表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕だけは知っている〜〜そこがチュートリアルダンジョンである事実を〜〜  作者: バゑサミコ酢
第4章 僕が【死を縫い付ける裁縫師《デス・テーラー》】と呼ばれるようになるまで
164/182

第163話 暇を持て余してるんだ! 行くなら僕だけが知っている秘密のエリアだろう!!

〜〜チュートリアルダンジョン12階層〜〜



 1〜9階層が草原のダンジョンだったが、11階層を超えると雰囲気はガラリと変わる。そこは石造りのダンジョンだ。

 無機質で周囲は一気に暗くなり、明るかった草原エリアと比べると驚きの少ない空間なのは否めない。この場所の方が実に『ダンジョン』らしく写っているのは皮肉なことだ。



「投擲ッ——操糸ッ——魔技、虚影! 悪いなワンコロ。お前の毛皮を置いていけぇえッ!!」

「——キャンッッッ!?」



 この階層に出る魔物は獣が主体だ。

 今も僕は1匹の狼を屠った。

 ゴブリンと比べると頭が良いし動きが素早い。そして体躯も大きいものだから小型のレイピアで倒すのも一苦労だ。

 しかし、狼の厄介な点は、群れで行動するところだ。奴らは意思疎通をして連携力を発揮する。複数個体を相手にする時は要注意である。

 10階層のボスエネミーであったホブゴリンは部下のゴブリンとの連携を発揮していたが、狼の群れは奴らの比ではない強敵なんだ。

 1匹ではゴブリンと比べると強いがホブゴリンと比べると見劣りする程度の強さ。だが獣である分、僕にとっては行動の予見が難しいし、そもそも群れのボスがどいつなのか分かりづらい。狼の見た目なんて全部狼だから見極めるのが至難の業だってことは理解できるでしょう? 

 11階層を超えると冒険者の死亡率も一気に跳ね上がるという。

 ホブゴリンに勝ったからと言っても、この時点で冒険者が慣れてるのは人型との戦闘だ。いきなりの獣との戦いは冒険者にとっては手厳しい洗礼なのだろう。

 そのせいなのか。冒険者の死亡は特に新エリアに乗り出した者に多い。己の力を過信せず慎重を期すことこそが死なないコツなのだ。

 だが……僕からしたら狼程度は恐るるに足らずさ。

 確かに群れられると脅威なのは僕にも当てはまる条件だ。例え神器の所持者だとしても過信するのは禁物で下手をすると普通に殺されてしまうことだろう。

 だったらどうするのか? そんなの簡単だ。

 群れを狙わなきゃ良いだけのことだ。

 僕の魔力は影だ。この魔力は希薄であり魔物から身を隠すのにはちょうどいい。あとは群れていない狼を狙うだけだ。

 さっきも言ったけど注意するのは速度だ。しかし僕だってね、速度には自信があるんだ。

 こっそり近づいて、素早く急所を狙って一撃で仕留める。さながら狼ハンターのアサシンである。狼にとっての死神さ。


 さて……


 変態のレッテルを貼られた僕は不貞腐れてダンジョンへとやってきていたのだが……今は狼狩りに夢中だった。今、ちょうど5匹目を倒したところだ。

 いや……半分、八つ当たりな気もするけど、これは断じて違う。本当、マジで違う。

 僕は田舎者のガキンチョだ。ま、言ってしまえば貧乏人だ。

 シトリンという新しい家族ができてしまった手前……稼ぎ頭として生活費を稼がなくちゃいけなくなった。


 ただな……稼ぐといったって1つ問題がある。


 僕はどうやって素材を売ればいいんだろうな?


 素材を漁ること自体は余裕綽々と問題なくできている。狼の毛皮なんてのも冒険者ギルドの情報では高く売れることは知っている。

 だが僕は仮冒険者だ。

 今いる12階層は仮の文字が取れない僕にとっては、本来踏み入ってはいけない領域だ。

 ギルドの買取サービスは利用時に冒険者の身分証であるギルドカードの提示を求められる。そこで僕は侵入が許される筈のない12階層産の素材を持ち込んでみろ——ほぼ確実に疑われてしまうのは目に見えている。

 2日前にはギルド受付嬢であるクルア姉さんにこっ酷く叱られ釘を刺されたばかりだ。これでまた目立ってみろ……今度は許してくれないだろうな。

 それどころか……僕の力の秘密が露呈してしまう可能性だってある。これは慎重を期するべきなのだ。

 

 僕の秘密と正体を詮索をせず……


 真っ当なルートでダンジョン産の素材を買い取ってくれる……


 なにより信用できるパトロン。そうなりうる人物、もしくは団体……


 う〜〜ん。無理じゃね? こんな好条件の相手なんか果たして見つかるのか?

 これを僕の本性が周りにバレないように秘密裏に繋がりを持たないといけない——そこまで条件が追加されてしまうと、もはや不可能に近いのか?

 僕の現状の繋がりのある取引相手は、クラスメイトである鍛冶屋息子ノートン君の実家だ。だが、このルートでは取引素材が鉱石系に絞られてしまう挙句、学生である僕が持ち込むにしても高価な物を大量に持ち込んでしまえば不思議に思われてしまうため多様はできないのだ。

 早いところ取引先を見つけて(寮費支払い期日が迫っているため)しまわないといけないが、僕が嵌めた枷は非常に重く、共に引きずってくれる相棒はなかなか現れてはくれないだろうな。


 だが……


 見つからないからと言って、行動しないのもどうかと思ってしまうのは事実——いつでも理想の相手が見つかってもいいように金目の物はちゃんと影の中へと落として蓄えておかなくては……


 だから、僕は素材を漁ってるのである。



「そういえば、冒険譚には14階層に秘密のエリアに続く隠し通路があるって読んだことがあるな。ここは1つ、探しに行ってみますか」



 僕の知識から……1つ思い出したことがあった。確か14階層には素材高値の可能性があるモンスターが出没する隠しエリアに続く道があったことを思い出した。

 僕のレベルはまだまだひよっこだ。高層階に登って素材を漁る事は叶わないから、現状の僕でも訪れることの可能でおあつらえ向きな場所だろう。

 この情報もおそらく僕だけが知る情報だ。ここは1つ——その情報の精査と容易に素材が採取できるかの検証をしようではないか。


 売るのはその後考えよう。


 売る物なければ売れねぇ〜んだから、まずは金になるもん集めないとね。




 





 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ