第168話 何してくれるんや! ワレッ!!
さてと……
なんとかクリスタルサーペントを地底湖に沈めることには成功した。
今は湖の畔まで降りてきて沈んだことの確認中だ。水面にはブクブクと泡が浮いてきてはいたが、クリスタルサーペントは浮いて這い出てくる気配はない。溺死したようだ。
ただ……その代わり……
「っぷッはぁ〜〜あ!? ぜぇぜぇ……ひ、酷い目にあったわぁ……」
ただ1人、水面下から這い出てきた人物がいた。
ヘンコである。
この子、僕の糸で魔物共々弾き飛ばしてやったが……どうやら無事だったようだな。
「無事やあえらへんよ!! 何してくれるんや——ワレ!!」
おっと、ずぶ濡れの彼女をジトォ〜っと見下して“うんうん”と頷いていると唐突吠えられてしまった。どうやら僕の考えていたことを見透かされていたようだ。今はフードを被っていて表情が見えないはずだが……僕はどうしてこうも考えが他人に読まれてしまうんだろう?
不思議だねぇ〜?
「危うく死ぬところだったんやで! なんちゅ〜無茶なことしよるんや?! 」
「……ッフ。何を世迷言を……」
「な、何が可笑しいんや!?」
「君は生きてるんだから問題ないでしょう?」
「なんや! その言い草はぁあ! 誰のせいやと思ってるん!? 女の子には優しく接っさなあかんよ! むしろ優しくしてぇ〜やぁ〜! うわぁ〜ん!」
なんだ。この残念な生き物は? 急に泣き出しちゃったよ?
おいおい。一体誰だ〜彼女を虐めたのは?
(※ウィリアです)
冒険者とは命あっての物種。無事に生還できてるんだ。いいじゃないかよ。
煩いったらありゃしない。まったく、彼女を死ぬ思いさせた無茶な奴って誰のことなんだか?
(※ウィリアです)
さて、女の子に優しくない。悪〜い奴とは一体……
(※うぃり……)
「——おまえだぁああッッッ!!!!」
「うお?! いきなりどうした? 頭でも怪我したか?」
「クソがぁあ!! 何メートルもの高さから水面に叩きつけられても、無傷だったんよ! 人を可笑しな奴みたく言うなや!!」
「無傷なら良いじゃん」
「皮肉じゃボケぇえ! 気づけや!!」
泣いたと思ったら、今度は怒り出した。情緒不安定か。
相変わらず思考を読まれてしまってるな。まさかエスパーか?
「ウチに対しての悪〜い思考はビビビ〜ッとくるんや! まったく! なんなんやアンタは!?」
「いや……なんだと言われましてもぉ……」
「それにクリスタルサーペントを弾き飛ばしたあの技! どんな能力してんのよ?!」
かと思えば、思い出したかの様に僕の技について言及してくる。無遠慮の塊か?
「はぁぁ……言うわけないでしょう? まったく、自身の能力を大っぴらに公開するわけないでしょうがよ?」
「むぅ……そりゃ〜そうやけれどもぉ……」
ま、なんにせよ。クリスタルサーペントを地底湖に沈めたのは僕の力だ。これで素材の所有権は僕が主張できる。
彼女が悔しがる気持ちは分かるが、これが事実だ。
「ああ〜〜してやられたわ! ほんま悔しいッ! クリスタルサーペント全部持っていかれて……ック!」
ヘンコもそのことは分かっているから不満を吐露しているんだ。
今も頬を膨らませて僕のことを睨んでる。
そんな目で見たところで分けてやらんけどな。
「でや——あんさん名前は?」
「え? なに?」
「うちの名前はセラフィーナ=シャミル。あのシャミル商会の会長の娘なんやけど……ま、気軽にセラとでも呼んでおくれや!」
ただ、この子——いきなり何かのスイッチが入ったかの様に笑顔を形成すると、いきなり自己紹介を口にした。
全身ビショビショのままだけど、これが俗に言う『水も滴る変な女』だな。
さて、適当に変態女の子——略して『ヘンコ』って呼んでたけど違ったか。
「あんた……今、失礼なこと考えてへんかったか?」
「い、いや〜〜そ、そんなことないよ〜〜?」
「ほんまかぁ〜〜? 怪しぃ~~?」
おっと、変な思考を巡らせていれば『ヘンコ』改め【セラフィーナ】略してセラが再びジト目を形成した。この子は本当に鋭く敏感だな。
まぁ、それはさておき——この人、商会長の娘と言ったか?
シャミル商会。
なんだろう——どこかで聞いたことある気がするんだけどな。さて、どこだったかな?
いや、この街に大きな商会があることは又聞きで知ってはいたけど、それとは別にここ最近で聞いたことがあるんだけどな〜〜その名称。
う〜ん? 思い出せないな。
「んで? あんさん。お名前は?」
「……あ?」
「うちは名乗ったのに、あんさんだけ聞かせてくれへんの? それは筋が通らないのとちゃいます?」
ただ、そんな思考中の僕にセラは執拗に名前を聞いてくる。
名乗られたら名乗りかえす。至極真っ当で普通なことだ。
いつも散々、周りに文句言ってることを、逆に言われてしまった。
仕方ない——ここは大人しく名乗っておこう。
「私の名前は……テイラーだ」
ま、偽名だけどね。