第77話 戦闘とは一種のカードゲームの様なもの
戦闘とは一種のカードゲームだ。
持てる手札は自分の能力と技術で、相手が選択したカードより強いモノを選んでぶつければ良い。その瞬間——たまたま相手のカードを突き破り、相手自身にインパクトが届いた瞬間……自身の勝ちが確定する。
それが戦闘だと僕は考えている。
子供だからさ。遊びに例えて説明した方が僕としてはわかりやすいんだ。
「さて——動かないんだったら……こちらから、攻めてあげようかなぁ〜〜?」
男が言葉を口にした瞬間……シュルシュルと空気が擦れるような音が僕に届く。
瓦礫の影から男を確認すれば……突き出した腕、手の先に風の魔力が渦巻いているのがわかる。おそらく、僕を瓦礫ごと吹き飛ばそうとでも考えているんだろう。安直だが、ヒステリックな彼としては分かりやすい行動選択である。
この瞬間——
たぶん……ここがターニングポイントではないかと僕は直感した。
大きな威力の魔法ってね。隙になるって聞いたことがあるんだ。
魔力の発生に意識を集中させるだからね。
例えば、絶賛魔法を構築している彼で言えば、手のひらの先に魔力を集めて威力を高めている。これがもし暴発でもすれば腕が吹っ飛ぶかもしれない。
結構魔法ってね「うわ!? すっげぇ〜〜魔法! カッケェ〜〜!」ってクソガキ興奮現象だと思うけど、魔法を形成してる人はロマンなんて考えちゃいない危険と隣り合わせなんだよな。
冒険譚にも発動に失敗して身体が吹っ飛んだとかよく登場してね。幼少期の僕は速攻魔法への興奮は冷めてしまったよ。
『魔法おっかねぇ〜〜?!』って……
今は真実を知って当時の興奮が舞い戻ってきているがな。
と、話が脱線した。
つまり、今の男には明確な隙が生まれている。つまり〜何が言いたいかというと……僕はこの機を逃さない手はないということを伝えたかった。
が、しかし……
では……僕は自身の手札から、男に対しこの状況どのカードを切ればいいのだろうか?
例えば……
このまま相手に対して“突っ込んだ”場合。
それは真っ向から魔法を受けることを意味するので悪手である。魔法に飛び込むようなものだから命知らずな賭けでしかない。そんなことスライム君でもわかる。
次……“魔技【影移動】”を使った場合。
男はコチラの瞬間移動には対応済みだ。“風を聞く”とか言う訳のわからないチート能力の所為である。
構築段階の魔法をリリース(捨てて)して僕の迎撃に迎え打つだけで対処完了。これでは、もとの均衡状態に戻ってしまうだけだ。
それに……あまり同じ技を連発も良くない。同じことの繰り返しで、彼の興味が薄れてしまうかもしれないからな。あまり男をガッカリさせるべきではないんだ。
てか……“ガッカリ”ってなんだよ。なんで変態男を楽しませるのに全力使ってんだろ、僕は……? 意味が分からないよ。
あと……出来ることは……
糸を使った攻撃。
無意味だ。下手をすると糸が斬られかねん。
レイピアを飛ばす。
右に同じく、弾かれ終了。
魔力球……
ゆっくり飛んでく汚ねぇ〜シャボン玉の披露だ。喜んでくれるとは思うが、もはや攻撃にすらなってない。
逃げる……?
ベストアンサーだが……僕の信念が曲がる。
さてさて……手札を右から左まで眺めてみるが、僕は万策尽きた状態に等しいと分かっただけのようだ。
さて……あと残すのは……
時に——
相手の裏をかくという行為は、要は相手を“騙す”ということだ。
では、人はどういう時に騙されるのか? 突然だが考えてみたいと思う。
1つ——相手の死角を突く。
見えないところから働き掛けられれば、誰であっても事が実際起きるまで気付けない。こんなのバカでも分かる真理だ。だがこの男にはダメだ。風が彼に知らせてしまうからね。
1つ——相手の未知を突く。
“知らない”とは怖いことだ。闘いにおいて『情報を制したものが勝つ』というような言葉があるように、“知る”というのは大切なプロセスなんだ。
初見の技を披露する。これは1番相手を騙せる可能性のある選択さ。だって知らないんだもん。これに対処するには己の勘と能力にモノを言わせる必要がある。それを実行するのは実際、極めて難しい。
でも、僕の魔技【虚影】は初見だろうに男には対象されてしまったけどね。腹立たしい。
1つ——認識の齟齬を突く。
例えば同じように見える2つの事象。結果は同じでも、方法が違ってたり、それに費やすエネルギーが違ったり、それぞれに良い点と悪い点があったりと、似てるようで同じじゃないことなんて世の中にはゴロゴロしている。
僕の使う魔技【虚影】と【影移動】だって、『瞬間的な移動』という結果は同じでも、使い勝手は全然違う。それと同じさ。
思い込みというのは時に毒となる。Aだと思ったらBだった……とか? 右から攻撃がくると思ったら左から……1発の魔法かと思えば2発だったとか? 男だと思ったら実は女だった〜〜とか?
なんにせよ、人間は考える生き物だから、少しでも思考に余計な情報を足すだけで処理が追いつかなくなる。
結果、対処が間に合わなくなる。
一刹那の攻防を繰り返す戦闘においては尚のことだ。一瞬の隙は即ち死。小さなことでも大きな過ちに繋がりかねないのさ。
でだ——
僕の見つめたのは自分の手だ。そこには2枚のカードが握られている。
実際、そこにカードは見えないんだけどさ。少しカッコつけた言い方をさせてもらったよ。
僕は、今からその2枚のカードで男の意表を突こうと考えてる。実際、上手くいくかは未知数だけど……僕が考えられる手段ではこれしかない。おそらく、ラストチャンスだろう。
「——エアークラッシュ!」
男が魔法を放つ。もう、四の五の考えてる暇はない。
僕は……
「——投擲!」
瓦礫の影からレイピアを投げた。