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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第2章 ダンジョン試験 頼れる相棒は素っ頓狂な犬 救うは囚われ令嬢
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第56話 令嬢の憂いの種4

『私はもう奴隷なんだから! 傅く必要はないでしょう! ほっといてよ!!』

『お嬢様……』



 何も考えずに、鬱憤をティスリにぶつけた。こんなの私らしくもない。最低で最悪な人間がするようなおこないだ。

 だって、ティスリは何も悪くないんだもん。全部私がいけないのに……本当、私って惨め。



『——ッあ』



 そして、それは一瞬で後悔した。睨んだ相手の驚く顔。この時のティスリの表情からは、驚きと同時に、今にも泣き出してしまいそうな印象を受けた。この瞬間、私は、私自身を殴ってしまいたいほど……吐き出した言葉に後悔してしまった。



『——ご、ごめんなさい! 私、あなたにこんな酷いこと言うつもりじゃ……ごめんなさい……本当に、ごめんなさい』

『大丈夫です。お嬢様。色々なことがあって、気を張っていらしたのでしょう。仕方がないです』



 でも、そんな酷いことをした私を……ティスリは笑って許してくれる。この優しさがすごく苦しい。



『ありがとう、ティスリ。そう言ってもらえると嬉しい。でも……今は1人にして欲しいの。あなたに同情されると……私自身、惨めに感じてしまうから……』

『私は同情なんて!? ただ、お嬢様が心配で!!』

『分かってる。言葉のチョイスがいけなかったわね。あなたはそんな人じゃないって分かってるわ。でも、優しくされるのは……今は辛いの……』

『お嬢様……』



 どうしても今は1人にして欲しかった。ティスリと一緒に居てしまうと……彼女の優しさに甘えてしまうから……



『分かりました。では、私は後ろで控えています。何かありましたら、なんなりとお申し付けください』

『ありがとう。ティスリ』



 今はこれでいい。


 私は、ティスリの謝意の言葉を聞くと、彼女を突き放すように扉に向かって歩く。



『あ……待ってください。お嬢様!』

『……?』



 だけど、そんな私をティスリは立ち止まらせた。振り向こうとしたのだけれど……不意に後ろから腕が私に絡みついて、柔らかい感触に包まれた。


 ティスリが急に抱きついてきた。



『ティスリ?』

『このまま……少し、私の話を聞いてくださいますか?』

『……うん』



 ティスリは耳元で囁く。私はこれに思わず、ゆっくりと頷いた。



『今後どのような立場に陥てしまったとしても、私にとってはお嬢様は大切な人であることには代わりありませんからね』

『……え?』

『お嬢様がお嬢様でなくなったとしても……私はあなたを見捨てません。もう、私にとってお嬢様は妹のような存在ですから。令嬢とか侍女なんて関係なく、私のことは姉だと思っていつでも頼ってください』

『……ッ……うん。ありがとう。ティスリ……』



 私はぎゅっと、胸の前で交差する腕を抱き返した。



『なんなら、“ティスリお姉ちゃん”って呼んでもいいですよ?』

『ふふ……なによそれ?』

『すいません。今の状況で言うには悪ふざけが過ぎてしまいましたか?』

『うんん。そんなことないわ。おちゃらける姿はあなたの良いところよ。私はそんなティスリが大好きだもの』

『ふふ……私も、お嬢様が大好きですよ』



 やっぱり、彼女は優しい。


 だから、私はティスリが大好きなの。


 



(ありがとう。ティスリお姉ちゃん……)





 私は最後に……心の中でそう呟いた。










 次の日——



 私はウィリアの居る教室を訪ねた。目的は彼の奴隷になるため。


 あれから帰って来たお父様から今一度お叱りを受けた。『軽率な行動』だったとか。『言葉には責任を持て』だとか。あとは『奴隷』は今回の件の最大の罰だと……反省心を持って活動しなさいと……言われた。


 そして……


 私は決心もつけて、ここに居る。


 彼の奴隷になるのは、私がした約束。お父様の言う通り、これを反故にすることはできない。言葉には責任が伴うもの。これを半端な覚悟ででまかせを言ってしまえば、貴族としても、騎士としても失格。なら、私は騎士としての矜持を持って、彼に付き従い、彼を守り、身の回りの世話をすればいいだけ……


 もし仮に……


 ウィリアが、私の身体を求めてきたって……私に拒否権はないし、心も決めた。


 ティスリは言っていたわ。あんなのは、天井のシミを数えていればすぐ終わると……


 大丈夫……うん……



 そう……これは……



 きっと……大丈夫……



 な、はず……?



 私は動揺なんてしてない! 


 私はストライド家で騎士道を学んだのよ。精神は鍛えられているの!


 な、慰み者になるぐらい。ど、ど、どうってこと……な、な、な、ないんだから……ね!?



『すぅ〜〜ふぅ〜〜……ヨシ』



 教室の扉の前——部屋への入室の前に深呼吸。今の私はウィリアの奴隷になることに何の躊躇いもない。



 もう、大丈夫!



 だけど……



『おはようございます。ご主人様。本日から、ご主人様の奴隷として精一杯精進させていただきます。このアイリスに何なりとご命令くださいませ』



 最後列で腕に顔を埋めて寝入っていたウィリアを見つけて、決意表明を口にしたわ。あなたのために、この私がなんでもしてあげるって……そういう意味も含めて言ってやったわ。


 だというのに……



『…………』



 ウィリアは明らかに顔を顰めたわ。解せないわね。

 あまり、自信の容姿をひけらかして自惚れたくはないのだけど——私自信十分美麗であると自負してるつもりよ? 

 ティスリだっていつも私のこと『可愛い』って言ってくれるもの。まさかあれは世辞だったなんて言わないわよね? 後でティスリに問いただす必要がありそう。



『『『『——ッッッ!? えぇえええええええ!!!!』』』』



 まったく、うるさいわね。一般科の生徒はこんなにも騒がしいの? こっちを見て、ワイバーンが大砲を食ったような顔して……そんなに私のことが珍しい? まぁ、一般科の教室に令嬢の私が居ることが気になるのよね。だけど私はもう令嬢ではなく奴隷に過ぎないのだけど……



『あのぉ〜〜アイリスさん?』



 やっと声を出したかと思えば『さん』付け? 別に、私は奴隷なんだから敬う必要はないでしょうに……



『アイリスと、呼び捨てで結構ですご主人様。私に敬称は無用です。奴隷ですので』



 だから、こう言ってやったわ。だというのに……



『…………』



 余計に眉間の皺を濃くして、私から視線を逸らしたのよ? 

 

 なんなの、この男!? まったく!!


 でも、怒ってはダメ——憤るのは可笑しいことよ。私は奴隷——ご主人様の挙動に文句なんて言えない。

 もしかしたら……たまたま体調がすぐれなかっただけかもしれないしね。


 とりあえず、このまま様子を見ましょう。彼に1日付き従って、早く奴隷の身に慣れないと……


 と、思っていたら……



『アイリスさん。あなたは貴族科の教室で、例日通りに授業を受けてください』



 ウィリアに、こう言われて教室を追い出された。



 ——なんでよ!!??



 私の何がいけなかったの!!



 




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