第178話 なんだったんだ? アレは?
「なんだったんだ今のルアちゃんは?」
「本当ですね。クルト様に悪態をつかないシャルアちゃんを初めて見ました。ましてや頭を撫でても怒らないなんて……あんなのクルト様以外でも怒りますよ?」
「あの〜ルキスちゃん? 君の発言は僕なら絶対怒らす爆弾みたいな物言いだね?」
「そうですけど? そう聞こえませんでした?」
「あぁ……そうなんだぁ。やっぱりか。あはは……」
不可思議なシャルアの行動——これにクルトとルキスが率直な疑問を呟く。
今しがたのシャルアはクランメンバーからすれば『超』がつくほどの珍事件である。
いつもの毒舌は鳴りを潜めどこかしら元気のない彼女——それは、ルキスの報告の途中からそうだった。
「もしかして——シャルアちゃんは既に件の少年に会ったことがあるんじゃ……」
「う〜〜ん? どうだろう。そんな話は彼女から報告は受けたことはないが……」
「実際あったとしてクルト様に喋りますかね? 彼女……」
「いやいや。僕に言わないにしろ、ルキスちゃんの報告を聞いている時には話すでしょう?」
「それもそうですね……」
「なんだろう……僕はただシャルアちゃんが心配なだけなんだけどなぁ〜……心が痛いよ〜〜?」
クルトとルキスの2人は腕を組んで首を傾げる。
絶対に何かはある。だけれど彼女が喋らないと判断したのならこちらからとしても聞くに聞けない。だけれど、そんな彼女が心配だ。
このもどかしさが2人をモヤモヤとさせるのだ。
「おいおい2人とも。これはシャルアの問題だ。今はそっと見守っていてやってはどうだ?」
「「リゼレイさん(様)?」」
ここでクランリーダーであるリゼレイが口を開いた。
「彼女は強い。きっと大丈夫だ。もし何かあればシャルアの方から相談してくるはずさ。今は待とうじゃないか」
「「はい……クランリーダー」」
リゼレイもまたシャルアを心配する1人だ。だけれど同時にシャルアを信じている。
彼女は強い——それが分かってるからこそ見守る立場を貫く。それを団員であるクルトとルキスにも共有した。
これに2人は1つ返事を返すのだった。
「はい。一旦この話は終わりだとして……ルキスちゃん? この後僕と食事でも……遠征お疲れ様ってことで……」
ここで……気を取り直すクルト。この切り替えの早さは彼の専売特許だ。
「ごめんなさいクルト様。私、この後お祈りがありますのでお断りさせていただきます。サボったりなんてしたらパパに怒られちゃいますので〜〜♪」
しかし、彼の提案は速攻で一刀両断だ。この清々しさはルキスの専売特許だった。
「それでは報告は以上でございます。リゼレイ様、クルト様。ここで私は失礼させていただきます」
「ああ。ご苦労だったな」
「そんなぁ……ルキスちゃ〜ん……」
そして、シャルアに続きルキスもクランリーダーの執務室を後にした。
部屋に残されたのはリゼレイとクルトの2人だけとなった。
「それじゃあクランリーダー。僕も下がりますね」
そこでクルトも、この場に居てもしょうがないとでも思ったのか部屋を後にしようとする。これは実に自然な行動だ。
しかし……
「ちょっと待ってくれるか。クルト——」
「……はい?」
ここでリゼレイは彼を止めた。
「どうしましたクランリーダー? まだ何か? 僕だけに用ですか?」
クルトは訝しんで振り返る。ここで呼び止められる理由が思い当たらないからだ。
皆が退室した後だ。これはリゼレイがクルト自身だけに伝えたいことがあるということに他ならない。これに思い当たる節がまったくといってない。
だが……
「実は“そよ風”について……話しておかないといけないことがあるんだ」
「——ッ!?」
リゼレイの呟いた『そよ風』との単語を拾ったクルトの身体が跳ねた。
「奴は確か公爵様に捕まってたはずですよね?」
「あぁ……トップクランである我々に追いつこうとするNo.2クラン“白狐《アルブス=ヴルペス》” の元団員で通称“そよ風”だ」
「それで何かあったんですか? 奴が新しい情報でも吐いたとか?」
「いや……実は奴は……」
そして……
「なんと脱走したようなのだ」
「はぁあ?!」
クルトは更なる驚愕的事実に驚かされる。




