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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第2章 ダンジョン試験 頼れる相棒は素っ頓狂な犬 救うは囚われ令嬢
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第83話 お願い! ウィリアを助けて!!

「無事で良かった。アイリス」

「お父様……なんで?」



 ありえない光景……目の前にお父様がいるの。



「なんでとは……」

「だって……ありえない。私……もう探してもらえないと思ってたから……」

「そんなはずないだろう? お前は私の娘だ。父として探さない筈がないだろう」



 どうして?


 だって……私は家を勘当されたのよ? なのに、公爵家の当主自ら探しにきているの? おかしなことよね?


 と、その時——



「——ん? 道案内ありがとう。おかげで娘を見つけることができたよ」



 私の手の甲に1匹の蝶が止まった。珍しい見たことのない漆黒の蝶。

 お父様は視界に飛び込んできたその蝶に、何故か恩人に向ける謝意の言葉を語りかけていたけど……これは一体どういうことなの?









 魔技【誘い蝶 】

 ……指定した対象に対して救援を呼ぶ。漆黒の蝶は敵意のない人物を探し出し、対象者へと誘う。










 それに疑問はまだ残るの……



 私、確かに刃が突き立ったと思ったのだけど……どうして無事なのかしら? 銀光に混じって黒い花びらのようなモノが散ったのを見た気もするのだけど……一瞬に起きた出来事が多すぎて何がなんだか分からない。



 ん?! ちょっと待って!! 



 そんなことよりも……!!



「お父様!?」

「——ッん?」

「ごめんなさい! こんなことお願いできる立場じゃないのはわかってる。でも……お願い! ウィルを……ウィリアを助けて!!」

「ウィリア……お前を負かした少年か?」

「ええ! あっち——瓦礫の近くにいる筈なの! 私を逃がすために私のこと庇って……お願い。彼を助けて——!!」



 ウィルを助けてとお父様に懇願した。


 今の私はお父様にこんなことをお願いできる立場じゃない。だけど……今はお父様にすがるしかない。私は声を大にして必死に訴えた。

 身体は次第に感覚を取り戻しつつある身体を動かし、私はお父様の服の袖を必死に掴んで助けをお願いしたの。



「わかった。任せておけ」

「——ッ!? あ、ありがとう……お父様……ありが……とう……」



 お父様は私の目を見て言葉を口にした。この時、お父様の微笑む姿を捉えて安心したのか。瞼は次第に重くなって……私は意識が遠のいていく……





「おい……セクル……」

「……オヤジ?! ……アイリス……見つかった……?!」

「……あぁ……アイリス……たの、む……わた……は……」

「……わ……った。まか……せ……て……」





 遠くに聞こえるお父様の声……それに重なってセクル兄様の声も聞こえてくる。一体、なんの話をしているの?


 だけど……


 私は周囲の状況を知ることはなく、瞼の裏の暗闇に……


 意識は……ゆっくり……ゆっくりと……


 沈んでいった。












 ◇


「——おい。セクル!」

「オヤジ!? アイリスは見つかったのか?!」

「ああ。セクル、悪いがアイリスを預かってくれるか? 頼む。私は少し、あっちの方を見てくる」

「わかった。任せてくれ!」



 セブンスは腕に抱いてスゥースゥーと寝息を立てる娘……アイリスの身体を息子のセクルに預けた。


 そして……



(……ん? これは、剣戟の音?)



 アイリスは気を失う寸前——ある人物の救援を懇願された。その人物とは、娘を負かしたとされる少年——何故、このような辺鄙な地下遺跡にアイリスの学友がいるのか疑問でしかなかったが、娘の必死の懇願を無碍にするわけにもいかず、とりあえず指定された方角に暫く歩いてみた。

 すると……遠くで響く金属音を拾った。セブンスはその正体をよく知ってる。ストライド公爵家は剣術の才覚ある家系だ。耳馴染みのその音が剣戟を交わす時に奏でる音だっていうのは即座にわかった。

 娘の言った荒唐無稽な戯言……だが、その全てが否定できないものへと、その音を拾った瞬間に気付かされる。


 そもそも……


 この地に訪れたきっかけもそうだが……ここ数時間の内にあり得ない疑問の数々をセブンスは拾っていた。

 アイリスの元へ誘う漆黒の蝶。そして隠し通路の先にあったゲートは蝶の導きがなければ気づくことすら難しかった。

 恐る恐るゲートを潜ると剣を娘に突き立てる男の姿。一瞬にして血は頭へと上り、その男を風の衝撃で弾き飛ばしていた。

 この時、慌てて娘を確認すると無傷——アイリスは無事だった。いや、正確には娘の身体は打ち身に火傷と、ボロボロの状態だったが、大きな殺傷傷は存在せず、剣が突き刺さった事実は確認できなかった。

 セブンスはホッとする思いだった。


 だが同時に最大級の疑問も残る。


 アイリスには確かに剣が突き立っていたように見えたが……何故無事なのか? 


 奇妙なことだらけだ。


 そして……





 「もし——そこの君……ちょっといいかね?」





 セブンスが剣戟の音を拾った地点を訪れると……


 そこにいたのは、片手が斬り落とされ、激昂する男がいるだけだったのだ。


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