第201話 ブッた斬りデスゲーム
「ウィリア様は憧れで私のお仕えすべき尊き方です。それがまさか女の子だったなんて……」
「なに? ショックだったの?」
「ショック……とは違うと思います。別に“女の子”だからイケナイということじゃなくてですね。なんとおっしゃればいいのでしょうか……そのぉ〜〜私は奴隷ですから“アレ”と言いますか……」
「あ。あぁ……そういうこと?」
2人の女の子が語り合っている。
僕はというと遠くからこれを傍観だ。というのも、僕が少しでも近づこうとすれば、アイリスのその眼光が僕を射殺す勢いで跳んでくるからなんだ。きっと、これ以上近づけば本当に斬り殺される。僕の勘がそう告げているからなんだ。
触らぬ神に祟りなし……ここは傍観するしかない。
「女の子なら女の子で、いっぱいできることがあると思うんです。今は可愛いお洋服とか作ってあげたいですね。それを着たウィリア様を想像すると、ああ〜〜凄くワクワクします!」
「あ〜〜なんていい子なの? 本当、健気ね。ねぇ〜~シトリンちゃん? 今からでも遅くなから、公爵家のメイドやらない? 給金は弾んで貰うようにお願いするわよ?」
「ごめんなさいです。申し出は大変嬉しいのですが、私はウィリア様のメイドですから……この気持ちは変わりません」
「そう? うぅ〜〜残念〜〜! 本当ッ——こいつにはもったいない! 凄くいい子なのに〜〜!!」
「あ、アイリス様がダメだってことじゃないんですよ! どうか悲観なさらないでください!?」
けしからん!
アイリスは僕のシトリンを引き抜こうとしやがった。彼女は何かとシトリンを奪い去ろうとするんだ。本当に勘弁してくれよ!
だが、シトリンは甘い誘惑には目もくれず、彼女は僕のメイドであり続けることを選んだんだ。流石は僕のメイドである!
ただ、勘違いしないでほしいんだけど……僕は束縛主義ではないからな?
もし仮にシトリンが『ウィリア様! 私、この人と結婚するの〜♪』と男を連れて来たって僕は彼女の意思を尊重し快く受け入れてやるともさ〜〜♪
ただ、その男はひとまずボコボコの半殺しにしてやるけどな!!
え? 心が狭い??
そんなわけないだろう! 大切な妹を何処のスライムの骨ともわからん野郎に無償でくれてやるかってんだ! そこは大切なところだろうが!?
は? スライムに骨なんてない??
知らないわ! そんなことぉお——!! どうでもいい!!
「はぁ……ウィリア様が私に手を出さない理由がようやく分かりました」
「どっちにしろ。出したら出したでその時は私がコイツを斬り殺してやってるわ!」
つまり、僕が言いたいのはシトリンはメイド以前に、妹であって家族だから大切だってこと。
目の前の少女2人はこんな会話をしているが、僕がシトリンに手を出すなんてことするはずがないんだ。
「私がお風呂でお背中を流そうと申し出た時も断られてしまって……」
「それは断って当然よ! やらせてたら私はブッた斬ってるわ!」
てかアイリスさんや? 君……僕のこと、どれだけブッた斬りたいんだ?
それじゃ〜なにか? 僕は常に選択を間違えたら殺されてしまうデスゲームにでも参加させられていたというプレイヤーかなにかか?
なにそれ、こえぇ〜〜!?
別にそれはゲームが怖いんじゃない。死と隣り合わせだった事実を知らずに何食わぬ顔で生活をしていたことに愕然としたんだ。
「ちょっとウィリア!!」
「——ッえ?!」
「……『ッえ』って……何驚いてるの? アンタの話してるのよ? もっと興味もちんさい! 惚けちゃって……アホなの?」
「それは…………アイリスが近づいたら殺すみたいに睨むから(ボソッ)……」
「……はぁあ? 何か言った??」
「——ッ!? い、いえ〜〜何も〜〜? おほほ〜〜♪」
「急に女の子っぽくしないで!? 気持ち悪い。うぇぇ……」
「……ッ!? うぐぐ……」
すると、急にアイリスの意識がこちらに向く。彼女、いつも急なんだよなぁ……本当に理不尽の塊だよ。アイリスは……
それに……『アホ』だの『気持ち悪い』だの……
言いたい放題かよ。失礼な奴だ。
「いい、ウィリア? シトリンちゃんに頼りっぱなしはダメよ! この子は頑張り屋さんで良い子! それに女の子なんだから……もっと労りなさい!」
「えぇ……僕はシトリンのことちゃんと大切にしてるよ……。それに僕も女の子なんだけど……」
「だまらっしゃい!! いくらアナタが女の子だったとしてもね。シトリンちゃんに無理はさせないこと! いい? 分かった!!」
「はぁぁ……はいはい。分かってますよ……」
「……ん? なに、その反抗的な返事は?! やっぱり一度ブッた斬るべきかしら……」
「——ッ!? そればっかりかよ! クソ!!」
ダメだ。僕は十中八九ゲームオーバーらしい。やっぱり理不尽には敵わないな。
アイリスはどうしても僕を斬り殺したいらしい。けど……君、もう公爵家の人間とは違うんじゃなかったけ? 普通に殺人犯になると思うけど抵抗感はないのか?
あ。いや……あの親バカのアイリスパパだ。娘がもう公爵家の者じゃないとしても犯罪の証拠は揉み消しそうだな〜〜? やっぱり理不尽だ!
すっげ〜〜や! クソッ——!!
「いい? 例えシトリンちゃんが『お背中お流ししま〜す』って言ってきても断りなさいね!」
「べ、別に……女の子同士なら問題なくない? それ……?」
「それでもよ! なんかムカつくから!!」
「やっぱり理不尽だ!!」
「……は? 何、理不尽〜〜??」
「あ。やっべ……口滑った?」
「ウィ〜リ〜ア〜? 斬っていいかしら〜〜♪」
「ダメに決まってるだろう!!」
もうカオスだな。アイリスは剣を片手に笑顔で近づいてくる。
「だ、ダメです! アイリス様! ウィリア様は悪気はないんです!」
「コイツに関しては悪気しかないでしょう!」
「そ、そんなことは……ない。はずです……」
「し、シトリン!? そこは『ない』ってハッキリ言ってくれよ!?」
「——!? ご、ごめんなさいです!」
シトリンはアイリスにしがみつき犯行を止めにかかる。
が……
この時僕は、シトリンの完全に信用してくれてなさそうなジト目から繰り出される視線が心にぐっサリ刺さってしまった。
ああ……この後はアイリスの刃を一身に受けることになる。これで心身共にズタズタかな?
あはは……泣いていい?
と、その時だ……
「……ん? あれ? ちょっと待って……」
アイリスの歩みが止まった。




