第73話 風を読む力
「あれれ〜〜? どうしたの君——余裕なさそうだけど? もっと俺を楽しませてくれないかな〜〜?」
「——ふん! 私はまだ本気を出してないんでね。ここからです!」
「——ぉお〜〜♪ それは楽しみだ! 斬り刻み甲斐がある!」
嘘で〜〜す。はい! 虚勢で〜〜す!
だから、そんなにヒステリック変態全開でクソガキを斬り刻もうとしないでください〜〜!
僕はさっきから余裕もなく、男と斬り結んでいる。
時に、この「僕はまだ本気じゃないもん! 本気出すもん!」ってつくづくガキンチョっぽいよね? 田舎のクソガキ共から飽きるほど聞いた言葉さ。まさか僕自身が口にする日がくるとは、僕もまだまだ子供ってことかな?
と、こんな感慨に吹けてる場合じゃないのよ! まったく!!
正直、現状の僕は超〜〜やばい状況!!
あれから、男に弾き飛ばされた僕だけど……なんとか受け身をとって地面に着地をした。
しかし……
「ほら。次行くよ〜〜耐えて見せてよ!」
「——ッ!?」
男は、風魔法で加速をすると瞬間的に距離を詰めてくる。
「——ック!? 魔技【虚影】!!」
男のロングソードと僕の神器がぶつかり合い、周囲に金属音を何十とも重ねて響かせた。
たまに魔技【虚影】を挟んで距離を取るんだけれど……
「その技は見飽きたよ〜〜? もっと他にないのかな〜〜?」
「——マジかよ!?」
男は【虚影】の瞬間移動に慣れてしまったようだ。簡単に距離を詰めてくる。
「君のその“虚影”は2本のレイピアに関係しているようだね? 俺に対して距離を詰めた時、必ず一方のレイピアが近くにあった。つまり、レイピア間の瞬間的移動。これが、君の能力のようだ。一見、驚異的な能力だけど、種が割れたのなら怖くない。空間把握で君自身とレイピア2本の場所を随時把握すればいいだけのことさ〜〜。俺にはもうその技は通用しないよ?」
うわぁ~〜やばくね? この人?
魔技【虚影】を見せたのは、まだ数回だ。それなのにもう能力の全容を把握して対象するなんて——コイツ、マジで変態だぞ!!
簡単そうに言うけど……僕がいつ移動を使うか分からないだろうに!
「あれ〜〜だんまり? 腑に落ちなさそうだね? なんで、ついて来れるか疑問そうだ?」
うわ〜〜技の全容だけじゃない。僕の思ってることまで筒抜けだよ。気持ち悪!?
よし! コイツのあだ名は『変態ヒステリックオーバー』だ! ザマァ〜みろ!
「俺はね〜〜風の振動から周囲の状況を把握できるのさ。だから、意識を巡らせていれば、君が瞬間移動して急に出現しようが、不自然な振動を感じて場所と発動のタイミングが分かるんだ〜〜。だから、頑張って不意打ちを狙ったところで無駄なんだよ〜〜」
「——そりゃ〜ご丁寧に解説どうも!!」
そういうからくりか〜〜なら、この攻撃も無意味だろうな〜〜……。
男の頭上からレイピアを落とす。投擲したレイピアを操り、まるで蛇みたいに強襲する。
だが……
ズドンッと鈍い音を残し、空振りに終わる。男は身を翻しこれを交わしたんだ。レイピアは地面の石畳に突き刺さっただけ。
ほぼ死角からの攻撃だって言うのに涼しい顔で避けやがる。
たく、この男……気持ち悪いな。
これが風の振動を感じるってやつか?
「いや〜〜すごいね。君はその武器に繋がった糸を操ってレイピアの軌道を操作してるんだね。いや〜〜すごいトリッキーだ。敵にしておくには勿体無い。どうだろう。今からでも遅くはないからさ。僕たちの仲間にならないかい?」
「だから……さっき言っただろう。私はオマエらの仲間になんてならないと……」
「う〜〜ん? そうだなぁ〜〜なら、こうしよう! あの女を君にあげるよ! 好きなようにするといい!」
「——ッぁ゙ん゙?」
「彼女が欲しいから守ってるんじゃないの? アイリスお嬢様は僕たちのところで監禁しておくのが目的の道具だからさ。生きてさえいれば、君が好きなようにしていいよ。犯すなり、愛玩動物にするなり、いたぶるなりしていいからさ〜〜。ッね! ッね!! 是非、俺たちの用心棒に……」
「——なるわけないだろう。クソが!」
「——ッは?」
——魔技【虚影】!!
僕は、地面に突き刺さったままだったレイピアに向かって虚影。レイピアを掴んで引き抜くと、勢いそのままに男に斬りかかる。
「おっと! あはは! 元気が良いね〜〜!」
やはり、男は簡単に僕の一撃なんて防いでしまう。剣と剣がぶつかり合う金属音が周囲に響くだけ……この状態が、かれこれ10分ぐらい続いている。
僕の目的は時間稼ぎだから良いんだけど……
コイツ……
「子供らしくていいよ! いいね〜〜活が良い!!」
なんだよ。活が良いって?? 僕は魚か!?
って、男の言動はどうでも良いんだよ。ムカつくのは最初からだからさ。
それより……
「アンタ……本気じゃないだろう!?」
「——ん?」
数十にも斬り結んだ状況の継続中——僕は男に問う。