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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第4章 僕が【死を縫い付ける裁縫師《デス・テーラー》】と呼ばれるようになるまで
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第173話 専属冒険者

「はい〜〜お邪魔するよ〜〜」

「……ッお。ウィルちー。いらっしゃいやで♪」



 僕はセラの工房を訪れた。それも気軽にズケズケと土足で踏み入るように。気分は友達の家にでも上がり込む勢いだ。

 なんだかんだ言って、僕は彼女と良好な関係を築いていた。

 言うなれば、今のセラはパトロンのような存在となっていた。



「んで——今日も、持ってきてくれたんか?」

「あぁ……狼が数匹と、今日は大物が一頭」

「ほほう〜拝見しましょか? ウィルちー!」



 気づけば僕は彼女に本名を明かし、いつの間にやら『ウィルちー』と呼ばれていた。もうすっかり互いに信頼する間柄だ。



「——見て驚け——ッコレだ!!」

「——ッ!? こ、こ、これはミノタウロスやとォオオ!?」

「ああ。以前狩った奴と合わせて2頭分だ! それと、コイツが所持していた武器」

「マジかいな!? あんさん。本当に何者やで? いや、そうやのうて……流石はウィルちーや。うちが見込んだだけある。うちの最高の専属冒険者様や!」

「セラ先輩。そんな大袈裟なぁ……多少は厄介だったけど、案外余裕だったよ?」

「大袈裟やない! 異常種を単独討伐できる人材なんてどれだけいると思ってるん!?」



 本名セラフィーナ=シャミル。愛称はセラだが……実は、彼女は僕が通う学園【アルクス】の3年生、つまり僕の先輩に当たる。よって、彼女のことは『セラ先輩』と呼んでいる。

 そして彼女とどうしてここまで親密な関係になったのかだが……それは彼女の持ちかけた提案が関係していた。



「ウィルちー。ホンマありがとうな?」

「何が?」

「ウチの専属冒険者になってくれて——」

「どうした。急に湿っぽくなって。変なモノでも拾って食って頭バカになったか?」

「どうしてウィルちーはそんな言い方しかできんのや!? じゃなくて、感謝してるってこと! それを伝えたかったんや! ボケがァア!!」

「だったら、なんで怒ってるんだよ?」

「アンタの所為せいやァア!!」



 専属冒険者。それは商人が抱える専属の冒険者のことだ。

 冒険者は商人から多大な報酬を受け取る代わりに、オーダーを直接受けて討伐や素材を採取する。もしくは護衛なんかを請け負う。

 冒険者ギルドに直接関与しない為、仲介料は発生しない。だから大きな金銭のやり取りができ、商人としても直接依頼ができるためオーダーの自由が効くのである。

 まさにWin-Winの関係が築ける。

 ただ……専属となる冒険者の絶対数は限りなく少ない。

 『専属』ってことは冒険者としては行動範囲が縛られることになってしまう。商会から許可もなく遠出はできないし、ある程度は指示を受けなくてはならない。

 あと、それだけでなく専属冒険者は商人の看板を背負うことになるから——犯罪、蛮行はもちろんのこと商会や商人の顔、看板に泥を塗るような行動はできない。

 まぁ……普通の冒険者でも当然なことだと思うけど、商人同士の意地ってモノもあるみたいで、互いに泥を投げ合うなんてこともあるみたいだ。要はマウントの取り合いだ。そこに巻き込まれる恐れがあるという……とっても面倒くさいことだ。嘆かわしい。

 だけれど、僕とセラ先輩の間柄はそこまでドブドブの関係ってわけではなくて、あくまで非公式なモノだ。言ってしまえば学生同士の間柄、相棒に近いかな?



「協力関係を結ぶんは難しいんよ。人間関係もそうやし、何より武力がないといけんし。まさかうちの後輩にこんな逸材が居るとは知らんかったわ〜〜。てか、本当に後輩なんか謎やけれど……」

「後輩だよ。なんなら生徒手帳でも見せようか?」

「いんや。その点は君を信じるよ」

「そう?」

「ウチの我儘聞いてくれるんやもん。ウィルちーは良い後輩やで! まぁ〜その代わり、ウチが返せるモノなんてほとんどないんやけれど……堪忍な〜?」

「そうでもないよ。僕もセラ先輩には感謝してるよ」

「ホンマか? ふふ……そう言ってもらえると嬉しいわ〜♪ ありがとな」



 僕に課せられた条件はすごく曖昧だ。


 ——ダンジョンで手に入れたモノを全てセラ先輩の元へと持って行くこと。


 ——そして僕への依頼はその都度、自分で受けるかどうかを判断できること。


 前者は、ギルドに売らずに素材を持ち込んでもらいたいというお願いだ。これはどんなモノであっても買い取ってくれるという話だ。

 そもそも僕は、力を隠したいからギルドでは素材を売ることができない。であるなら、彼女の提案はコッチからお願いしたいほどの申し分ない提案だってことだ。

 それに優しいセラ先輩は査定額に納得いかなければ売らなくても良いとまで言ってくれた。

 ま、至れり尽くせりの提案だがギルドでは売れないから必要なければ全部売っぱらう気ではいる。要は結局〜な話ってこと。


 そして後者の条件だが……これはセラ先輩が『欲しい!』と言い出した素材を心の隅にでも留めといて可能な限りでとってくるというモノだ。

 これは“契約”とまでいかず、あくまで口約束。

 僕は所詮は学生だ。それに後輩ともなれば危険な採取を強行させるわけにもいかない。だからセラ先輩はあくまで口約束にとどめるのだろう。


 それに僕はまだ仮冒険者だしな——


 ち・な・み・に……


 セラ先輩は家のツテもあり既に冒険者資格は得ているんだそうな。そして、そんな彼女に『後輩』である事実を伝えたということは、僕自身が『仮冒険』であることがバレたということだ。

 しかし、セラ先輩が平然としているのには理由があって……



『……ん? 仮冒険者? ふ〜〜ん』

『“ふ〜ん”って平然と受け入れるんだな。僕、普通に5階層の駐屯地を飛び越えてるんだけど……』

『あん? そんなこと……ウチだって何回だって侵入してたわ。タイムイズマネー。人生における時間は限られてるんや。早い段階からレベルアップせな〜〜金なんて稼げんよ〜〜?』

『そ、そんなモノなのか? か、軽いなぁ……』

『そんなモンや。ウィルちーの強さについては非常識やけど。理由わけは聞かんどくわ。君だけが知る特殊な訓練方法でもあるんかもしれんし。いつか、ウチのことを完全に信用できるようになったら教えてくれな』

『ん? あぁ……気が向いたらな』



 と、5階層の壁を飛び越えた不法侵入が横行している事実を知った。

 それに、セラ先輩の中では僕の事を受け入れて呑み込んでしまっているようだ。

 僕達の出会いは唐突だったと思うのだが、すんなり受け入れてしまうとか。豪鬼なのか。愚か者なのか。彼女のことがよくわからない。

 虎穴に入らずんば虎子を得ず——もしかすると、変わった能力を持った僕を見て、なんとしても抱き込もうとでも考えているのかもしれないな。

 そういう勘や積極性は商人にとって大切なのかも? 

 だとすれば、僕を優遇してまで捕まえることに成功した彼女は幸せ者だ。期待は裏切らないから、精々楽しみにしてるといいさ。

 彼女が僕を裏切らない限り、応えてあげようじゃないか。



「あ? そうや! ウィルちー。こないだのクリスタルサーペントのことなんやけど?」



 そして、わちゃわちゃニタニタと変態チックにミノタウロスを観察していたセラ変態……ではなくてセラ先輩は急に何かを思い出したかのように話しかけてきた。



「……ん? それが……?」

「査定が終わったから、その話をしたいんよ。こっち来て座ってくれるか? 今、買取金も持って来るからな〜〜♪」

「ああ……。分かった」



 僕はセラ先輩の指差しに従って、工房に置かれた商談椅子へと向かった。はてさて、僕が狩ったクリスタルサーペントはいかほどになったのか? 楽しみだな。









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