ。
「それでね。ウィル。私、試験を受けれなかったから再試験を受けることになったの」
「ふ〜〜ん。よかったですね」
「そこで、あなたに聞きたいのだけど……試験はどんな感じだった? 結果は覗いたけど……アナタのチームだけ可笑しな点数叩き出してたわよね? どうやったのよ」
「あのぉ〜〜そんなことより……ちょっといい?」
「……? 何?」
「アイリスはなんで一般科の教室にいるの?」
僕のいる教室は教卓を中心に扇形に広がるすり鉢状の講義室である。それは、ここ学園【アルクス】のすべての講義室が同じ形状だった。
勉強机は横長で一定間隔で椅子が置かれている。生徒は各々好きな場所に腰を落とすわけだ。
僕は1番後ろの席、だる〜んと授業を聞くためにクッションを常備している。いつもは授業を1人で受け、隣の席は空席だった。
にも関わらず……
お昼休みに、その隣の席は空にあらず。
そこにはアイリスの姿がある。
教師の講義を子守唄代わりに寝入っていると、いきなり頭を叩かれて起こされた。あげく、僕の大切なクッションを乱暴に奪い去ると、世間話を始めた彼女……
で、今に至ると……。
マジで迷惑なんだけどな。だって、これ……教室で握手を交わした、あの瞬間から毎日なんだよ?
何しに来てるんだよ。この人……。
友達いねぇ〜のかな……?
……ん? その言葉はブーメラン??
——はん! なんのことだろうか? 僕にはちゃ〜〜んと友達がいるともさ。
アイリスの雑談に困惑してるとき……不意にミミルちゃんが通りかかった。
僕は彼女に助けを求める意味で話しかけたんだが……
「——わ、わ、私!! 図書室に本を返さないとなので! 失礼します!!」
と言って逃げられてしまった。
薄情な奴だな。
オシ!! 次は、ノートン君だ!!
ノ〜ト〜ンく〜〜ん♪
「——ッ……ぐ、ぐぅぐぅ……」
呼んでみたが返事がない。ただの屍……ではなく、机に突っ伏して眠ってしまってるみたい。
あれれ〜〜おかしいな? 僕の呼び声にビクッと反応したと思うんだけど……。まさか狸寝入り??
「…………」
僕は沈黙で虚空を見つめる。
あぁ〜……どうやら、2人は僕に死んで欲しいみたいだ。
……え? 友達??
そんなもの……
僕にはいなかったみたいです。