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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第2章 ダンジョン試験 頼れる相棒は素っ頓狂な犬 救うは囚われ令嬢
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第55話 令嬢の憂いの種3

 私は負けた。



 決闘で負けた。



 こんなこと……微塵も考えてなかった。



 私は相手を侮ってたんだ。



 本当……腹が立つ。



 別に相手ウィリアに対してじゃない。



 腹が立つのは、私に……



 私自身に……心底、腹が立った。



  悔しい……悔しい……ッ——悔しい!!



 だけど、私にはこの気持ちを、どこかへぶつける吐口は用意されていない。



 私は公爵家の人間——言ってしまった発言には責任が伴う。



 決闘で負けたなら尚更——



 だから……



 あの瞬間——剣を折られた瞬間——正確には……



 ティスリに負けを言い渡された瞬間——



 そう……全てが……



 全部がどうでもよくなった。









『お嬢様……お父様がお待ちです』

『…………』



 私は決闘の後、ティスリに実家に引っ張ってこられた。そして、目の前には豪奢な扉の前に立たされて、その中へ入ることを彼女は勧めてくる。

 私は無言で扉を開いた。


 すると……



『来たか……アイリス。話は聞いている。決闘で負けたそうだな?』



 部屋の中央にある大きな書斎卓に座り、腕を組んだお父様の姿がある。表情はいつもの通り、動揺一つない、いつものお父様の顔。

 お父様は、決闘について知っていた。今から数分ほど前の出来事をお父様は知っていた。私の痴態を——

 だけど、顔色1つ変えない。娘の不祥事をなんとも思っていないように……これは、貴族としての振る舞いとしては当たり前な光景だ。公爵となれば尚更——小娘の馬鹿げた決闘騒ぎになんて……何も思うことがないのよ。



『はい』

『そうか……で、これがその時の剣か?』

『そうです』


 

 お父様の目の前——卓上には私の剣だったモノが置かれている。ただ、刃は中腹でポッキリと折れて、それは鉄屑へと成り下がっている。

 私の誇りは砕かれてしまった。同時にそれは私の敗北の証明だった。



『相手は一般科のクラスの少年かぁ……それで条件は……』

『奴隷になることです』

『…………はぁぁ〜〜。まったく、馬鹿なことを条件に出したな。お前は……』



 この時、お父様は長いため息を吐き出す。これが唯一の感情の揺らぎが確認できた瞬間だった。



『貴族が決闘を持ち出して負けたからには、それには責任が伴う。これは貴族であり、騎士である誇りの証明でもある。したがって、これを無碍にすることはできん。わかるだろう?』

『はい』

『相手は一般科の生徒なら——条件は……アイリス。お前自身が決めたのだろう? なら、その発言には責任を持ってもらう』

『はい……分かっております』



 お父様は淡々と言葉を口にする。それは犯罪者を尋問するような語りだ。だけど、その表現は最も適当だと思う。


 だって……私は罪人だから——


 お父様を幻滅させ。貴族としてあるまじき痴態を演じた。


 だから、そんな犯罪者と同義である私に下される言葉は当然予想していた。



『アイリス——お前は勘当だ』

『——ッ……はい……』



 私は勘当を言い渡された。

 これも当然だと分かってたこと。

 私は、決闘の見返りとしてウィリアの奴隷になった。このままでは公爵家としての威厳は著しく失われてしまう。


 だから、お父様は……


 私を見捨てるんだ。



『学生でいる内は、公爵家の令嬢として扱うが……卒業と同時に家を出てもらう』

『はい』

『それと、お前は決闘の条件通り、そのウィリアという学生の奴隷となりなさい。これはお前が言い出したことなんだ。これを違えることはならん。分かったか?』

『はい』

『私は今から用事があって出る。今日は精々反省し、明日からの身のふり方を考えなさい。以上だ』

『はい』



 お父様はこれだけを言い放つと、壁に掛けてあったコートを取ると、私の横を通り過ぎて部屋を出ていった。



『——ッ……』



 この時……私は通りすぎるお父様を追って振り返る。思わず口から言葉が出かかったのだけれど……お父様は私に視線をくべることなく、身体は膠着の兆しを見せずに扉を開けて出ていった。私のことは、すでに眼中には収まっていないかと言わんばかりの所作に……私は言葉を失った。



『お嬢様? お話は終わられたのですか?』



ティスリがお父様と入れ替わりで部屋へと入ってくる。



『…………』

『このあとはどうしましょうか? まずはお部屋で寛ぐのはいかがですか? 私、腕にりをかけて紅茶を入れます。さぁ、お部屋に行きましょう。お嬢様』



 侍女として、私のことが心配だったのでしょう。

 この時の彼女は、いつも通りの立ち居振る舞いで、私に優しく声をかけてくる。


 だけど……


 

『触らないでよ!!』

『お、お嬢様!!』



 これが……私にとっては、たまらなく辛かった。


 気づいたら、ティスリが私の肩に触れた瞬間に払い除けてた。


 思いっきり叫んで……彼女を睨んだ。


 まるで八つ当たりのように……





 


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