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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第4章 僕が【死を縫い付ける裁縫師《デス・テーラー》】と呼ばれるようになるまで
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第180話 冷えぇ〜〜!?

 通路を曲がった先から流れてくる冷気——床板数十センチの高さには白い靄が流失している。視覚からもダンジョン内の寒さが伝わり、この先には必ず何か居るとは分かってしまうのは必然的事実だ。


 僕は意を決してゆ〜くりと角から顔を覗かせる。



「——ッ!?」



 するとそこには、ダンジョンの天井にまで達する大きな氷柱があったのだ。冷気の正体はどうやらあれだろう。

 氷に目を凝らす。するとその氷の中には異常種ミノタウロス——巨体の魔物がすっぽりと氷漬けにされてしまっているのを見てしまった。


 ひえぇ〜〜……!?


 壮観であり、それでいて恐ろしい光景だ。



「おいおいッ——あれって……」



 そして、その氷の前には小さな影があった。

 両手には歪な形をした氷の剣が握られている小さな人影。その背中を見た。一眼で異常な存在だってことが分かる。握られたあれがミノタウロスを氷で覆った凶器——つまり、この光景の創造者だということだ。その得物の歪な形状は禍々しく狂気を感じてしまう。

 肝心のその子は、背が低く、髪はピンクのボブショート、黒いミニスカートの冒険者服。

 僕はあの人物の正体を知っている。



「ポッピー?」



 ポイズンピンク……略してポッピー。口の悪い不愉快な女の子である。

 彼女は1人でこんなダンジョンで何してるんだ?

 それにミノタウロスを氷漬けにして……僕の獲物が取られてしまっている。

 まさか先を越されてしまったのか?!

 もしや、ダンジョンに魔物が少ないのは彼女のせい? 


 おいおい、ふざけるなよ。何してくれてるんだよポッピー!?


 以前、彼女とは軽く手合わせ(遊んだ)ことがあるのだが、その折にポッピーはかなりの腕前を有していることがわかった。

 視認し辛い防御不可能な氷の弾幕と、それを動きながら命中させる精度と集中力。さらに、武器に氷の刃を付着させることにより近接戦もこなせる遠近両方のオールマイティな戦闘スタイル。

 控えめにみてもかなりの実力者だ。

 ま、勝負は僕が勝ったんだけど……そこは僕がすごかったのだからしょうがない話だ。


 しかし、そんな僕が認める。彼女は十分強いと——


 偉そう? ふん。そんなの僕が勝者なんだから仕方ないじゃないか!


 だが、彼女の若さから見て末恐ろしいのは確かな人物だ。それがポッピーなのである。

 牛頭を氷漬けにしてしまうとは流石だな。



「これぐらい……私だって……」

「……ん?」



 そんなポッピーをしばらく遠くから観察しているとだ。何やらブツブツとつぶやいてる。

 僕はそんな言葉を拾おうと聞き耳を立てる。


 すると……



「このぐらい私だってソロで倒せるんだよぉぉおお!!!!」

「——ッッッ!!??」



 突然大声で叫ぶと手にした氷剣を振りかぶって勢いよく氷柱にぶつけた。それも何度も何度も——怒りに任せて当たり散らすかのように手にした氷の塊をぶつけて、その度に周辺には氷が砕けて飛び散っている。


 何あれ〜〜? おっかねぇ〜〜?!



「何が異常種をソロ討伐だ! 何が噂の漆黒の子供だ! これぐらい私だって余裕だっての! クランの仲間を助けてくれたのは褒めてあげるけれども! これぐらいで調子に乗るんじゃないわよ! クソ野郎ぉおお!!」



 そして『クソ野郎ッ!!』の一言の後の振りかぶった強撃。



「それに紫紺の糸だって?! だったら何? 私との戦闘中は自分の能力を隠して手を抜いていたって言うの?! クソッ——生意気!! む〜か〜つ〜く〜!! ムキィイイイイ!!!!」



 そして怒りに身を任せて更に氷柱を叩っ斬る。

 やがて氷柱はついに耐えきれなくなって半壊。自重で倒れこむと轟音と共にダンジョンの通路を白い煙で覆った。

 なんなのあの子?! 全然可愛くないんだけれど??

 顔はそこそこの美人なんだけど……ヒステリックに叫び散らす様には恐怖を感じる。

 彼女は一体なにに怒っているんだ?  それと誰だ彼女を怒らせたのは!? これを目撃する僕の身にもなってみろよ! 


 めっちゃ怖いんですけどッッッ——!!??


 あぁ……氷漬けのミノタウロスは見るも無惨に粉々だ。彼が怒らせた張本人なら自業自得だが、もし八つ当たりのとばっちりを喰らっていたのなら可哀想だなぁ……。

 てか、素材がもったいねぇ……どうせ砕くなら僕にくれよ。



「ハァ……ハァ……ッ……ん?」

「——ッ!? やべッ!?」



 僕が引き攣った表情でポッピーを傍観していると、不意に彼女は振り返った。すると目が合ったような気がした。

 その瞬間ヒヤッとして血の気が引く。僕は速攻で顔を引っ込めて角の影に隠れた。

 恐怖を感じている。ただ、これも仕方がないことさ。あんな異常者に絡まれてしまえば恐怖でしかないんだから……触らぬポッピーに祟りなしだ。


 だというのに……



(——ッ? 近づいてきてるッ?!)



 足跡が近づいてくる。一歩、また一歩と確実に近づいて来ている!?


 ドクンッ——ドクンッ——と……


 足音に呼応するように僕の鼓動が激しく脈動する。この僕は恐れているのだ。

 例え、彼女より強くたって怖いものは怖い。そうたまならなくポッピーが怖い!?


 そう感じ取った瞬間には僕は——



「チッ。確かに気配があったと思ったんだけれどな。誰も居ない……」



 影移動で影の中へと逃走していた。


 ビ、ビ、ビ、ビビったわけじゃない。


 こ、こ、こ、これは戦略的撤退だ。


 ま、ま、ま、間違いない!!


 彼女と目が合った気がしたが、ダンジョンが薄暗いのと漆黒の外套が役に立った。ポッピーの様子から察するに僕の姿は見られていなかったようだな。あっぶね〜。


 ダメよ! ウィリア! 彼女と目を合わせたら! 氷漬けにされて粉々にされちゃうわよ! 見ちゃいけません!!


 そう。今の彼女と関わると碌でもないことは明白だ。だから僕は影に潜ったのだ。後はこの場を離れ適当な影から飛び出て逃走成功……いや、戦略的撤退の完了だ。


 ミッションコンプリート!!


 …………


 はぁぁ……何がミッションコンプリートだ!? どうしてこうなった??


 もう、この調子なら素材採取は終了だな。ダンジョン内にこんなにもおっかないポッピーが徘徊しているんだ。今日は出直そう。彼女と会う確率が高すぎる。

 どうせ、魔物はポッピーに怯えて隠れてしまってるんだ。もう無理だろう?

 

 てか……


 噂の子供ってもしかしてポッピーのことか? 

 ダンジョン内であんだけヒステリックに魔物を惨殺してるんだ。噂になるのも仕方がない。

 彼女なら身体も小さいし『子供』と揶揄されるのも仕方がないさ。


 ではさらばだ。噂のポッピー! 


 こうして……


 僕はさらにダンジョンを潜っていく。 

 目指すは19階層。ポッピーから逃げるかのごとく、僕はセーブポイントを目指した。






誠に申し訳ありませんが……明日の投稿から週2に変更させていただきます。

ストックが尽きてしまいました。本当は別サイトで週2投稿してた作品なんですが、連日毎日投稿で追いついてしまいました。

ですので、明日はそちらと同じタイミングで投稿させていただきます。

水曜日と土曜日の2回の投稿です。

よろしくお願いします!

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