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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第4章 僕が【死を縫い付ける裁縫師《デス・テーラー》】と呼ばれるようになるまで
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第181話 変な輩に絡まれて

 十層帯は石畳が続く迷宮だ。


 セーフティエリアである19階層もまたそれは同じなのだが、ここはダンジョンを形造っている周辺の石ブロックが淡く発光する眩い空間となっている。

 丸い円柱型の部屋内部に数組の冒険者が野営地を形成していて、部屋中央にはクリスタル《セーブポイント》が設えてある。

 ただし、ここの冒険者密度は極めて低い。9階層の賑わいに比べて驚くほど少なく、殺伐とした雰囲気が空間を支配して恐ろしく静かだった。

  

 僕が十層帯での狩りを始めてからというもの、他者の獲物を奪う……ゲフンッゲフンッ……ではなくて、恐ろしい魔物(笑)に危機に陥る冒険者を数多く見つけて助けに入っていた。

 やはり世の中の冒険者はレベルが低い。

 神器を持ち合わせない者にとってはチュートリアルダンジョンの十層帯が関の山であり、この場にいる数少ない冒険者が才能を有した一握りの人物達なのだろう。

 遠目で戦闘を観察していても、動きはノロノロ、魔法だと勘違いしている魔弾をぶつけて、それが避けられようものならヒ〜ヒ〜言いながら攻撃を防ぐ一挙一憂。

 控えめに見ても程度の低い戦闘シーンを繰り広げている。十層帯は冒険者の死者数が極端に増えると聞いたが、あんな戦闘しかできないなら死んで当然だよ。

 だから、世の中のダンジョン攻略はクランに属してのものが主流になってしまうのだ。個人が弱ければ、群ればいい。馬鹿でも分かる真理だよ。

 それでも夢を見がちで、個人や、パーティー単位の者は馬鹿の中でも大馬鹿者だ。相当なセンスと技量がなければその者たちが大成することはありえない。でも人間ってのは馬鹿な生き物で死者数が増えてしまうし、チュートリアルダンジョンをラストダンジョンだと勘違いしてしまうのだよ。


 そして……


 僕は変な奴らに絡まれていた。



「オイ! オマエッ——!!」

「……ん?」


 

 セーフティエリアのクリスタルに神器を触れさせてセーブが完了したタイミングで背後から声が飛んだ。


 振り返ればそこには……



「ちょっとリーダー!? ダメだよ! オマエだなんて言っちゃうのは!」

「そうだぜ! いきなり敵視してどうすんだ?」

「うるさい! ちょっと黙っててくれよ! ここで俺がビシッと言うところなんだからよ!!」



 騒がしい3人組がいた。


 僕の自論で言うところの大馬鹿者達である。



「オマエッ——あまり調子に乗るんじゃないぞ! いいか冒険者ってのは遊びじゃないんだ! 一歩間違えば死が訪れる。それがダンジョンだ! オマエにはそれが分かっているのかよ!」

「…………は?」



 分からない。


 なぜ僕はこんなことを言われているんだろうな? 見ず知らずの男に?


 代表か、リーダーか、よくわからないが1人の青年が一歩前に出て吠えている。

 ここは人がまばらだ。てっきりクリスタルに触れている僕を訝しんで好奇的に見て話しかけでもしてきたのか——と思いきや、言ってることは支離滅裂だ。

 正直言って僕はこの人達の事を知らない。

 吠える青年は赤髪の短髪。そして腰には2本の剣。

 冒険者だってことは分かる。だけれど知り合いにこんな奴はいないはずだ。それは背後に控えてアタフタとしている男女もそうだ。

 ローブを着て杖を持った栗毛の魔女っ子に、それと一本の剣を背負った筋肉質の男。

 

 う〜〜ん? 


 ああ、ダメだ。必死に思い出そうとしてみたがちっとも思い出せん。

 

 僕は、怒鳴られた理由と、面識のないコイツらを思い出そうとする思考と、2つの理屈が相乗的に作用して大きく首を傾げた。

 だが、赤髪リーダーがそんな僕の仕草が気に食わなかったのだろうな。ギリギリッと歯を食いしばって睨んでくる。より一層怒らせたみたいだ。



「コイツッ——モガッ!?」

「は〜い! もうダリルは黙って!」

「モガモガッ——!?」

「ごめんなさい急に話しかけちゃって。この野郎はね、口は悪いんだけれど悪い奴じゃないんだ。許してあげて!」



 そして男が叫ぼうとでもしたのか大きく口が開いたタイミングで、栗毛魔女っ子が彼の口を背後から塞ぐ。

 この子は話が通じてまともそうだ。彼の異常行動がわかっているかの口ぶりで話しかけてきた。



「えっと私はカーラよ。この口悪さんはダリル。それで背後に居るガタイの良い彼がモーリー」

「やあ。よろしく。モーリーだ。うちのリーダーが突っかかって悪かったな」

「私達は、幼馴染で冒険者をやってるの。3人でパーティーを組んで、一応ダリル(これ)がリーダーなんだ」



 すると魔女っ子改め、【カーラ】が自己紹介を口にする。これに釣られて筋肉質【モーリー】も気さくに話しかけてくる。

 そして、カーラに口を塞がれてもがき苦しんで居るのが【ダリル】と言うらしい。

 コイツらは冒険者のパーティーを組んでいると言うが……ダリルがリーダーってのは正気か?

 今のコイツらを見ると、まともであるカーラの方がリーダーのように見えるが……大丈夫か? このパーティーは?



「オイ! カーラ!? いい加減に離せ!!」

「うわッ!?」



 僕が黙って3人組を一瞥してるとダリルがカーラの拘束を無理矢理解いていた。カーラからは驚きの声が上がる。



「オイッ——名を名のれ! こっちは名乗ったんだぞ! オマエは名乗らないのかよ!? 礼儀がなってねぇ〜な〜! ぇえッ!!」

「ちょっとダリル! 口悪いよ!」



 ダリルは、ま〜だお怒りだ。

 僕のことをビシッと指差して、唾を飛ばすほどのすごい剣幕で怒鳴ってきた。

 しかし、名乗れとは失礼な奴だな。君の自己紹介をしてくれたのはカーラであって、オマエ自身ではないだろうが?! 

 これで名乗った気になってるんだったら、コイツはクソ野郎だな。



「そうかい。それは失礼なことを——カーラ嬢」

「……え? はい?」

「僕の名前は“テイラー”だ。ただのしがない冒険者さ。モーリーもよろしくな」

「……ふぇえ?!」

「おッ?! おぉ……」



 僕はダリルを無視して彼の横を通り過ぎると、片膝をついてカーラの手を取った。キザっぽく自己紹介をする。これはちょっとした演出だ。

 続けて、モーリーにも簡単に挨拶をした。

 するとカーラは赤面して反応し、モーリーも呆気に取られる反応を見せていた。



「おいおい。俺様は無視か!? ふざけた野郎が! カーラに触れるな!!」

「君が言ったんだろう? 挨拶しろって」

「はぁあ?」

「カーラ嬢は丁寧な挨拶をしたんだ。私はこれに答えた。モーリーも同じく、気さくに話しかけてくれたから、僕はこれにお返しをと挨拶を口にする。しかし、君は無視をしたというが……君自身からの自己紹介はまだだよね? 僕はカーラから君の名前を教えてもらったが……ダリル君、君は挨拶もせずに怒声を初対面の人間に浴びせることしかできない。さて、自己紹介だ。僕の名前は“テイラー”だ。冒険者をしている。ほら名前を教えたぞ? 挨拶をされたらどうするのか——君が1番よくわかってそうだが?」

「——ッ!? この〜〜野郎〜〜ッッッ!!」



 僕は礼儀には礼儀でもって返すが、不躾な奴にはそれ相応の返しをしてやる。

 見た感じ、ダリルは馬鹿なんだと思う。粗暴で無鉄砲——リーダーシップはあるのかもしれんが、頭でモノを考えないタイプ。

 こういう輩は口で分からせるのが1番。だって、どうせ言い返すだけの口がねぇ〜んだから、僕の独壇場だろう?

 現に、この男は唸って拳を握りしめているだけで、そのほかに言い返したり手を出したり来やしねぇ〜〜。

 まだ、理性だけはあるみたいで、そこが唯一の褒められる点かな?



「用がないなら私は失礼するよ。それでは……」



 僕は答えが返ってこない間に踵を返す。

 今日はもう帰路に着く予定だ。ポッピーがダンジョン徘徊をしている以上、このセーフティエリアだって安全とは限らない。ここは大人しく帰るつもりで18階層へと抜けるゲートへと向かったのだ。


 すると……



「——待てよ!」

「……? はぁぁ……まだ何か?」



 ダリルの野郎が回りこんで来て僕の行く手を塞いだ。

 本当に面倒くさい相手に絡まれたものだ。

 魔物よりも面倒くさい相手——それは人間ですよ〜〜と嫌気の刺す思いを受けて、深くため息をついてしまった。早く解放してくれないものか?


 と……


 僕はダリルをつまらなそうに一瞥すると……


 突然——



「テイラーだったか? オマエ、俺たちの仲間にしてやるよ!」



 まさかの提案がダリルから上がる。







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