第61話 さて どうしましょう!?
「夢……じゃないわよね? どうしてあなたがここに……?」
「えっと……」
やばい……起きちゃったよ。おい。どうするのよこれ?!
僕はメモをアイリスに握らせようと思って、彼女の手を取った。
するとだ……うっすらと目を開けたアイリスの視線を拾った。
最初は気の所為かなぁ〜〜と思ったが、見つめかえしていると案の定——話しかけてくるではありませんか?
ふふふ……おはよう。お嬢様。もう少し寝ててもいいんだよ? むしろ寝ててくれよコンチクショ〜♪
あとちょっとだってところで目を覚ますとか——マジでタイミングの悪いこと悪いこと——どうする? 一度殴って気絶でもさせる?
「それに、ここは……私が捕まっていた部屋じゃないわね。どうして……ッ!? ……イタタ……あの男。私の顔を思いっきり蹴ったわね。会ったらただじゃおかない」
アイリスはすかさず上体を起こそうとするが、痛そうに頬を擦った。
これじゃあ、追い打ちかけて気絶なんてさせられないよ。僕は慈愛のウィリアであって、鬼畜のウィリアじゃないんだからな? もう!
え? 思考がもはや鬼畜のそれ? ば、馬鹿な!? そんなはずないじゃあないか! 何かの間違いだ! そんなのは——!
「それより……ウィリア? 私の手に何かよう?」
「……え?」
「さっきから、ずっと握ってるんだけど……あと、その紙は何?」
「えぇ〜……あはは、なんだろうね。ただのクズゴミかな?」
アイリスが起きてしまったのなら、このアグレッシブ盗賊さんからのラブレターは不要だな。
こんなのクシャクシャにして——ポイだ!!
てか、僕はさっきから、思考に集中するあまりずっとアイリスの手を握ったままだったようだね。
姫の手の甲にキスでもしたら目覚めちゃったラブロマンス的一場面を切り取ったかのような光景だ。こんなしみったれクソガキとのラブロマンスがどこ需要か分からんけどな。
ここは僕のユーモラスを表現するために、起きがけのアイリスにそんな冗談を言ってみようかな?
「何、さっきから黙って見つめてきているの? 気持ち悪いんだけど? 早く離してくれる?」
お〜ぅ……ボク、悪いコト何もシテナイノニ、ナゼに罵声を浴びせられているデスカ〜〜?
美女に触れたから——?
アイリスの下着姿を観たから——?
アッハッハ〜〜そんなのって…………うん。
殺されても文句言えないわな。
これ以上、アイリス嬢を怒らせれば、本当に拳が飛んで来そうだぞ。冗談を言ってる場合じゃないな。僕の身の安全のためにも……ここはスルースキル発動だ。
「それより——なんでここにいるの説明して!」
と、そうこうしているうちに、アイリスが我慢の限界のようだ。体力は落ちているだろう様相を見せるが、それでも眉間に皺を寄せた表情には力強さを感じ、それでいて声を張り上げる。
ちょっと……大声出すのは控えてくれないかな? 盗賊にバレちゃうからやめてくれよ……。
隠密って言葉知ってるのかなこの人?
まぁ、「敵? そんなの斬ればいいじゃない?」とか言ってきそうだし。その辺はアグレッシブさ全開っぽそうだし、知らないんだろうな。
それと、不思議だね? 美人って、どんな状況でも、例え怒っていようが美人なんだね?
関心関心——と、そんなことに関心を寄せている場合じゃねぇ〜〜んだ。
この状況……どう説明したもんか。誤魔化して、僕だけこの場を離れる訳にはいかないし。
それに……
「私に納得のいく説明をしてちょうだい! 場合によってはただじゃおかないから!」
なんで、このお嬢様、起き掛けでこんなにプリプリしてるんだろうか? もう、僕が助けなくても、その怒りを糧に盗賊なんて蹴散らしてしまいそうだけど?
ときに……怒りとは一種の興奮状態である。
それでいて、アイリスという人間はなかなかに頭の切れるヤツだ。この状況で適当に逸らかせば何をされてしまうか分からない。考えるだけで……焔が飛んでくる未来が見えたぞ? おぉ〜〜怖い。
適当に誤魔化すのは難しいな。
ふむ……あぁ〜〜めんどくさいけど……ここは仕方ない。
「はぁぁ……」
「——ッむ!?」
僕は1つため息をつく。すると、アイリスは唇を尖らせ、僕の一動作にムッとした表情を見せた。
「アイリス様——助けに来ましたよ」
と僕は口にする。