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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第2章 ダンジョン試験 頼れる相棒は素っ頓狂な犬 救うは囚われ令嬢
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第64話 無言の間って気まずいよね〜? で、いざ話しかけたらそれはそれで地獄だよね〜?

「…………」

「…………」



 互いに互いの呼び方を決め合うのはいいんだ。


 だがな……この無言の間はなんだ?


 別にお喋りしたいわけじゃないけどさぁ……


 僕とアイリスの周囲を包むのは洞窟だと言うのに吹き抜ける風切り音だけしかない。あとは、石畳を跳ねる2人の足音ぐらいだ。前を歩く僕に、アイリスが一定の距離を開けてついてきている感じ? 振り返って確認したわけじゃないけど……大体5メートルぐらい離れているんじゃないかな? 僕はそんなアイリスの歩幅を鼓膜で拾ってたんだ。


 それで僕が何を言いたいのかというと……



 うん……気まずい。



「……あ……あのぉ……ウィル?」

「……ん?」



 そして、この沈黙を最初に破ったのはアイリスだった。声は途切れ途切れで聞き取り辛くはあるが、これはどうも無理をして話しかけたようだな。彼女も僕と同じ気持ちだったのか、沈黙に耐えられなかったとみた。



「——何? どうかした?」

「……え?! えっとぉ……そのぉ……」

「……?」



 この時、振り返ってアイリスを見る。歩きながらだったから、チラチラとだったんだけど……なんだあれ?


 なんか、ソワソワ、モジモジして、会話もモゴモゴと……


 これは……



「——ッ! ぁあ〜〜そういうこと?」

「——え!?」



 もしかして……



「トイレ行きたいの?」

「……は?」



 うん。これは……トイレに行きたいんだな。

 さっき水、がぶ飲みしてたしね!

 なんだよ。我慢してたんだったら早く言ってくれればいいのに〜〜。



「じゃあ、僕は向こうに行ってるから終わったら教えて……」

「——ッ!!」

「——ッ!? うわぁあ!? あっぶね!!」



 僕は身体を捻って回避した。


 アイリスが急に手に持った剣を僕に向かって思いっきり振り切ってきやがった! いきなり何するんだ! この、アグレッシブ令嬢!?

 剣は鞘に収まった状態だったけど、危ないだろうが! 思いっきりフルスイングしやがって!? 



「——オイ! 何すんだよ!!」

「——ッフン! ウィルのバカ」

「——ぁ゙ん゙?!」



 まったくもって、全然理解できない。

 アイリスは罵声だけ僕に吐き捨てると僕の横を通って前に歩いていってしまった。今の会話の何がいけなかったって言うんだよ。気を遣ってやっただけだろうがぁあ!

 うぅ……まったく、最近の女の子はよくわからないな。

 僕の妹を相手にしているようだよ。何をしたわけでもないのに、僕をゾウリムシでも見るような視線を向けてきて……丁度、僕の横を通り過ぎていったアイリスが見せた目つきも、そんな妹達のそれと同じだった。



「はぁぁ……」



 なんで怒ってしまったのか? 僕の中には謎だけが残るも……結局、その答えを憤怒のアイリスに聞くわけにもいかず。

 ただ、ため息だけを吐き捨てて仕方なく彼女の後を追った。だって、僕にはそうするしかないんだから仕方ないだろ? 他に選択肢があるなら、誰か教えてください。


 そして……


 仕方なく前を見据えた僕だけど……視界の端に——



「……ん?」



 何か白い線……筋のようなモノが写った。それはまるで宙に浮く蜘蛛の糸のように一瞬にして煌めく細い光の線。それがアイリスを追って行くかのように流れていく。

 つい、僕の視線はそれを追っていた。だが、あまりにも一瞬の出来事だったから、うまくは追うことができなかった。


 と、それと同時に……



 ——ピュ!!



 と、空気の震える音がした。言ってみれば風の音のようにも聞こえるが……耳元で口笛でも吹かれたかと思うような音だ。

 特に僕は気にも留めなかったが、それでも不思議な事象に触れたという認識を得たんだよ。


 すると次の瞬間——



「——ッ!? アイリス! 危ない!!」

「……え?!」



 僕は思わず叫んでいた。



 だって……



 急に遺跡の一部が崩れてきて、それはアイリスの頭上めがけて降りしきったんだから……


 僕は咄嗟に駆け出した。この時、伸ばした腕はアイリスの身体を押し出して、落ちてくる瓦礫の範囲外に弾いた。


 はぁ~……どうして僕はこんな目ばかり合うんだろうな?


 女の子を助けてしまうチャンスなんてさ、そうそうないだろう? そんな機会……僕みたいなパッとしない田舎者なんかに与えるんじゃないよ。

 たぶん、この物語を書いた脚本家はアホなんだろうな?

 


 僕は崩れ落ちる瓦礫に飛び込み、頭上の遺跡の残骸をただ見つめる。



 そして……



「——ッ!!?? ウィルッ——!!」



 遠くで僕の名前を呼ぶアイリスの声を聞いた。


 

 だが……



 この時のアイリスの悲鳴なんて崩れた瓦礫の轟音の前では一瞬にしてかき消えてしまったんだ。


 



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