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僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第4章 僕が【死を縫い付ける裁縫師《デス・テーラー》】と呼ばれるようになるまで
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第167話 押し出しッ! してやったり〜!!

 僕は現在、飛びかかって来るクリスタルサーペントの攻撃を、のらり〜くらり〜と躱して倒す方法を考えていた。だけれど、この場にいる魔物のほとんどはヘンコの方に引き寄せられている。避けるスピードからして彼女の方が狙いやすそうだってのもあるけど……ヘンコは槍先の刃を岩に打ち付け、音を立てて誘き出している。これを聞いた魔物が彼女のところに集まってきてるのだろう。

 

 おそらく、彼女の目的はクリスタルサーペントを地底湖に落とすつもりなのだろう。

 僕の(英雄譚の)前情報では地底湖はあまり深くはなかったと記憶している。だけれどクリスタルサーペントを溺死させるだけの深さはあるはず。

 あの重々と背負ったクリスタルだ。水に落ちようモノなら重さで沈むはず。そして地底湖の淵は傾斜があるというよりは、ストンと落ちてる感じだ。だったら、あの地底湖に落としてしまえば、這い出せずそのまま溺死させて倒せてしまうということではなかろうか。



「神器——えいッ!」



 僕は一本のレイピアを影の中から取り出す。



 そしてそれを〜〜



 プスッと地面に刺す!



 ただ……これは別に【影縫い】がやりたいわけじゃない。現に僕はどのクリスタルサーペントの影にもレイピアを指していない。何もありゃしない崖沿いの一点に刺しただけなのだから。


 そして……


 そこから【うつろ】を持ったままただ走る。崖から離れ大きく弧を描くようにただただ走る。

 その間、僕の後ろには魔物はついて来ていない。あまりに早く走っているモノだから、諦めてヘンコの方へと向かったみたい。まぁ〜別に数匹追って来てくれてもよかったけど……これはこれで好都合。思い通りではないがベストな状態だ。


 ただ……


 魔物は追って来ていないが、僕の後ろには“とあるモノ”がある。


 紫紺に輝く魔糸である。


 地面に突き刺さったレイピアと、抱えたままだったレイピアの2つの得物の間を紫紺の糸が巡っている。僕の目的とは純粋に糸を張り巡らせたゆませることにある。これが上手くいけば一気にクリスタルサーペントを崖から落とし地底湖に沈めることができるはずさ。



「あ!? しもうた!? 誘導したんはええけど……どうやって落とすか考えてへんかった!! ど、ど、どないしよう!?」



 そしてこの間、ヘンコはというと、クリスタルサーペントを崖に誘い出した……というよりは、追い詰められてるのは自分だったと、何ともお間抜けな状況に陥っては慌ててた。


 うん。馬鹿だな。


 これなら、獲物を取られる心配なんて、はなからいらなかったんじゃないかとさえ思えてくるよ。


 だったらこの隙に詰めさせてもらおうじゃないか!


 僕は集まりつつある魔物の群れを大きく迂回するように周り込んだ。そして再び崖沿いへとやって来ている。

 最初にレイピアを刺した場所が群れの向こう側だ。

 『弓』を想像してもらうとわかりやすい。上から俯瞰して見た時……大きな弓を地面に描くかのように糸を張っていた。

 崖を直線に見立た時、それが弓で言う『つる』の部分だとしたら弦の糸が結ばれた地点がレイピアが刺さった地点と現在僕が居る地点。そして、湾曲したハンドル部分が張り巡らされた紫紺の糸で描いた地上絵だ。

 そして群れは崖と糸で囲った中央にいるわけだが……

 

 あとは……



「——オラ!!」



 再び僕は力一杯レイピアを地面に突き刺した。そして……



「——引き伸ばした魔糸を一気に引き締める——!」



 僕の持つレイピア間に繋がれた紫紺に輝く糸だが……これは僕の魔力によって作られたモノだ。

 糸は影の性質を帯びているだけでなく、魔力の現象によって触れた物を弾き飛ばす。場合によっては引き絞って切断なんてこともできる(盗賊の腕を千切り落とした時みたいに)。

 ただ、この糸は任意によって収縮自在なんだ。2本のレイピアを指定の位置に突き刺すと、その間に巡った糸を一気に引き絞る——するとどうなる? 

 糸はピンと張ろうとすると同時に集まりつつあった魔物を巻き込んだ。クリスタルサーペントの甲殻に引っかかり、時に弾き、そして糸に飛ばされた魔物は第二、第三とクリスタルサーペントを更に巻き込んで崖へと追いやっていった。

 そして最終的にはレイピア間の糸がピンッと張った状態になるのだが、それは全てのクリスタルサーペントが崖に放り出された瞬間となる。

 たかが細いレイピア()魔糸(イト)だけど、それでも巨体の魔物を押し出してやった。

 想像できないと思うが、魔糸は存外丈夫なんだ。

 あの糸は僕の魔力で編まれてると言った。それは僕のレベルに合わせて強力になって切れ辛くなる。常識の範疇なら、そこそこの巨体の魔物だろうがレベルの低い魔物相手になら切れたりなんてしないで弾き飛ばしてしまう。

 そして地面に突き刺さったレイピアは影の魔力で地面に固定したから簡単に抜けたりなんてしないのだ。

 さらに一役を担ったのはヘンコが良い位置に魔物を集めてくれたこと、おかげで思い通りに事が運んでくれてよかった。


 よくやったヘンコ! 君のおかげで獲物は全部僕のモノだ!



 ——グワッグワァ〜ッッッ!!??



 投げ出されたクリスタルサーペントは悲鳴のような鳴き声を上げている。

 相当、驚いたんだろうな。細い糸でまさか崖下に落とされるとは思っても見なかったことだろうよ。


 それと……



「にぎゃぁ〜〜〜〜ぁあッッッ!!」



 宙には魔物の鳴き声の他にも奇妙な悲鳴が飛んでいた。

 どうも、ヘンコのことも巻き込んでしまったみたいだな?

 まぁ、下は湖だし……たぶん、大丈夫だろう? 

 うん……たぶん。



 ドボォーーーーン!!!!



 そして、大きく水しぶきが上がる。勝利を勝ち取った僕は祝福するかのような慈雨を浴びたのだ。


 ははん! してやったぜ!








 


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