第174話 ジャラジャラ♪
待つこと数分——
「はい。お待たせな〜♪」
セラ先輩はジャラジャラと音がなる袋をトレイに乗っけて戻って来る。
袋の数は全部で4つだ。
「随分と重たそうだね?」
「当たり前やろう? この中身は全部硬貨なんやから」
「はぁあ? これ全部——?」
「せや!」
ながら半信半疑で袋について聞いた。あれが全部硬貨となると……一体、クリスタルサーペントはいくらで売れたのか気になってきた。
所詮はチュートリアルダンジョンの14階層で狩ることができるお手軽な素材だと言っていいクリスタルサーペントだ。僕は9階層まで直で飛ぶことができるから、尚のことおつかいい感覚で狩ってこれる素材である。
僕としては、精々寮費数ヶ月分ほどになってくれたらいいな〜〜程度にしか思っておらず——セラが持ってくるのは袋1つが関の山って想像を膨らませたが……
トレイの上に乗ってるのは4つ——それにその全てが大量の硬貨を詰められ太っている。
「それじゃあ〜な〜。クリスタルサーペンの買い取り額やけど、全部で19頭。金貨で210枚で買い取るわ」
「……はッ?! にひゃ……えッ?!」
「なに驚いとるん? クリスタルサーペンは高級素材やよ? 一頭、金貨10枚前後で売れるんは当たり前やろう?」
「イット〜ウ? キンカじゅうマ〜イ??」
「あぁ……ダメや。ウィルちー壊れてもうた」
ちょっと待て……これは何かの冗談か?
僕が使ってる学園の寮は、普通に宿屋の部屋を借りるよりは安い分類で一月で金貨2枚である。
学園は3年制。で最初の3ヶ月間はタダ——それを考慮すると……学園卒業までに必要な枚数は54枚となる。
それで……クリスタルサーペントの買い取り額が金貨210枚……?
寮費総額の約4倍??
嘘……やろ? 聞き間違いか??
「お〜〜い! ウィルちー? 戻ってこ〜〜い?」
「——金貨210まーーぃいッッッ!?」
「——ッグベェエッ!!??」
ようやく事実を認識した時、驚きで思わず前のめりで飛び起きた。すると、放心状態だった僕の顔を覗き込んで手をヒラヒラとさせていたセラ先輩を盛大にズツいた。彼女のおでこを直撃し弾き飛ばす。
「——ギヤァァアアッッッ!!!! 何するんや! 我ェェええッッッ!!??」
セラ先輩は痛みに悶え苦しみ、オデコを抑えて床を転げ回った。ゴチンッと壮大な音色を奏でていたからな。相当なダメージを受けていることだろう。
僕……?
僕は……ほぼ無傷だ。神器所持者を舐めるなよ。
痛いには痛かったが、気力回復に貢献してくれる良い痛みだった。
ちなみに、別にマゾってわけではないからな。変な勘違いしないでくれよ?
「本当に金貨210枚なのかよ? 本気で言ってる??」
「ウィルちー!? あんさん。それ確認する前に、まずは謝れやぁぁああッッッ!!」
「……え? わりぃ?」
「短いはッッッ!? もっと、誠心誠意、長文で謝りや! メッチャいたかったんやで!? うち、女の子やねんぞ!! 優しくせんとあきまへんで!!」
「それだけ元気なら大丈夫なのでは?」
「そういう問題やないわッッッ!! 誠意みせ〜や! 誠意ッッッ!! ボケがァア!!」
セラは転げ回った床からテーブルに這い上がると、バンバンと卓上を叩いて憤っている。
相変わらずこの人は元気が良いな。キャンキャンとよく吠える。ただ、元気があることはいいことだ。うざいけど。
「うぅ……また、失礼なこと考えてるな? ウィルちー」
「べ、別に?! ただ……げんきだな〜〜って?」
「好きで元気良いとちゃうわ! 怒りを露わにして猛抗議しとるんやよ!! この金貨の袋、ガメてやろうか!!」
「あはは……ごめんて〜〜♪ 僕に悪気はない。許してやってよ」
「客観的に言うな! 腹立つわ!!」
と——セラのご機嫌が治るまで、このあと5分かかった。
今度、お詫びの品でも持ってきてあげよう。一応、お世話にはなってるんだ。これぐらいはしてあげるともさ。