第86話 全てはこのため……
試験を終えて……あれからいろんな事があった。
ヴェルテを連れて影移動をし、通路に戻った僕だが……見張りの冒険者には、背後から現れた僕たちの姿に酷く動揺されてしまう。
人っ子1人通し記憶がなければ行き止まりである通路奥から生徒が現れれば、そりゃ〜〜驚かれるさ。
「——え!? どうして背後から!!」
「えっと……それは……」
僕はもう影移動が使えなかったんだ。思いのほか暴れすぎちゃったからね。僕の魔力は崖を飛び越えた瞬間に尽きてしまったんだよ。
飛び越える前に尽きなくて本当に良かったよ。危うく帰れなくなるところだった。
で……どう言い訳しようか悩んでたんだけど……
「……あのね! あのね!! オバケさんになったのは秘密なの!!」
「「……は??」」
このヴェルテの発言に冒険者と僕は、間抜けな声が溢れて重なった。
『オバケになった』とは——どんな言い訳なのかと……目が点でヴェルテを見つめちゃったよ。その言い訳はね〜〜よ——ってさ。
でも……
「オバケか何かは知らんが……そっちは危ない! 入り口に戻りなさい!」
「——ッうん! わかった!!」
ヴェルテワールドに触発されてか、冒険者はどうやら考えるのを諦めたようだ。ニパァ〜っと笑うヴェルテの笑顔に癒された様子。そりゃ〜〜こんな岩だらけの通路を何もするべくもなく見張ってたら、気もおかしくなるさ。少女の笑顔は最高の癒しに天華することだろう。
「お嬢ちゃん? 飴……食べるかい?」
「——ッ!? わぁ〜い! ちょうどお腹空いてたの! ありがとうオジサン!!」
「……お、オジサン?! ……うん。まぁ……いいかぁ……?」
天然ってもはや兵器だね。でもいいじゃないか。ラブアンドピースで平和的な兵器なんだからよ。
——ガリッゴリッ!!
お〜い? ヴェルテちゃん? 僕いいこと言ってると思うんだけどなぁ〜〜飴を噛み砕く音がうるさいよ。てか、飴って普通、ムシャムシャ食べるものだっけ……?
獣人の顎は強力だから大丈夫なんだろうけど……彼女をみてると常識を疑ってばかりだよ。
まったく……
でだ——
冒険者への言い訳は見事ヴェルテちゃんの可愛さで勝ち取ったのはいい。ダンジョン【夢想】の入り口にも無事に戻ってくることもできた。試験終了前にね。
だけど……ここで事件が……と言うよりとんでもない事実を知ることになる。
「——ッこ、これは!? 青魔法石ですか!!」
フェル先生の前にヴェルテはドカッと鉱石の塊を放り投げる。「オラ! 受け取れ!!」と言わんばかりに粗末にだ——実に大胆な少女である。
フェル先生のドカッと置かれた瞬間の身体の跳ねようと言ったら、もはや滑稽でしかなかった。
だけど、その置かれたブツの正体に気づいた瞬間、目を見開いて驚く彼女の姿に僕は口角を吊り上げ思わずニヤッと笑っちゃったね。
「よくコレを持ち帰りましたね。文句なしの満点ですよ!」
「ふふふ……ありがとうございます」
ついには笑いが溢れてしまったが、これは仕方ない。だって金貨がチラチラと僕の瞳に映り込んでる幻覚まで見始めてるんだから〜〜。ニヤニヤが止まらないんだ。ぐへへ……。
大丈夫、ヨダレは垂らしてない。また、ヴェルテに呆れられるわけにはいかないからね。
「で、これをどうやって持ち帰ってきたんですか?」
「——え?!」
と、ここでとんでもない質問がフェル先生から飛ぶ。
おっと! これは、まずいぞ?! どう言い訳しようかな? 神器の事は話せない。
——どうする!?
「えっとぉ……秘密ですぅ……」
で、咄嗟に出た言葉がこれだ。我ながら酷い言い訳だなって思えてなれない。
「秘密ですか? ——うん。正解です!」
「ふぇえ?」
「採取場所、方法っていうのは冒険者にとっての宝ですからね。これを簡単に吐いてしまうようでは冒険者失格です! ウィリア君! しっかりしてますね!」
「えっと……それほどでも……ありません」
なんか、いらん勘違いをしてくれた。
確かにフェル先生の言ってる事は正しいけど……それでいいのか?
些か無理がある気がするが、僕にとって好都合なので、そういうことにしておこう。
「ところで……フェル先生?」
「……はい?」
「これって……買い取ってもらえますか?」
それよりも最重要の確認事項がある。
僕が今日、この日を迎えるために散々準備を整えた。それはなんのためだったのか!?
それは、全てこの為——!!
なんのために苦労したと思ってんだ! 僕は既に魔力を使い果たして身体がだるい。魔力欠乏というヤツだ。
でも、お金のためならこれぐらい、へっちゃらだ!
……ん? 元はと言えば道草が原因? フッハッハッハ! なんのことだか僕分からないなぁ〜〜♪
「はい! 大丈夫ですよ?」
「——ッ!?」
「青魔法石は人気のある鉱物ですからね。需要は高いので高値がつきます。期待していいですよ」
「——うぅおっしゃ嗚呼!!」
僕はらしくもなくガッツポーズだ。一攫千金の夢が懸かっているんだ。この喜びを表現せずにはいられなかった。
「で……先生?」
「……? はい?」
僕は手揉みを交えてゴマをするかのように小声でフェル先生に耳打ちをする。
というのも……
「相場はいかほどで……?」
僕はこれを聞かずにはいられなかった。いやらしい話だが……これ重要だからね?
ここには青魔法石の鉱石が約2000グラムほどあるが……果たして、これはいくら相当に匹敵するのか?
さ〜〜て! フェル先生!! そのお値段!
ギュッバァ〜〜ンと大発表を言っちゃってください!!
「そうですね〜〜」
ワクワク……
「金貨……」
ワクワク……
「4枚弱って……ところでしょうか?」
ワクわ、く…………え?