第165話 秘密のエリアにはトカゲと変態?
狼はいねぇ〜かぁ〜! 狼はいねぇ〜かぁ〜!!
と——揚々と狼ハントを繰り返しつつ僕は14階層を目指していた。とは言っても目的は、この階層にあるとされる秘密のエリアだ。
しかし、素材採取は二の次で、無理はせずに逸れ狼だけをちょこちょこ狩って14階層を目指す。
僕は殺人鬼じゃないからな。無駄な殺生は避けている。
僕のことを血を求める吸血鬼だと思わないように……可愛い田舎産のクソガキだと思うように! これ絶対!
でだ——
僕の人畜無害さアピールはどうだっていいんだ。秘密エリアの話に戻ろうか。
14階層はこれまでと同じ階層の続きだ。
ただ違うのは中心に芯があるかのように通路は大きくぐるりと一周するように形成されているという点だ。そして、僕が目指してる秘密のエリアとは、この『芯』の部分にある。
ゲートを抜けて14階層の通路を真っ直ぐと進む。そして突き当たりにある壁を調べる。そこには規則正しく石ブロックがつまれた壁があるだけだけど、これを正しい順番で触れると、秘密の通路が現れるんだ。何も知らない一般人にはまず見つけられないだろう隠し通路が。
この階層は、中心にある『何か』を避けるように通路が左右に抜けている。何回もこのエリアに足を踏み入れた者なら『中心には何があるんだ?』と思わなくないかもしれないが、隠しエリアは一般的には見つけることは難しいだろう。壁を手当たり次第に調べるにしてはエリアは広大過ぎるんだ。あるかどうかも分からないエリアを探すためにノーヒントで実行に移す行為ではないだろう。そんな奴、馬鹿か、変態か、物好きな奴だけだな。控えめに言って、まともな思考の持ち主にはエリアを見つけることは不可能だ。だから、知識のある僕以外に秘密のエリアが見つかることはまずあり得ないだろう。
つまり……
僕は、秘密のエリアの情報を独占してがっぽがっぽ素材が稼げるってことだ!
ふっはっはっは〜〜!!
どうだ! まいったかぁあ! 守秘義務で素材は売れねぇ〜んだけどなぁ〜!!
——クソがぁあッッッ!!!!
物は目の前にあるけど売る手段が無いという絶妙なもどかしさを抱えているが、もう深くは考えない。考えたくない。このままでは悩みすぎてハゲる!!
ということで……とりあえず秘密エリアに入ってみようか。頭を使うのはそのあとだ。
僕は周囲を確認して壁へと向き直る。隠し通路を開けている姿を第三者に見られるわけにはいかないからな。細心の注意を払って隠しエリアへと侵入を果たす。
——グワッグワァ〜!
通路の奥からは奇妙な鳴き声が響き渡ってくる。
間違いない——この通路の奥にあるエリアには僕が求めている魔物がいる。あの鳴き声はそいつで間違いないだろう。
やがて……
進むにつれ石畳の通路から不規則な岩場へと出た。まるで洞窟の中にでも迷い込んだかのように……
「お?! 居るじゃないか。大量だな!」
そして広い空間へと出る。すり鉢状の地底湖のような場所だ。
キラキラと犇めくトカゲどものお目見えだ。
ヤツの名前は【クリスタルサーペント】という。本来のコイツは15階層以降のレアエネミーとして登場するのだが……ここ14階層の隠しエリアはクリスタルサーペントの住処になっているんだ。
この魔物は背中にクリスタルを背負ったトカゲの魔物である。この甲殻が高く売れたはずなんだ。
僕は今、小高い場所から下を覗いているんだけれど……ぱっと見、十数匹ぐらいワチャワチャしている。ドラゴンがキャベツを背負ってやってきたかの光景がそこにはあった。
さ〜て、これ全部売っぱらったら果たして金貨何枚分になるのかな?
これを想像するとヨダレが……ジュルリ!
「では——早速、狩らせてもらおう!」
僕は神器を取り出し、クリスタルサーペントが集まってる一点を目指して跳躍した。なぜそこに集結しているのか分からんかったが、細かいことを考えるよりも身体が動いてしまっていた。それほどまでにクリスタルサーペントの素材が魅力的だったということだ。
素材独り占め——僕は揚々と魔物の群れに飛び込んで行った。
だがしかし……
魔物目掛けて落下してる最中にそれを見つけてしまった。
「……え? 先客が居るのかよぉ……」
「だ、誰や?! 君は……?!」
魔物の群れの中に1人の女の子がいた。この秘密のエリアに先客がいたのだ。
う、嘘だろう?! このエリアを自力で見つけた奴がいただと!? コイツもしかして変態かよ!!
彼女は、身動き取りやすそうなタンクトップと短パン姿に大きなリュックを背負って手には槍が握られている。冒険者にしては些か軽装なオランジュの髪色のサイドポニーの若い女性だ。
「うがぁ〜〜あ?! ウチ以外にもこの場所知っとる奴がおったとわぁ〜〜あ!! ウチの一攫千金の計画が破堤してまうやろ〜〜!!」
そいつは魔物に囲まれてる状況だというのに、僕の存在に気づくと泣き叫んで頭を抱え身悶えていた。
んだよ。それはコッチのセリフだ! 僕だってなッ——泣き叫びたい気分だよ。コンチクショウ。
彼女も僕同様にクリスタルサーペントを独占しようとしてたんだろう。それが、僕の登場により秘密のエリアは秘密じゃなくなったのだ。それを嘆いている。
襲われている事実よりも儲けのことで頭を抱えるとは、彼女も相当な金の亡者とみた。
だが……まだだ。
まだ悲観するのは早い。
魔物素材の所有権は、魔物をいち早く狩った冒険者のものになる。既に傷ついた魔物は例外だが……それが確認できなかった場合は先に傷をつけた者が所有権を主張できる。
クリスタルサーペントはとても硬い生き物だ。
見たところ彼女に付けられた傷はない。
そこで僕が取れる行動は……彼女より先に僕の獲物だって証拠を刻めばいいんだ。