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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第2章 ダンジョン試験 頼れる相棒は素っ頓狂な犬 救うは囚われ令嬢
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第70話 クソガキ  VS 明らかヤバ男

 僕には男の攻撃が見えてなかった。精々、強力な風圧と魔力による空間の揺らめきを見る。もしくは風の音を聞くのが精一杯。

 だけど、そこには確実に魔法が発動しているんだ。

 個人のレベルが上がり、内包する魔力総量を増やせば、魔法に敏感になり感じることができるのだけど。

 残念ながら僕のレベルは1だ。

 いくら、神器の中に膨大な魔力があっても、肉体に備わった力ではないからか、五感で魔力は感じることができない。

 だから……男の前に躍り出る前に、貯めてあったポイントを【魔防】のステータスに振った。これで一旦、神器の強化は打ち止めとなってしまう。

 【魔防】とは、魔力に対する抵抗力が上がるステータスだ。これについて、学園の検査でレベルが上がってしまう可能性があったが……もう四の五の言う暇は僕にはない。

 これで、ちょうど欲しかった能力が手に入るんだ。

 先生への言い訳は……知恵を振り絞ってなんとか誤魔化すさ。


 で——肝心の手に入った能力だけど……


 【魔力感知】……単純に魔力が見えるようになる。本来であれば魔法由来の罠を見つける時に使うんだ。しかし僕が求めてるのは別の使い方だ。

 魔力感知を覚えることで、知覚の難しい魔法だって無理やり見ることができるようになる。

 現に、僕の目の前に青白く揺らめく事象が近づいてきた。風の斬撃だ。全部で3発。

 2本のレイピアで順番に薙いでみせた。すると、甲高い音を残して空気に霧散して掻き消えた。

 僕の持つ【影】の魔力の特徴は、魔力の吸収だからね。刃に魔技【魔装】を纏わすことで簡単に魔法を壊すことができる。アイリスの刀剣をへし折った時に見せた技術さ。

 これで……僕はこの男に対処できるはず。今、証明して見せたんだから間違いない。

 あ……ちなみに、急に飛んできた魔法に内心ビビってるのは内緒。ちびるところだった。あっぶね〜〜。体裁は保たれた。



「あぁ〜〜まぁいいや……」



 男が口を開く。その口調は、どこまでも軽やかで、自分の攻撃が簡単にあしらわれたことを微塵も感じさせない。



「別に風の魔法ってのはさ〜〜」

「——ッ!?」



 刹那—— 再び男が言葉を口にしたかと思うと……



「飛ばすだけのものだと思ってる? 君?」


 

 彼は、すぐ目の前に居た。すぐ目の前。


 うわぁ〜〜驚いた。思わず僕の度肝を抜かれたよ〜〜。


 だって……


 気づいたら男が目の前にいるんだもんよ。おまけに2本のロングソードも抜いてる。まるで僕を斬り殺そうとしてるみたい。わぁ〜〜アグレッシブですこと……あはは……!



 あはは……



 はは……



 はぁ〜〜……



 ——ヤッベェええーーじゃん!!??



 笑ってる暇なんかねぇぇえぞ!!!!



「——クッ!? 操糸!!」

「——お!」



 咄嗟に僕は、レイピアの糸を引き伸ばし身体の周囲に張り巡らす。男の気を引くかのように。



 ——ギン!!



 男が糸に切り掛かる。金属音が遺跡にこだまする。



「あらら……弾かれる。やっぱり面白いね〜〜君!」

「うるせぇ。変態——!」

「うわ。君も変態っ呼び? ショックだな〜〜」



 だが、僕のレイピアを繋ぐ糸は、魔力の糸——簡単な攻撃を弾いてくれるんだ。

 例え、攻撃の威力を完全に弾けなくても、軌道を逸らすことはできる。

 糸がしなることで威力を失い、丈夫で切れないもんだから振るわれた刃は糸を滑るように逸れる。

 男は剣が弾き返されるのを知ってか糸に煩わしさを覚え一旦距離を取った。

 たぶん全力で斬りかかってないんだろう。僕の糸を警戒して「とりあえず斬ってみよう」ってお試し感覚で剣を振ったんだろうな。

 結果——僕は奴の剣を弾き返すことに成功した。

 しかし、クソガキ相手でも油断は忘れない。その心意気は侮れないな。流石は変態男だ。

 だが、僕はこの隙を逃さない。さっきの追撃のお返しだ!



「——投擲!!」

「おっと! 危ない危ない〜〜♪」



 僕は一本のレイピアを投げる。だが、男は簡単に弾いてしまった。

 まぁ、ここまでは予想通りだ。



「次——魔技【虚影】!」

「——はぁあ?!」

「喰らえ!!」



 僕はまだ諦めない。

 すかさず魔技【虚影】を発動。

 一瞬で投擲したレイピアの元に瞬間移動をする。

 弾かれたレイピアを掴むと男に向かって振りかざした。



「——おっと!! その技はさっき見せてもらったヤツだね〜〜? 瞬間移動? 面白い技だ〜〜♪」

「——ック! 余裕で防ぐかよ!」

 


 だが……男は簡単にこれを受ける。

 逆手に持ったロングソードで涼しい顔で受け止めた。

 だって、子供の筋力なんてたかが知れてる。レベルも低いから、僕が大人になんか敵うはずがない。

 そりゃ〜涼しい顔にもなるさ。


 と、その時——



「——よっと〜〜!


(——マズい!!)



 男のもう一本のロングソードが僕に振られる。

 咄嗟に僕も、もう一本のレイピアで迎え撃ってガードした。



「——ッグ!?」



 剣と剣が激しくぶつかる。ギン——と鈍い音。僕の鼓膜にうるさく金属音を残し弾き飛ばされた。



「……あぁ……ッぶねぇ……」



 なんとか転がるように地面に着地した。

 僕の心臓はバクバクとうるさく気も滅入る。

 だけど、今は戦闘中だ。男から視線は逸らさない。

 すかさず、弾き飛ばされてしまった方向を見る。

 


「いや〜〜驚いた。君、強いね〜〜? その身長だと、おそらく子供なんだと思うけど、流石だ。末恐ろしや〜〜♪ よく戦えてるよ! アメ〜ジング!!」

「あっそう。そりゃど〜も!」



 嬉しくない盗賊の褒め言葉を聞き、僕は思わず皮肉に答えた。

 男は、ロングソードを一旦鞘に収めると、ゆっくり拍手を交えて僕に話しかけてくる。

 魔技【虚影】の瞬間移動を見た時は目を見開いて居たんだけどな。今の男の表情は余裕そのものだ。

 はぁ……なんだよ。慌ててるのは僕だけか? チクショウ。


 てか……


 なんで僕は、こんな激しい戦闘をしてるんだ? こんなの予定にないんだけど?!

 運命よ——『クソガキ VS 明らかヤバイ男』なんてさせないでくれ……この世の神はアホなのかしら?

 はぁ〜〜アホらしい。



「ねぇ〜〜君?」



 と、僕が呆れていると……



「俺達の仲間にならないかい?」

「……はぁあ?」



 男が突然、仲間になりたそうに見つめてきた。とんでもない要求が彼の口から言い放たれる。


 いやいや、なんだこれ?



「いやぁ〜〜君なら俺の部下の中でも群を抜いて強いからさ。是非、人員として欲しいなって思って……ね? どうだろう」

「お断りします」

「あらら……即答〜〜?」



 当たり前だろう。僕は善良なしみったれたクソガキ。普通の一市民ですよ。なんで盗賊なんてやらなくちゃいけないんだ。馬鹿なのかコイツ。



「私は、善良な人間なのでね。盗賊なんかの仲間になんてならないさ」

「盗賊? あのさ〜〜アウトローって言ってもらっていいかな? 君……」

「——はん! 同じでしょう?」

「いやいや——これが違うんだ〜〜なッと!!」

「——ッ!?」



 男が突然、会話をブチ切って、何やらボールのようなモノを投げてくる。


 いや……ボールなんかじゃない。


 あれは……



「——クソ!!」



 たぶん、僕は……“あれ”を知っている。


 これに気づいた僕は、ヒヤッとして飛んで逃げた。それも全速力で。


 すると……


 ——ピュ!!


 と、あの口笛……


 そして、僕の居た地点が激しく青白い渦が巻き、風が石畳を破壊して見せた。

 あれが、例の部屋を破壊した一撃なのだろう。とにかく威力がおかしい。

 だって石畳が切り刻まれているんだもんよ。あんなの喰らったら一巻の終わりさ。



「君——余所見してていいの?」

「——はぁあ?!」



 近くから聞こえる男の声。

 咄嗟に逃げた僕だけど……気づくと男が僕のすぐ目の前にいた。驚異的な速度だ。

 おそらく風の魔力で速度の底上げがされている。だから一瞬にして距離を詰められてたんだ。


 そして……



「——ほら? 耐えてごらん」

「——クソ!?」



 僕は2本のレイピアを手前で交差させて攻撃に備えた。


 だけど……


 男の振りかぶったロングソードを受けて再び弾き飛ばされてしまう。


 この男——


 僕より遥かに強い。


 これは、ここまでで感じた僕の考察である。








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