第179話 金稼ぎに明け暮れる“変”な子供?
ある日の昼下がり——
今日は学園が休日とあって僕は日課のダンジョン攻略にやって来ていた。
十層帯(チュートリアルダンジョン11〜19階層のこと)に突入してから色々あった。
シトリンを拾ったり、セラ先輩を(地底湖に)落としたり、そりゃ〜もう色々とだ。
セラ先輩と専属冒険者の契約を結んでからというもの僕は素材回収とレベル上げを目論んで魔物狩りに明け暮れた。
〜〜レベルが上がりました〜〜
Lv.13>Level up!>Lv.15
素材売却で僕の秘密が露呈してしまう心配がなくなったから、盛大に素材を集めてやった。そのおかげでレベルも15まで上がる。
もう、お金の心配も無いし、強くなれば魔物の心配も薄くなる。僕のダンジョン攻略は絶好調だ。
ぬっはっはっは〜〜♪
もぉ〜笑いが止まりませぬなぁ〜!
数ヶ月前まではアグレッシブの権化に悩み、金欠に悩み、奴隷少女に悩み、悩みに悩みまくっていた僕のダンジョンライフだったが、ついに充実を実感するに至ったのだ。
中でもお金の心配がなくなったのは特に喜ばしい。
シトリンという名の妹分ができてしまったからね。稼ぎ頭の僕がお金をかせがなくてどうするってんだ!
しか〜し、秘密のエリアで討伐したクリスタルサーペントの売上はなんと金貨210枚だ。こんな大金は田舎者の僕は見たこともも実感したこともない。だって金貨すらも今までの人生で指折り数えてしまえるほどしか見たことなかったんだからな。あの輝く金の山には畏怖の念が尽きなかった。
だからってわけじゃないけど……その内、200枚をセラ先輩に預け、これを頭金に僕の野望の一貫に活用させてもらう。これで、僕の生活基盤が整うのも時間の問題さ。
はてさて……
僕が今日来てるのは18階層。ここは以前大物を狩った場所なんだ。本日も良い獲物が狩れないかと思ってやって来ていた。
セラ先輩に預けた金貨200枚もあくまで頭金だ。野望を叶えるにはまだまだ足りない。ドシドシ稼ぐために僕は狩りの中に生きるのだ〜〜って勢いで突貫を決める。
でだ——以前はここで魔物に襲われていた冒険者一行を目撃した。それを助ける〜〜と見せかけて奴らの獲物を掻っ攫ってやった。
ちなみに……
『そんなに暴れて人畜無害ウィリアちゃんの体裁は大丈夫?!』と誰しも思って心配してくれてると思うが——
ご安心を!?
今の僕は漆黒の外套を着込んで正体を隠している。十層帯で出くわす冒険者は多々いたけど、僕の素性は知られていないはずさ。安心してくれよ!
と、そういえば……
最近、ダンジョンに関する変な噂を耳にしたんだよなぁ……?
あまり詳しくはないんだけれど……なんでも、変な子供がダンジョンに現れたとか?
別に噂話とか僕は大して興味はない。だが、その噂は学園内でもそこらじゅうから聞こえてきたものだから……大きな話題にはなってるみたいだな。
にしても……その噂は眉唾に過ぎない。僕は最近結構な頻度でチュートリアルダンジョンに足繁く通っているけれど……変な子供なんか見たこともない。
本当にそんな奴がいるんだろうか?
……え? 僕??
いや、僕のことでは……おそらく違うと思う。
だって、僕は変な奴ではないからな。ダンジョンに夢を見る金に目が眩むなクソガキだよ? 一体、どこが変だって言うんだい?
ま、そんな噂はどうだっていい。
今は狩りを意識しようじゃないか。注意散漫は怪我の元だからね。集中〜集中〜♪
だが……
「にしても……今日は魔物が少ないな。それに、少し肌寒い?」
せっかく僕の野望のため、それとシトリンを養うためと、お金を稼ぐためにダンジョンに来たと言うのに……かれこれ1時間、魔物を狩れていない。それは数階層下のエリアで狼を一体倒したきりだ。
18階層に向かうにつれて、魔物の気配は希薄となり、だんだんと寒気を感じるようになってきた。
以前ここを訪れた時にはなかった不思議な体験である。
「ダンジョンに異常が? それとも誰かが狩り尽くしているのかな? う〜〜ん? どうしよう。今日はもう狩るのをやめておこうかな?」
せっかくやる気になった僕だと言うのに……今日に至っては利益はほとんど無しだ。
まぁ……たまにはこういう日だってあるのかもしれないし、今日はもうここで切り上げるのも手だと思う。無駄足になってしまうけどさ。
前に冒険者が異常種だとかいう牛頭に襲われていたあの場所を確認して、それから19階層のセーフティエリアを目指して脱出——今日の目的がそう書き換わるのも仕方がないことだ。
「とっとと確認を済ませて脱出しようっと」
そして憂鬱につぶやいて例の場所を目指す。ちょうど目の前にある角を曲がればその場所……なんだけど……
「……ん?」
と、石の通路を進んで角を折れ曲がろうかと思ったその時——異様に冷たい微風が肌を擦ったのを感じた。
「……? 一体何が……」
その風が飛んできたのは角を曲がった先のようだ。
不思議に思った僕は、ゆっくりと角から顔を出して風の正体を探った。
すると……
「——うわぁ……何あれ……?」
その先に居たのは……変な子供だった。




