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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第4章 僕が【死を縫い付ける裁縫師《デス・テーラー》】と呼ばれるようになるまで
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第170話 取引しませんか?

「どうぞ〜〜入って入って〜♪」

「お邪魔します……」



 僕はセラの案内でとある場所に案内されていた。



「ここは?」

「ここはウチの工房! 兼、商談室のようなところやね」

「ふ〜〜ん。工房? 商談室?」



 ダンジョンを出て商業エリアにあった倉庫へと連れてこられる。そこは殺風景でただただ広いだけの空間だった。部屋の端には簡単な工具とテーブルと椅子がある。ここが工房であり、商談室だと言っているのはどうやらあれらのことを指しているようだ。



「ささ。座ってくれや! テイラーさん!」



 ちょうど椅子に視線が止まっていると、セラはその椅子を指し示して勧めてきた。

 僕が黙って椅子に腰を落とすと、向こうの席に彼女はドカッと座り込んだのを確認した。ただ、椅子のクッションが思いのほか深く沈むことから、アワアワと慌てる仕草を見せていたが、彼女は咳払い1つして気分を切り替えると真剣な眼差しを僕に向けた。今の彼女の瞳には胡散臭い印象はなく真剣そのものだった。


 すると……



「——ッごめんなさい!!!!」




 いきなり謝罪から始まった。工房全体に彼女の甲高い声が反響し、セラはテーブルに頭を打ちつける勢いでこうべを垂れた。


 いや、実際にオデコを打ち付けている。『ごめんなさい』と残響が響く中で『ゴンッ!!』という鈍い音を僕は聞き逃さなかった。



「正直、ウチはテイラーさんを甘くみてました。初めから間違いを犯してた。クリスタルサーペントを軽く遇らう凄腕の冒険者が、ウチごときの口車に乗せられるわけなかったんや。テイラーさんは全てを見透かしてた。こんな生意気小娘でついでに可愛いウチが騙そうとしたんや。怒るのもムリはない。だから、その全ての非礼を詫びます! この通りや!! 可愛くてマジごめんや!」



 彼女について来たのはほんの気まぐれだった。セラがダンジョンであげた『組まへんか?』の言葉がきっかけとなり、僕は少なからず惹かれるものがあった。

 ほとんど勘に近い衝動だったけど……彼女についていくと何やら良い予感がヒシヒシと感じていたんだよね。

 僕をたぶらかそうとしたのは、まぁ〜彼女の謝罪に免じてあげなくもない。深々と下げた頭と、直前に見せた真剣な眼差しはダンジョン内で見せた胡散臭さを覚えた笑顔とは違う。



「本当に反省してるんだよな?」

「それはもぉ~マジや!」

「可愛いとかなんとかってのは?」

「それは真実や。堪忍して!」

「本当に? 本当〜〜に反省してる?」

「ほんまに! ほんま〜〜に反省してる!」

「本当かな〜〜?」

「ほんまやて〜〜可愛いウチに免じて許してやってや!」

「……ま、いいや。分かったよ。謝罪は受け入れる」

「——ッ!? ホンマか? おおきに〜〜テイラーさん!!」



 ここは自分の勘を信じよう。半分、呆れて考えるのを諦めたようなもんだがな。



「それで……私をここに呼んだ理由は?」

「そやそや! 実は……」



 ただ……この場所を訪れたのはセラの謝罪を受けるためではない。



「ダンジョンでも簡単に言ったが、ウチらで組まへんか〜っちゅ〜話をしたいんや」

「うん……それで具体的には?」



 彼女が僕を自身の商談室に誘ったということは僕と取引をしたいと言うことだ。それが何なのかを聞きに来た。



「大まかにテイラーさんと取引したい事は2つあるやけれど……」

「2つ?」

「1つ——テイラーさんが仕留めたクリスタルサーペントをシャミル商会、いやウチ自身に売って欲しい」

「……ほう?」



 早速、彼女は目的を語った。

 いきなりだが、僕の興味を大いにそそる内容だ。



「して、その条件は?」

「テイラーさんには多大な迷惑をかけたから、特別に査定料、解体料は取らへん。売り上げ100%をそのまま君に支払うと約束する」

「ふむふむ」

「ま、詳しい金額はすべてのクリスタルサーペントを解体査定してみないと分からないんやけど……もし金額に満足いかなかったら、そのまま解体素材をお返しするわ」

「ふ〜〜ん。それは私にとって悪くない条件だな?」

「ただウチはな、どうしてもクリスタルサーペントの素材が欲しいんや。そこで、さらに条件追加や。本来、大量に素材を売り払えば値崩れするもんやよ。まずギルドに売れば安く見積もられる。せやけど……ウチは大量に持ち込まれても全て一定価格で買い取ると約束する」

「…………」



 聞いてて、つくづく僕に有利な条件だ。

 ちょうど素材を買い取ってもらえる所を探していたから、これは願ってもない話だ。


 しかし……


 いくらなんでも僕にとって都合が良すぎではないかな?



「どうしてそこまでの条件を提示できるんだ? 何か裏があると思ってしまうが……」

「……ん? あるよ」

「あるのかよ……」

「まぁ〜あるうても、win-winには違いないと思うてる」

「……? どういうことだ?」

「1つ目の取引がテイラーさんに好条件なのは、2つ目の取引に関係してくるんよ」

「2つ目……?」

「そう……」



 セラは右手を突き出し、中指と人差し指を立てた。その指の本数は僕に突きつけた取引の数と同数だが、指の向こう側にある彼女の顔は真剣な眼差しで、口元には自信に満ちた笑みが覗く。

 

 そして……彼女は2つ目の取引を僕に持ちかけたんだ。



「テイラーさん。シャミル商会の……いや、ウチ個人の——専属冒険者になってくれへん?」

「専属……冒険者?」








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