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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第2章 ダンジョン試験 頼れる相棒は素っ頓狂な犬 救うは囚われ令嬢
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第60話 クソガキの溢れる良心が暴走したら……うわッやっちまったよ!

 さて、この状況どうする。


 というより、これどんな状況?!


 目の前には寝息を立てるアイリスの姿がある。この時点で気づいてしまったが……先ほど盗賊さんが言っていた『女』とはアイリスのことだったようだ。

 まったく、これはどんな巡り合わせなんだか……偶然にもほどがあるだろう。攫われたとは話に聞いていたが、まさか僕が見つけてしまうとはな。

 で、僕はこの事実を踏まえてどうすればいい? 何気なく侵入した盗賊のアジトに数日前から行方をくらませていた同級生が捕まっている。


 ふむ〜〜……うん。よし!


 ここは、スルーだな。


 僕は何も見なかった。そういうことにしよう。


 一見薄情のようにも見えるけども、ここで僕が彼女を助けたとしたら当然説明責任が発生してしまう。それは盗賊さんに囚われてしまった『女』という人物が、知り合いだろうとなかろうと同じなわけよ。

 で、あろうことかアイリス嬢だよ? これ、助けたら絶対質問攻めにあう未来しか想像できん。ましてや僕の力の一端でも見せればアウトだろうね。



『ウィリア? どういうことだか説明してくださる?』



 おっと、幻聴が……つい身震いしてしまったぞ! この僕としたことが!?


 やはり、ここは関わるべきではない。可哀想だからせめて拘束を解いて僕の安物の剣だけでも置いて行こうかな? 彼女ほどのアグレッシブandヒステリックを持ってすれば……きっと無事に脱出できるはずだからさ。そうさせてもらおう。


 ただなぁ……



「悪趣味だな……」



 不意に思った事を口から吐き出してしまった。


 アイリスは上着を脱がされて、手足を縄で拘束されている。顔には殴られたような跡もあった。そして、頬が濡れている。これは、たぶん泣いてたんだと思う。



「虫唾が走るよ……こういうの見させられると……」



 僕は所詮田舎出身のクソガキで、己の皮を破るため都会で生きる事を夢見たシティーヒューマンだ。

 昔、母から読み聞かせられた英雄譚は好きだったけど……己自身を英雄だと勘違いするほど馬鹿じゃないし願望もないさ。それでいて、結局自分が良ければ全て良しの自己中であるとも思ってるよ。

 

 でも——


 普通に痛める心はあるからね? 悪魔の心だとでも思った?


 これでも一応、見損なってるんだよ? おいおい、盗賊さんよ~〜? 女の子の顔を殴るとか、狂気の沙汰だな。


 あぁ……もう……


 僕は気づいたら指で涙を拭っていた。なんで、こんな事をしたかは僕自身もよく分からん。こんなこと、しみったれたクソガキにさせるんじゃなく、そこら辺のイケメンにでもさせろよな〜〜って感じだもんよ。僕がイケメンムーブ決め込むとか滑稽でしょう? 


 笑っていいよ別に?


 さて……


 とりあえず拘束を解こう。

 固く縛られた腕と足の縄をナイフで切ってやると、縄の下は青くなっている。よっぽど固く縛られていたんだろう。なんとも痛々しい。

 そして、僕はおもむろにアイリスを背負う。彼女は凄く軽かった。図体の小さい僕でも、そう感じるほどに。

 これ、ちゃんとご飯食べさせてもらってたんだろうか?

 あぁ〜〜これが子を思うオカンの心境なのだろうか?



「影移動」



 まぁ、そんなくだらない想像はどうでもいい。それよりも脱出を急ごう。



 まず影移動で鉄格子の外へ出た。


 そこから……



「影移動」



 目視で視認できる影を見つけて、その場を離れる。宝物庫なんて重要拠点は人が集まりやすい。なるべく距離をとったほうがいいと考えたんだ。


 

「ここまでくれば安心かな?」



 そこから転々と影移動を重ね、距離を取ったところでアイリスを下ろす。石壁を背もたれにして寝かせる。


 で……足元には僕の剣を置いた。


 そして……紙とペンを取り出すと、彼女にメモ書きを残す。





——天井に向かう壁のひび割れを目指しなさい。そこに出口がある。足元の剣は餞別だ。上手く使うといいだろう。幸運を祈る。


---byアグレッシブ盗賊---




 そう、紙に書いた。


 僕の存在は知られるわけにもいかないからね。あとは彼女次第さ。それと、僕から祝福を1つ授けよう。



「——魔技『影の蝶』」



 僕が人差し指を立てて言葉を口にすると、指先に1匹の漆黒の蝶がどこからともなく現れて止まった。



「彼女の道案内。それと助けてあげて——頼んだよ」


「…………」



 蝶は僕の言葉に無言だったが……言葉に反応してヒラヒラと飛び立つと、アイリスの頭にちょこんと止まり、羽を折りたたんで静止した。その挙動は承諾を表しているかのようだ。



「さてと、僕のやるべきことは済んだ。あとはこのメモ書きを……」



 僕はこの後はヴェルテのところに戻らなくてはいけない。何事もなかったかのように戻り試験を終了するのが最重要項目だからな。

 さて……メモ書きがアイリス嬢に気づいてもらえるようにするには……う〜ん? どうしよう?

 普通に置いてしまってもいいが……なにかの拍子に飛んでいっても困るしなぁ〜〜。

 う〜〜む。胸の谷間に刺しておくのがちょっとしたロマンだけど……これは変態さんっぽいしな。アグレッシブ盗賊さんに悪い気がする。

 やっぱり手に握らせるのがいいかな? そうしようっと……


 僕はそぉ〜〜っとアイリスの手を取って紙を握らせようとする。


 すると……その時——



「……あれ? ウィリア? なんで……あなたが、ここに……?」

「……うわ。やっべぇ〜〜……」



 弱々しく言葉をつぶやく、薄らと瞼を開けたアイリスと目が合った。


 






 


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