表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第4章 僕が【死を縫い付ける裁縫師《デス・テーラー》】と呼ばれるようになるまで
170/173

第169話 ただいま交渉中〜?

「テイラーさん言うんね。うん、覚えたわ!」



 僕が大人しく名乗るとセラは満足したように頷き1つ。表情は柔らかく口元は笑っている。まぁ、名前は偽名だけどな。

 彼女の見せる態度が僕に与える印象は良好ではあるのだけれど……ふと、その笑顔を眺めていると急に嘘くささを覚えるようになっていた。



「テイラーさん。モノは相談なんやけど……」

「……ん?」



 彼女はキュッとした視線を僕へと向ける。表情は笑っていようとも、少しピリピリとする視線だ。殺気とは違うが、僕に少なからず緊張感を与えてくれる……彼女の目はちっとも笑ってはいなかったのだ。


 これは一体、なんだというんだ?



「クリスタルサーペントの引き上げ作業、うちにも手伝わせてくれへん?」

「……あ? あぁ……そういうことか……」



 だけれど、彼女のこの提案で察しがついてしまった。



「君は、ものの見事にクリスタルサーペントを落として見せた。いや〜〜惚れ惚れする手際だった。悔しいけど、流石やったわ〜〜。だけど、テイラーさん……君はどうやって湖に沈んだクリスタルサーペントを引き上げるつもりなん?」

「えっと……それはぁ……」

「みなまで言わんでええよ。そんな方法はない。図星やろう?」

「…………」

「水底には財が眠るも重くて引き上げること叶わなん。とても残念なことやわぁ〜〜。だが、そこでや! 優しいウチが商会お抱えの冒険者を招集して引き上げるのを手伝ってやるわ。この場所が他人に知られてしまうのは仕方へんけど……初めっから、うちらだけでは素材運搬はできへんから仕方ないやろう? どうや? 君には選択肢はないんとちゃうの? まま、そこはうちが手を尽くしたるから安心し。ただ〜その代わり、分前はうちも貰うけど……」



 彼女の見せた表情変化だけど……これは商売スイッチが入った瞬間だったってことか。

 獲物を奪われてしまったが、タダでは引き下がらない。商売根性が板についている。

 その精神は評価してあげるし、正直嫌いではないんだけれど……これ、明らかに僕を侮って下に見ている節があるな。

 ターゲットが僕だというのは、非常にいただけない。



「冒険者の手配に手間賃。あと素材をうちの商会に持ち込めばいくらか色を付けてあげれる。ただ、それでも解体料、手数料……その他もろもろで、うちが貰う取り分は、買取額の5割でどうや?」

「半分……」

「そや! でも、これは大勢の人を動かすことやさかい、仕方あらへん。これでもオマケしとるほうや!」

「…………」

「文句言ったところでテイラーさんは他に方法がないんとちゃいます? 今からギルドに手配するのにも時間とお金がかかりますよ? うちの提案、飲んだ方がええんとちゃいますか? ニッヒッヒ〜〜♪」



 勝ち誇ってニヒルな笑みを見せるセラ。

 非常に腹立たしい笑顔だ。

 彼女は、僕の足元を見て法外な提案をした。素材買取額の半分を持っていこうとは……いくらなんでも酷すぎる提案だ。とても受け入れられるものじゃない。

 しかし……それ以外の選択肢がないからこそ、彼女は強気な姿勢を見せているのだろう。

 クリスタルサーペントは巨体を誇る魔物だ。普通に考えて湖に沈んだ個体を個人で引き上げるのは不可能だ。彼女はそこに付け込んだ。

 ま、普通なら彼女に軍配が上がった商談だろうよ。ただの冒険者なら泣き寝入りでセラの提案を飲むしかない場面だからね。


 だが……


 僕を敵にしたことは最大のミスに他ならない。



「ではテイラーさん。交渉成立ってことで……」

「結構です」

「……え?」

「だから、その必要はないよ。お気遣いなく。もう素材採取は終わってるんで!」

「……はぁあッ?!」



 彼女は僕に運搬方法を持ち合わせていないと思い込んでいるが……ざ〜んねん! 僕は採取素材の類は基本影の中に落としている。

 積載量には限界があるんだけど、クリスタルサーペント20匹ぐらいならギリ入るだろう。

 例え、素材が湖の中に落ちていようが、底に陰りができてさえいれば回収は可能。すでに、すべてのサーペントは回収済みだった。要は、彼女の提案なんてノーセンキューってわけだ。



「それじゃ〜さらばだ〜」

「いやいやいや! あんさん無理言っちゃあきまへんで!? ざっと20匹はいたで? あの量を個人で運ぶ手段なんてあらへんよ!?」

「って言われても、もう回収したし……」

「んな。アホなぁあ!」



 だけれど、これに慌てだしたのがセラだ。

 常識で考えれば彼女が取り乱す理由も納得できる。ただ、そんなのに付き合ってやる気は微塵もないので無視してこの場を後に……と思っていたら——



「ちょっと待ってや!」

「——ッ!? ナニ……?」

「なに〜やあらへん! テイラーさん。嘘はいきまへんよ! そんな息巻いても損するのはあんさんなんやで?!」



 急に右手を掴まれ引き止められてしまった。

 

 何してんだ。この人? 掴むなよ。行かせてくれよ。ふざけんなよ!?



「はぁぁ……」



 僕は大きくため息を吐き捨てるとパチンッと指を鳴らす。


 別に鳴らす必要はないんだが、ちょっとしたポーズをとった。



「——ッへ??」



 僕の影からズズズッとビショビショ蜥蜴を取り出してセラに晒してやった。すると、見て明らかな惚け顔を晒して声を溢していた。



「な〜ん〜や〜こ〜れ〜??」

「僕の魔法の力……しゅ、収納魔法? だ?」

「しゅ、収納魔法?? なんやそれ!? 聞いたことあらへん!!」



 厳密には魔法とは違うんだけれど……少なからず、出し入れには魔力を少量使用してるので魔法だと嘯く。原理とか聞かれ出しても僕は博士ではないので答えられんからな。



「嘘だと思うなら頑張って水底でも漁ってみるがいいさ。どうせ徒労に終わるだけだよ。頑張ってねぇ〜♪」

「——ッ!?」



 これ以上の問答は不毛だと思って、再びクリスタルサーペントを影に仕舞い込んで握られた手を払い退けた。

 女の子に対して可哀想なやり取りかもしれないが、最初に僕を謀ろうとしたのはセラの方だ。

 礼を尽くすなら礼で持って返す。だけれど、無礼な奴に尽くす礼など僕は持ち合わせていない。その点——彼女は商人らしからなかったんだ。商会長の娘と言ってる割にはまだまだヒヨッコだったのかな?



「——待ってッ!!」

 


 しかし……セラは尚も食い下がって僕を呼び止める。


 この時の僕は苛立ちを覚え始め、つい彼女を睨もうとした。


 だけれど……



「ねぇ〜うちら組まへんか!!」

「……ッん? 組む?」



 彼女が声を荒げて言い放ったこの提案に、そんな気は何処かへ霧散して消えてしまった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ