第24話 負ければヒステリックの犬 勝てばヒステリックを犬
ふざっけんなぁああ!! あのアグレッシブ令嬢!! マジ、◯ァック——だわ!!
メイドの開始宣言「はじめ!!」と言葉を口にした瞬間の居合。それと同時に焔が飛んだ。
あの野郎! 開始前から鞘の中に魔力をチャージしてやがった。オマケにこちらの準備が整っていないことを分かっててやってやがるな!!
——だってね?
「あはは——よく避けたわね! 凄いのねアナタ! 最高よ!!」
「……お嬢様。あなたって人は……」
僕は必死に横に飛んで転がって回避に成功したが、この時アイリスの顔を確認すれば、不敵に笑って八重歯を覗かせてやがる。
で、ティスリさんはサイコパスな彼女に、やれやれと首を振って呆れ返っている。
つまり、開始早々の不意打ちの彼女の一撃は、褒められた行為ではないんだろうよ!
てか、そもそも剣に自信のある公爵家の人間が、田舎者のしみったれたクソガキ相手に大人気なくないですかね?! もっと正々堂々とした立ち居振る舞いを想像してたよ!
でもコレ……実際文句を言ったところで『実戦で甘い考えが通用するとでも?』ってツッコミをキリッと言われて終了だな。僕が逆の立場なら100%言ってるもん。まず、間違いない。
「ほら〜〜次行くわよ!!」
「——ッ!?」
アイリスは再び剣を鞘に納め、抜刀の構えを維持したまましばらく……もう一度剣を抜いた。すると2発目の焔が飛んでくる。これ、遠距離からねちっこくなぶり殺す気だな。2発目も僕は、走ってる方向を切り返して避けてみせた。なんとかね。
「——アハ! コレも避けるの? 実に良いわねあなた! 楽しくなってきた♪」
おいおい、防戦一方なのに、この令嬢……高々に狂ったように笑いやがって。アグレッシブ令嬢じゃなくて、ヒステリック令嬢でしたか。どうかしてるぞ?!
僕だったから避けられてるけどな。一般人だったら、初撃でアウトだったと思う。てか、コレ殺しにきてないかい? 大丈夫?!
「——おいおい! やり過ぎだろうがぁあ!!」
「——あわッあわッあわわ!!」
現にノートン君とミミルちゃんがドン引きしてるでしょうが! 加減を知らんのかね!?
と、そんな傍観者の観察よりもだ。
時に、この勝負——どうしよう?!
勝負に負ければ——ヒステリックの犬。
勝負に勝てば——ヒステリックを犬。
どっちに転んだとしても最悪な未来しか思いつかないぞ?
まず、負ければだが……
『私のモノ』ってことは、『犬になれ』って——つまりそう言うことだろう?
あの女に飼われるのは、言わずもがなだ。最悪なのは必然だ。あ、いや……3食昼寝付きで可愛がってくれるんだったら……考えなくも……いや、それ人として終わってるな。とても魅力的な提案ではあるのだが、僕の求めるものは『普通』な日常であり、『飼われる』ことではない。それに、ヒステリックな彼女だ。何をされるか分からんぞ? ある日いきなり『魔法の試し撃ちだ。オマエ的な』みたいな事を言い出しかねんし、馬車馬の如く虐使されるかもしれない。
——ッうわ!? ッ最悪!!
そんなの絶対にごめんだよね!!
……え? 美女に飼われるなら本望? 痛めつけてくれるなら最高?!
いやいや……僕は、そんな特殊な性癖を持ってるわけじゃないからね? ただ、他人の、好き好みを否定はしないさ。そんなの個人の自由だから。この多様性が評価される昨今だからこそ、君がそれで“良し”とするならそれで“良い”——僕は君の自由意思、選択を肯定しようじゃないか。
だけど……まぁ、頑張ってくれたまえ!
で、次——
勝ってしまうパターンだが……
この令嬢、なんつ〜選択肢を用意してくれたんだよ。
——たく!!
何て言った? ……え? 奴隷になる!?
ははは〜〜……ッ馬鹿じゃねぇ〜の!!