第67話 やってくれたな! あの野郎!!
「くそ……やってくれた。あのやろう……!」
僕は遺跡の壁を突き破った。周りは石壁に囲まれた部屋だ。そこに置かれた木箱を押しつぶすことで勢いを止めた。
ここは、よっぽど放置された部屋のようだ。埃が舞って周囲の視界が悪い。
「ああ。“お守り”が壊れた。一回死んだな。これ……」
男が発動させたのは、おそらく風の魔法だな。
直前の記憶では、ポケットから手を出して腕を突き出し『エアーブラスト』と唱えた男の姿を捉えている。僕の身体を吹き飛ばし、遺跡の壁を突き破る勢いで弾き飛ばされた。これが本当の魔法の威力ってもんだ。
ナメクジ君や、アイリスの魔法モドキを遥かに凌駕する威力だよ。
僕のことを、一撃のもとで殺してくれたんだ。その威力は証明されている。
……ん? じゃあ、なんで平気に喋ってるかって?
あぁ……と、それは僕の呟いた『お守り』が関係してるんだ。僕は確かに一度死んだんだよ。
魔技【影の蝶】
……魔力で蝶を形成し『影の蝶』を召喚する。『影の蝶』は術者の周囲を飛び、一度だけ衝撃から守ってくれる。最大3匹召喚できるが、再形成まで24時間かかる。
僕の視界の横にヒラヒラと2枚の羽が散った。これは僕の【影の蝶】が壊れたことを意味している。
実はこれ……僕の新しい力なんだ。
試験でダンジョンに潜ることを知って急遽用意した能力。
こっそりチュートリアルダンジョンに潜る予定だったからさ。もしもの備えってやつだ。
しかし、壁を突き破った衝撃で1つ壊れてしまった。僕に残る【影の蝶】は1つ……本当はヴェルテちゃんにつけてあげてたんだけど、荷物を預けた時に持ち逃げしてきた。
それにしても無事発動してくれてよかった。僕のレベルは1だから、魔法なんて食らったら一撃死する。
壁を突き破るほどの衝撃を防げる鋼の肉体なんてクソガキに備わってるわけないんだからさ?
てか、普通誰だって死ぬって……錐揉み回転しながら岩壁にぶつかればさ。
そう考えると【影の蝶】って、なかなかに強い能力だな。死ぬほどの衝撃を防いで僕はケロッとしてんだもん。
だけど、これにも弱点だってある。
説明には衝撃を防ぐとあるが……衝撃の度合いに明確な範囲がないんだよ。だから最悪の場合、殴られただけの衝撃だって反応してしまうかもしれない。召喚するとオート発動だから、融通が効くかどうかは蝶々の気分次第なのさ。
そういえば……さっき、アイリスの剣。あれ、避けれて正解だったな。あの衝撃で危うく蝶が1匹死ぬところだったぞ。これ、壊れると再発動に1日かかるんだよ。彼女のアグレッシブには困らされてばかりだな。
え? お前がいけないだろって?
さて……なんのことだか僕さっぱり……
そんなことより、あの男だ。
いきなり子供相手に魔法をブっ放すとか、碌でもない大人だなぁ〜〜って……
「……ん? え?」
僕の視界に奇妙なモノが映り込む。
部屋は今だに埃が舞っている。
ゲホゲホと咳き込んで、煙たいのなんの。
だけど、部屋に穴が空いたことで、埃は穴から逃げ出して視界は見通しが効くようになる。
そんな時だった——
「……え? 光線?」
僕の目に飛び込んでくる光線。これはアイリスの頭上に瓦礫が崩れる前にも見た。まるで陽炎のように、一瞬空間が揺らめいたように見えた。
そして……
——ピュ!!
と空気の震える音……これもさっき聞いた音だ。
だけど……
「——ッ!!??」
この時、新たに違った現象を視界に捉えた。
目の前の埃が渦を形成して集まりだしたのだ。
次の瞬間——
「——嘘だろ!? マズイ……!!??」
目の前で空気が破裂する。無数の斬撃が舞い。部屋は木端微塵に粉々となり崩れ去ったんだ。
僕、諸共ね。
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♢ウィリアステータス♪♢
神器【虚と影】 Lv. 28《Level up!》
神器所持者【ウィリア】 Lv.1
攻撃 Lv.3 技量 Lv.3
魔力 Lv.7 魔防 Lv.5
速度 Lv.5 運命 Lv.1
抵抗 Lv.1>Level up!>Lv.4
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【技術】・投擲(弱) ・刺突(弱)
・剣術(弱)《new !》
・糸術(弱)《new !》
【魔法】・影の魔力球(魔法笑)
・魔装(弱)
【魔技】・虚影 ・影移動
・影縫い
・影の蝶 《new !》
・誘い蝶 《new !》