第23話 君たち同級生だろう?! この薄情者がァア!!
「——ほう。逃げずに来たのね。その勇気は褒めてあげる」
「……来たくはなかったんですけどね。あの2人が無理やり連れてくるもんだから……」
さてさて、さて……
またまた、また——やってまいりました夢境……
僕は一体1日の何時間、この薄暗いジメ〜っとしたダンジョンの中で過ごせばいいのか誰か教えてください。
令嬢といきなり決闘の成立が発生してしまった僕は——放課後、現実から逃避するかのように、寮に帰って行こうとした。
すると……
「おい! どこ行くんだよウィリア! アイリス様との決闘に行くぞ!」
「ご、ごめんなさい。ウィリア君——あなたを連れて行かないと、私達も何を言われてしまうか怖いの。許してね」
右手にモブ1号。左手にモブ2号。僕は腕を掴まれて連行されている。両手に華ではなく、両手にモブ——と、嘆かわしい状況を強いられている。
僕たちは同級生だろ? まったく薄情な奴らだよ。
——あ? ちなみにだが……この2人からは名前を聞いて、珍しく僕は記憶に名前を明記することに成功した。
モブ1号の男子生徒——シルバーの短髪で口悪なのが【ノートン】。鍛冶屋の息子らしい。
モブ2号の女子生徒——紫がかった黒髪を肩口で切りそろえたユルフワの【ミミル】。薄らビビりな本の虫。
つまり、右手を引っ張るノートン。必死に左腕にしがみつくミミル。嫌がる僕。これが現状の構図である。
時に、ミミルさんや? あのね、その状態で震えてるとですね。腕に感触が伝わってしまうんですが……いや、良い“たわわ”をお持ちですこと。着痩せするタイプでしたか。失敬失敬〜〜♪
と、変なところへ意識を向けているとあっという間に夢境まで引っ張られてこられた。
すると、そこには腕を組んで仁王立ちする赤髪の少女の姿と、背後にはメイド服の女性がいた。まるでダンジョンボスのような出立だ。誰か〜〜今すぐ彼女を討伐してくださ〜〜い。
「私はストライド公爵家に支えるメイドであり、学園でのアイリスお嬢様の侍女を任されております。ティスリと申します。この度はお嬢様より、見届け人の役を仰せつかりました。どうかよしなに」
アイリスの隣——メイド服の彼女【ティスリ】は前に一歩。流麗な所作でカーテシーを決めると丁寧な挨拶を口にした。実に雅だ。どこかの、人を壁に叩きつけるアグレッシブさんとは大違いだ。おっと失礼——お転婆レディーには、彼女の個性があるのであって、他と一緒にするのは無粋だったか。てか、あんなのが何人もいてもらっては困る。僕の学園生活——兼、野望享受活動が難易度『Hell』になってしまう。
良かったよ。彼女が1人だけで……
いや……よくないな。その1人に今こうして決闘を申し込まれて、面倒くさい状況を作られているんだ。何人だろうが関係ないや。
まぁ……兎にも角にも……
僕が、この決闘にどう対処するべきかだが……まだ、気を落とす段階ではない。
厄介なことになったのは事実だが、適当に相手して負けてしまえばいい。別に失うものなんてないんだ。誇りとやらを証明したい貴族の戯れに適当に付き合ってあげて、いい頃合いで負けてあげればいい。コレで、降参です〜〜って言って、寮の自室に帰るだけで……
「では、お嬢様——条件の提示を」
……へぇ?! 今なんて??
「では、勝者への見返りだけれど、私が勝ったら、ウィリア……あなたは私のモノ。従順な犬になってもらうわ」
——Wats?!
「もし仮に私が負けることがあれば……そうね。あなたの奴隷にでもなってあげましょうか? 私とあなたとでは価値が不釣り合いなのだけれど、寛容な私がこの条件で認めてあげる♪」
……ちょ、ちょちょちょ……ちょっと待て!!
「何それ? どういうこと?!」
「やっぱり、何も知らないんだなオマエ……」
「……え?!」
どういうことだよ! ノートン君!!
「決闘の条件提示だ。原則これは貴族にしか決められないんだよ。まぁ、勝者への報酬ってこと。貴族同士なら、互いに条件を言い合えば良いが、ウィリアは一般市民だからな。条件を決められるのはアイリス様になる」
「……はぁ??」
なんだ! そのアンフェア!! ふざけんな貴族!!
「だから正気を確認しただろう俺は。ウィリア。お前に残された道は潔くアイリス様の条件に準じて決闘を受けることだけだ。諦めろ」
嘘だ! そんなの僕は絶対に認めない! 今直ぐ決闘の中止を——!!
「では、ティスリ。初めて頂戴」
待て——アグレッシブ令嬢! 僕はこんなの認めてないんだぞ!!
「ウィリア頑張れ。せめて一矢報いてから負けろ」
「ウィリア君! 怪我をする前には降参だよ!」
オイ! ノートンとミミル!! お前ら、いつの間に距離を取った!? 気付けばダンジョンの柱の影に隠れて。てか、負ける前提なのね? いらねぇえよ! そんな応援!!
「では、立会人として……私、侍女ティスリがその役目を務めさせていただき、ここに開始を宣言します」
「……え!? ちょ、ま……」
「——両名、誇りを持って剣を抜け——では、はじめ!!」
僕の静止の声は一歩及ばず、可憐なメイドからは想像のつかない力強い宣言の後——僕の目はたちまち赤い焔を捉えていた。