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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第2章 ダンジョン試験 頼れる相棒は素っ頓狂な犬 救うは囚われ令嬢
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第82話 みんな さようなら……

 私は腰を落とし、ロングソードを鞘に収めて意識を集中させる。


 そこで、この一刀に全てを込める。



「……お前!? 何を……!」



 男は驚いた表情を見せる。

 おそらく私が突っ込んでくるとでも思ったんでしょうね。

 外套は男の視界を奪うように投げた。これを大きく振りかぶって、馬鹿みたいに大ぶりに外套を切り裂いてみせる。

 でも、その選択は間違い。

 私はそこには居ないもの。

 外套越しに切り裂こうと思っても……それは布を切っただけ。私には届かない。

 絶妙な距離で静止する。男が見た光景には、切り裂いた外套の隙間から望む抜刀姿勢の私。

 さぞかし驚いたことでしょうね? 

 だって、私から見た男の顔に『驚いた』って書いてあるんですもの。



 ふふふ……滑稽……ですこと。



 ザマァ〜〜見ろ……よ♪





「——ッ抜刀! 焔!!」

「——ッッックソアマァアアア!!??」



 私は剣を鞘から引き抜いた。力の調整なんて考えない。全力で魔力を次の一撃に込める。

 鞘は熱で熱くなり、左手の平はジリジリ痛む。確実に火傷はしたでしょうね。

 そして、引き抜く刃は焔で焦がれ、火炎の弾丸を男目掛けて放った。原理は筒が鞘ってだけで一種の大砲のよう。力任せだったから、位置関係なんて関係ない。男との距離は3メートルぐらいだったもの。外す方が難しいわ。



「——ッグァァアアアッッッ!!!!」



 火は男を押し出し吹き飛ばした。断末魔の叫びと共に遺跡の奥へと吹き飛んでいった。



「……ハァ、ハァ……やった?」



 思わず、ペタン——とその場に座り込む。私は全部を出し切ったの。魔力の枯渇で体はだるいし、腕だって痛いわ。無理矢理な技を出したせいね。


 そして……肝心の得物は……



「——ッ!? ありがとう。ここまで頑張ってくれて……。それと、ごめんなさい。壊してしまって……」



 私の手から灰が崩れ落ちる。魔力の炎で焼かれ、武器が耐えきれなかった。

 剣と鞘は役目を全うし、白い灰となって崩れ去る。風穴を通る洞窟内の風がそれを吹き飛ばしてしまった。



「あ〜〜あ! これもまた、ウィルに謝らないとね。……っと、こんなことしてる場合じゃない!? 彼のためにも早く助けを呼ばないと!」



 そう。いつまでも惚けてる場合じゃない。


 身体は重くて今すぐにでもベットに飛び込みたい気分だけど、今は助けを呼ぶことの方が先決。見張りの男は倒したのだから、堂々とゲートを使わせてもらいましょう。そしてウィルのためにも早く助けを呼んでこなくては……。 

 私は身体に鞭打って立ち上がる。そしてゲートを目指した。

 近くまで来ると、一旦立ち止まってゲートを観察をする。石のアーチは学園で見たものと遜色ない。同じように見えた。

 試しに触れてみると青く発光し始めた。ちゃんと機能する。学園のゲートと機能は同じね。ホッとしたわ。

 あとは空間ができるのを待つだけ……僅か数秒の話なのだけど、何分にも時間が間延びする感覚が私を襲う。



「もどかしいわね? 早くしてくれないかしら?」



 そんなことを口ずさんで待っていた。



 その時——



 ——バリバリッ!!!!


「——ッッッイヤァア!!??」



 身体に衝撃が走る。思わず私は悲鳴を吐き出して膝をついた。



「やってくれたなぁぁ〜〜クソアマぁ〜〜?!」


「…………ック?! ハァ……ハァ……あ、あなたぁ……は……」



 意識が吹っ飛びそうな私は、なんとか背後を望む。


 するとそこには、さっきの男……


 抜刀『焔』で吹き飛ばしたはずなのに……あの男、まだ意識があったの?!


 

「痛いだろう? どうだ? 俺の雷の魔法の味は——フッハッハッハ——!!!!」



 高らかに笑って、完全に変態って感じね。身体の半分が焼けてるのによく動けるわね。



「俺もな〜〜痛かったんだぞ? なぁ嗚呼——クソ痛かったんだぞ!! なぁああッッッ!!」

「——ッうぅ!?」



 近づいてくる男に私は頭を押さえつけられて床に押し倒される。身体が痺れて動けなかったから逃げられなかった。男の魔法をもろに喰らってしまった影響が出てしまっている。

 不覚——私はよく確認するべきだった。まさか、まだ動けるとは思ってなかったわ。私の焔の直撃を受けたでしょうに……


 ……ック。私もまだまだね。悔しい!!


 じゃなくて……


 それよりもマズイ状況になった。この状況……どうするべき?!

 私は、魔力を使い尽くした。武器もない。さらに魔法の影響で身体が痺れて動けなかった。なす術なし。



「さて……どうしてくれようかな〜〜? ただじゃおかないからな! 女!!」



 男は私を足で蹴って仰向けにすると、ロングソードの切先を私の首元に突きつける。



「何睨んでるんだよ! あん!?」

「——ッ!?」



 うぅ……苦しい。


 負けじと睨みを利かせてたら私の腹を踏みつけてきた。女の子に対してなんてことをしてくれるのよ! 最低!!



「おいおい……まだ睨むのか? 威勢がいいなぁ〜〜ぇえ!!」



 当たり前でしょう? 私は、殺されるその時まで諦めない。


 絶対に……!!


 例え——手段を失ったって、騎士としての誇りは決して手ばさない。そう——決めたのよ!!


 屈指てなんかあげないわよ!!



「馬鹿な女だなぁあ!! もういい! なら死ねよ!!」





 ……あ? 



 終わった……かな?





 目の前の男は激昂して刃を叩き落としてくる。

 高速で迫りくる銀光は眩しく私の瞳にチラつく……がこの時、その光線はゆっくりとしていて私に死の直前をマジマジと感じさせた。

 私はその光から目を離せない。ゆっくりと私の柔肌に突き立つその瞬間まで………



 ごめんなさい。



 私はここまでのようです。



 お父様……



 お母様……



 ティスリお姉ちゃん……



 ウィル……



 みんな……



 さようなら……














「おい。私の娘に何をしているんだ?」









 ……え?



 突然、鼓膜に響いてくる声。



 次の瞬間——



「……はぁあ? ——ッッッ!!??」



 目の前の男が可笑しな声を残して消えた。


 ビュッ——と風が吹いたかと思ったら消えていた。

 すると、私はフワッと背中を持ち上げられて引き起こされる。と、私の身体を大きなコートが包む。


 そして……目の前には……



「——アイリス!?」

「……お、お父様?? なんで……」



 目を大きく見開いて私の顔を覗き込む、お父様が居た。

 


 


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