第175話 僕の願望を叶えるために……
「気を取り直して——買い取りは金貨210枚や。これで納得やったらこの契約書にサインいいか?」
「ああ。申し分ないよ。これで売る」
「マイドオオキニ! ありがと〜な。素直に承諾してくれてウチも助かるわ〜」
金貨210枚には驚かされたが——このまま売却手続きを進める。僕の予想の何十倍も高値がついたんだ。文句なんてない。
「もし、クリスタルサーペンをまた狩ったりしたら持ってきてな? また同じ値段で買い取るさかい」
「本当か? ボロ儲けだな?!」
「ま、あの秘密のエリアに再びクリスタルサーペントが湧くんわ何ヶ月も先の話やろうけどな。そうそう上手くはいかんちゅ〜話や。せやけど……ミノタウロスみたいな目玉素材もウェルカムやから、ジャンジャン持ってきてくれると嬉しいわ〜!」
「……ん。分かった。心に留めておくよ」
「おおきに!」
当初は、『夢』や『野望』に近い形で始まった冒険者活動だが……早くも金貨210枚という大金を手に入れた。これは思いのか早く大成を成せるのではないだろうか?
流石に金貨210枚だけではウハウハと一生遊んで暮らせやしないが、僕の野望が一歩前進って感じだな。
時に……
僕の野望ついでに1つ良いことを思いついたぞ。
「それじゃあ確認も終わったし、この金貨はもうウィルちーのや。持っていっていいで?」
「あの、そのことなんだけど……」
「……ん? どないしたん?」
僕は1つの袋を開けて中身を取り出す。そこには騒然と輝く金の硬貨がお目見えするのだったが、僕はそのうち10枚を卓上に重ねて置いてみせた。
「僕はとりあえず、この金貨10枚だけを受け取るよ」
「はぁ……」
「それで、残り金貨200枚だけど……セラ先輩にお願いがあって……」
「ウチに……? なんやろか?」
「……ふむふむ……まぁ、商会のツテにそういったのは無くはないから聞いといてみるわ」
「ありがとう。その手間賃として、200枚のうち20枚をセラ先輩が受け取って、それで残りを頭金という形で“例のモノ”を探してもらいたい」
「20枚は受け取りすぎやよ。せめて5枚でええよ。んなら探しとくわ」
「ありがとう。あと……総額は気にしなくて良いから。これからもっと稼ぐ予定だし、さっき伝えた条件にあった最高のモノを見つけてもらえるとありがたいな」
「あい。了解や」
僕は手元に10枚の金貨を残し、残り200枚を使ってセラ先輩に1つお願いをした。それは僕の野望の1つを叶えるためなんだけれど、これでさらに前進って感じがする。
チュートリアルダンジョンを悪用して、ウハウハダラダラ生活を満喫する日は近い気がするぞ!
「さてと……要件は達成したし、僕はそろそろ帰るよ。早く帰らないと五月蝿いメイドがいるんでね」
「ほんまか? 帰るんやったら出口までお見送りしよか?」
「いいよ。僕とセラ先輩の間柄じゃん。そこまで気を使わなくてもいいよ」
「うん。分かったわ。それじゃあウィルちー。またな!」
「ああ。また……」
そして、僕は立ち上がってセラ先輩に別れを告げる。目的を達成したから寮に戻ろうと思ってね。
クリスタルサーペントを狩った日——ダンジョンから出てセラ先輩の工房にまで足を運んで……おかげで帰ったのはすっかり暗くなってからだった。
それで部屋に戻ると……
『ウルウルッ!!』
『……うおッ!? シトリン!?』
薄暗い部屋で涙目のままベットに座るシトリンの姿があった。アイリスに買ってもらったシルバーの髪留めを大事そうに抱える様は、僕の帰りを今かいまかと待ち焦がれていたみたいだった。
なんでも、僕に髪留めを付けてもらいたかったからだとか——お店でアイリスに選んで貰って以来、一度も付けずに待っていたらしい……。
正直、1人で行動していたいつもの感覚でいたから、シトリンのことをすっかり忘れていたのは内緒だ。
彼女には本当に悪いことをしたよ。
それでもって、その日を境にあまり遅くに帰らないようにしている。どうしてもの時はしっかりとシトリンに伝える。でないとまた泣かせてしまうからさ。
今日もまた——遅くなるのを警戒して早く部屋に戻ろうと思う。
臨時収入があったから、シトリンを連れて街で外食するのもいい。
そうだ! そうしよう!
そうと決まれば……ここからダッシュで寮に戻ろうか。
僕は逸る足取りで工房の出口を目指した。
その時だ——
「さてさて、ウィルちーが次に何を持ってきてくれるか楽しみやわ。ミノタウロスをも簡単に倒してしまうとなると……次は20階層のボスやったりして?」
「……え?」
ふと、セラ先輩が独り言を呟くモノだから、それに反応して振り返った。
「いやいや。流石にそれはないよ。僕だってまだまだレベル不足だしさ?」
「せやね。流石に20階層のボスをソロ討伐したって話は聞いたことあらへんもん。ないわな〜♪」
「ああ。そうだって、まだまだ時期尚早だって。ははは……」
「……ん? 時期尚早? ってことは、いつかは……」
「それじゃあ。僕は帰るから。じゃあね〜♪」
「まて! ウィルちー! 本当に狩らんよね?! ソロは死にに行くようなもんやからね!! 絶対ダメやからね!!」
簡単に反応しただけだけどセラ先輩は機敏に僕の思考を読んで慌ててた。
そう……彼女の予想通り、いつかは20階層のボスにも挑む。
それでも、僕は秘密を知られないためにもソロは確定事項だ。
奇しくもセラ先輩の感じとっていたであろう予感は的中してることになるんだ。
だけど、僕は沈黙で手をヒラヒラ〜とさせてその場を去る。ここで追求されたら喋っちゃいそうだし、止められそうでもあった。
面倒くさい状況になる前にこの場を去ろう。
今日はもう、そんなものに付き合ってられる余裕はないんだから……
シトリンと外食。楽しみだな〜♪