第26話 この勝負 絶対に——
「ちょっとは抵抗したらどう?」
はぁぁ……抵抗ねぇ……? それができないから、こうして隠れて時間稼ぎをしてるんだってのに……何もわかってないな彼女。
さて、この僕にとって非情にマズイ状況、どうしようかな?
まず第一に……僕は彼女に勝つだけの力がある。十中八九間違いない。これを念頭において最善策がなんなのか考えよう。
この決闘において僕は……
勝ってしまってはいけない。
負けてしまってもいけない。
あれれ〜〜? 詰んでね〜〜??
って……思うじゃん。
だがまだだ——まだもう1つの選択がある。これは散々考えた末に導き出された僕の答え……だが、これは負けるよりも、勝つよりも遥かに難易度が高いことだ。
それは……“引き分け”だ。
僕は今から故意に引き分けに持ち込もうと考えている。この無謀とも思える挑戦だが僕には1つプランがあるだよ。
「出てこないつもりなの? はぁぁ……仕方ないわね。なら、こっちから直々に出向いてあげるわよ。感謝なさいな!」
相手も痺れを切らし始めている。実行するか否かを考えてる猶予はないな。
でだ。僕が考えたのは……彼女の持つ刀剣——アレの刃をへし折ろうと考えている。
まぁ……『どういうこと?』——って思うことだろう。
だが待て……考えを聞いてくれ……
これは、僕の憶測も関与した一案に過ぎない。ほとんど賭けに近い作戦だ。だが、これに賭けるしか僕に道は残されてないと思う。
まず、柱に隠れる僕を追って、彼女は回り込む、もしくはこちらに近づいて来るはずだ。僕はその隙をついて彼女に飛びかかる。当然アイリスもその可能性は想定していることだろう。おそらく、その瞬間を狙って反射的に焔を放ってくるに違いない。
が……僕はこの瞬間に少し実力を発揮する。
彼女に近づく軌道でこの攻撃を避けて見せよう。すると彼女は再び焔を放とうと鞘に武器を納める——のではなく、近接戦で刃を向けてくるのではないかと考えている。
彼女の家は騎士を輩出すると聞いた。この情報からアイリスは魔法だけでなく、剣術においても卓越していると僕は踏んだんだ。焔は凄い技だと思うよ。だが、散々披露してくれたのを見る限りでは、あの技の弱点は連発が不可能と言う点だ。初撃であれば予め鞘に魔力を込めてアクティブでの発動が可能なのだろうが、こと戦闘においてはチャージが必要と見た。
彼女との距離は大体30メートル。アレだけ離れた位置から打ち出しているのはチャージに必要な時間を稼ぐためだろう。
まず間違いなく迎撃は近接である。僕はこの隙に剣を壊す。
それをどうするかは……まぁ〜〜見ててくれよ。
アイリスはもう近くまで来ているはずだから、もう時間は残されていない。
あとは実践で披露してしんぜよう。
……って……ん? なんで剣を壊すことが引き分けに繋がるのかって?
それは、えっとぉ……あくまでこれは僕の憶測なんだけど……
決闘の誓いは剣を使用したものだ。自分の剣を相手に差し出し、剣を鞘から引き抜かせる。でだ……これは貴族の誇りとした儀式のようなもの。だったら、剣自体も誇りや名誉の結晶のような存在でないかと考えた。
そこで、決闘の最中、自身の得物が壊れる事態は、あってはならないことなんじゃないかな〜〜と思うんだよね。誇りを壊してしまうのだから。当然、これは手放すことだって問題外ではなかろうか? だから、剣を壊すと同時に僕は弾き飛ばされてしまった体を装い、剣を手放す。これで引き分けを引き出せないかと考えた。
だって、互いに得物を失っちゃったんだから、そんな状態でどうやって決闘を続けろって言うんだよ。
しかし、この考えにも不確定要素は多くある。また別の得物を引っ張ってくるとか。後日再決闘だとか。
でも、少なからず時間は稼げるのではないか? それに、引き分けたとなればアイリス嬢だって……負ける可能性が頭の中を過ぎるはず。だったらこの隙に僕が謝るなり説得するなりすれば決闘を取り下げてくれるかもしれない。
うん! これしかない!!
我ながら、鋭い考察と立案だと思う。流石は僕だ!
では、早速……
僕は華麗な演出で、立派に“引き分け”て見せるぞ!!